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リノベ・ジェネレーション・ミュージック プラットフォームとしての音楽

この↓動画の再生ボタンを押して、音楽を流しながらお読みください。なぜこの音楽を選んだのかについては、本文中に出てきます。

仕事柄、多くのミュージシャンのインタヴューをするわけなのだけれど、そんな中で「記事になる」とか「読者に喜んでもらえそう」とかの判断基準と関係ないところで、「個人としての僕」の心に響く名言に出合うことがある。

ジャズ・ミュージシャンにも関わらず、ポーランド国内で最も若者に人気のあるアーティストのひとり、ベース奏者・作曲家のWojtek Mazolewski ヴォイテク・マゾレフスキにインタヴューした時のこと。

彼のクインテットの新作『Polka ポルカ』は、人気DJのHatti Vatti(来日したこともある)らU Know Me Recordsの面々が手掛けたリミックス・ヴァージョンも発売されている。↓
https://uknowme.bandcamp.com/album/wojtek-mazolewski-quintet-polka-remixed

それについて訊いたら、

「『Polka』は本当に自信作で、いろんな可能性のある音楽を作れたと思ったので、もっとたくさんの人に関わってもらって、僕の音楽を入り口にした別のものも作られると面白いと考えたんだ」

と彼は答えた。

僕は昔作曲をしていたことがあって、その時の自分の目標は「編成にしばられないで、いろんな角度から演奏できるような作品」だった。そういう経験があるからかもしれないけれど、ヴォイテクの発言が、僕の中の何かを震わせたのだ。

また、普段田舎のアパートで独りでこもって仕事をすることが多いので、東京や青森でたくさんの仲間と共にイベントをやったりしている知り合いの様子をフェイスブックやツイッターでチラ見して、内心羨ましかったのかもしれない。じゃあ、自分もやればいいじゃん、とは思うけど、そこで腰が上がらないのが僕が僕たる所以なのだけど。

と同時に、僕はかつて自分が書いた記事のことも思い出していた。このnoteに書いている中で、いくつか「当たったな」と思う記事があるのだけど、そのうちの2つが、友人のお店に行った時に軽くインタヴューしたものだ。2つの記事に共通するテーマは「リノベ」。

この2つは、Bar Bossaの林さんにもほめられて「このテーマの連載、読みたいなあ」と言っていただいた。天才・林伸次が言うからには、ここには「金脈」が埋まっているんだと思う。

築70年以上の古民家をリノベ!十和田市のCafe Happy TREE
https://note.mu/horacio/n/n504413f77d76
八戸の新スポットSaule Branche Shinchõ
https://note.mu/horacio/n/ne5ce63744261

さて、この2つのお店で、オーナーである友人たちに話を聴いてて「リノベしてお店を開く時の一番大事なポイントはここかな」と思ったことがあった。それは、

独りきりではできないので、いろんな人が手伝って店づくりに参加する

ということだ。

言わば、開店までの道のりが、自然と人が集まる場になっている。ただ単に単純作業を手伝いに来てくれる人もいれば、水回り、デザインなどなどいろんな「専門技術」を持った人もいる。それぞれのバックボーンが違う人が、一つの目的のために「ゆるく」集まる。

特に、上の記事の2店のような、地方都市でのそれは、地域のコミュニティ再形成に大きな役割を果たすのじゃないだろうか。最近「都会から地方に移り住んだ若者が、そこで古い家などをリノベして店をはじめる」という内容のTV番組を見かけることが多くなったけれど、やっぱりそこにはいろんな人が手伝いに来ている。

今、リノベのお店や家が注目を集めているのは、リノベそのものの面白さ、デザインの良さだけじゃなくて、それが一種のコミュニティになり得る可能性を強く持っているからだと思う。それも、地域の伝統のような、心理的に強制感があるものではなくて、もっとゆるい自発的なコミュニティの。

ヴォイテクの返答を聴いた時、僕は「彼の音楽も、人が集まるコミュニティとして機能するものなんだな」と思った。彼自身、イケメンでバカテクで才能に溢れててカリスマがあるんだけど、彼の音楽の価値は狭い枠の個人を飛び越えたところにあって、それは彼がリミックス・アルバムで試みたような、いろんな人があれこれやる素材としての、言わばプラットフォームとしての存在価値だ。

近年のジャズの流れを見ていても、それぞれのミュージシャンが作っているのはそういう「プラットフォームとしての音楽」なのだと感じる。アンサンブル志向の音楽性もそうだし、自然とジャンル横断的な、ミクスチャーな何かになっている。それらは一人のカリスマが作り出したストーリーの中で役割を果たしているだけでは起こらないもので、言わばもっと「集合知」のようなものなのじゃないかと思う。

こうした「人の巻き込み方」って、現代に生きる世代に特有の何かだと感じている。最近リノベが流行り出して若者がそれに乗っかったんではなくて、そういうコミュニティを作り出せる世代だからこそ、リノベでお店や家を建てる人が続出したのでは。

人を巻き込んで、自分と他人の土俵の境界線を限りなくあいまいにして、いろんな人にどんどん踏み込ませる、そんな音楽を作っている世代は、言ってみればリノベ・ジェネレーションなのだ。

また、この世代の人たちは、これまでその建物や音楽や文化が重ねてきた歴史を全く消してしまうのではなく、うまくその痕跡も混ぜ込んでミクスチャーさせるのがとても巧い。その意味では「過去にあった多様な時間と現在のコミュニティ」としても成立している。積み重ねてきたものへの、アンチでも礼賛でもない俯瞰的な視点があるのもリノベ・ジェネレーションならではかも。

僕がリノベ・ジェネレーションに属するのかどうか、自分ではいまいちよくわからないけれど、僕にはひとつだけ、それに値する考え方がある。

最初に貼った動画で音楽を聴いていただいているのはポーランドのピアニスト、スワヴェク・ヤスクウケの『Moments』という作品だ。ライナーを書いているのは今いちばん売れているジャズ評論家の柳樂光隆さん。
(明日6/21発売です。まさに一家に一枚レベルの傑作です!)
http://www.coreport.jp/catalog/rpoz-10032.html

柳樂さんが執筆するという情報を知って、知人が何人か「何で自分が依頼されないんだと思ってるんじゃない?」と訊いてきたのだけど、はっきり言っておくと、僕にはそういう発想は全然ないのだ。

正直「ポーランド関係は全部オレに仕事回せよな」とかまったく考えていなくて、むしろ、もっともっといろんな人がいろんなことを言ったり書いたりするようになればいいと思っている。だって、それこそが「ポーランド音楽が日本に広まっている」ということなのだから。

実際スワヴェクの『Sea』のあと、さらに『夢の中へ』でライナー執筆のオファーいただいた時も「続けて自分じゃないほうがいいんじゃなかろうか」と思ったし。独り占めしていては永遠に広がらないし、僕はカリスマとか独占企業になるつもりはない。そんなのは、はっきり言ってとてつもなくつまらないことだ。

そういう意味で、僕にとってとても大事な作品を、普段別のフィールド、別のやり方で活躍している僕の友人である柳樂さんが書いてくれることは、むしろ喜ばしいことじゃないかと思うんだけども。もちろん「もし自分が書いたらどういう内容だったかなあ」くらいは考えるけれど。

これからも、彼だけじゃなくてもっともっといろんな人にポーランド音楽のオファーが行けばいいと思う。そうして広がったプラットフォームには、僕自身もさらに乗っかれるわけだし。短期的に見たら他の人にオファー行くのって「仕事取られてる」なのかもだけど、僕はそんなせせこましい世界観で仕事をやってない。

そういう意味では、僕もリノベ・ジェネレーションなのかもしれない。

2014年に『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)という監修本を出したのだけど、時々「そろそろ単著っすか?」と言われる。

単著は確かにステイタスにはなるし、名刺にもなりやすいけれど、どっちかと言うと、もっといろんな書き手が関わる本を企画するほうが面白いと思っている。次出したいと思っているのも、中欧本よりもっとたくさんの人がかかわるコンセプトのものだ。

ちなみにスワヴェクもデザイナーとかを巻き込んで、一つのチーム、コミュニティとしてアルバムづくりをしていて『Sea』『夢の中へ』『Moments』といずれも演奏そのものは独りでやってはいても、彼もまたリノベ・ジェネレーションならではという感じ。

リノベ的コミュニティ、プラットフォームとしての音楽づくりを行う音楽家は、これからますます増えると思うし、その音楽自体ももっともっと面白くなると思っている。だって、いろんな人が関わってどんどん形を変えていくんだもん。予想できない。

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