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書き手としてのルーキーイヤーを振り返る 当初の思惑は?身に着けた武器は? 【2019年5月〜20年7月OWL magazine寄稿記事まとめ】

この記事は「旅とサッカー」をコンセプトとしたウェブ雑誌OWL magazineのコンテンツです。OWL magazineでは、多彩な執筆陣による、アツい・面白い・ためになる記事を、月額700円で月12本程度読むことができます。

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これは、僕がこれまでOWL magazineに書いた文字の数である。

2019年5月に初めて寄稿してから1年と3か月。平均すると月に1万字のペースで書いてきた計算になる。

大河ドラマのようにひとつの物語を紡いできたわけではなく、21本の記事それぞれに違ったストーリーがある。したがって、文字の数だけを合算することに大した意味はない。

それでも、量だけ見れば、優に新書が出せるレベルに到達していたことには、自分事ながら素直に驚いた。

そしてふと、書き手としての軌跡を振り返ってみようと思い立った。

OWL magazineは、ライターの発掘や育成も行う珍しいメディアである。サッカー的に言えば、書き手をスカウトして、「出場機会」を与えてくれる。トライアウト(持ち込み)もある。

僕自身、プロのライターでは勿論ないし、観戦日記もつけていなければ、戦術ブロガーなどでもなかった。しかし、OWL magazineに触発されて書いた1本のnoteをきっかけに、中村さんから「次に書くときは是非OWLで!」と声を掛けてもらい、今に至っている。

そんな数奇な運命でライターとしてデビューしたのだが、この記事では、これまで書いてきたものをまとめ、ルーキーイヤーを振り返りつつ、駆け出しの書き手としてチャレンジしたことや学んだことを開陳しようと思う。

欧州サッカー旅模様

僕は元々、サッカーが好きというよりも浦和レッズが好きだった。埼玉スタジアム2002には行くけれど、それ以外の試合を観に行くことはほとんどなかった。日本代表すら、ワールドカップなどの公式戦を除くと、浦和レッズから選ばれた選手のコンディションを確認するために見るというような調子だった。

そんな僕がもう少し広くサッカーを観るようになったのは、2013年春から2015年夏まで、オーストリアに駐在したことがきっかけだった。2年以上にわたって埼スタに行けなかったので、「今そこにあるサッカー」を見てみようと思った。

オーストリアは決してサッカー大国ではないが、当然国内リーグはある。まずは地元のラピド・ウィーンを観に行くようになった。

お隣のドイツでは、浦和レッズ出身の長谷部誠や安藤梢(フランクフルト)、原口元気や細貝萌(ベルリン)が戦っていた。そこで、週末を使って、試合を観に行った。

そして2015年4月、休暇で訪れたボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにて、思いがけずサッカーを観た。これが、僕の中で旅とサッカーに関するパラダイムシフトが起こった瞬間だった。

このときまで、サッカーのための旅しかしたことがなかっが、これ以降、旅の”ついでに”サッカーを楽しむようになった。

このあたりを書いたのが、OWLに寄稿するきっかけとなった先の記事である。

こうした経緯もあるので、僕にとって旅とサッカーというとまずはヨーロッパであり、第2の故郷オーストリアや、ここ数年訪れる機会の多かったパリなどでの思い出を綴った。

思い出深いアジアの国々

旅の"ついで"にサッカーを楽しむようになると、あることに気づく。

サッカーは、世界の隅々でプレーされている。

サッカーを目的とした旅となると、行き先は国際大会や5大リーグなどになりがちだろうと思う。

しかし実は、旅先を決めてから試合を探しても、結構な確率で見つけることができる。

そんな旅をしたのがカンボジアである。学生時代に関わった国際協力NGOが活動している国であり、これまでも節目節目で訪れていた。そして、5年ぶり4度目の訪問となった2018年9月、アンコール・ワットで知られる町シェムリアップで、日本人オーナー対決のダービーマッチ(アンコールタイガーFCvsソルティーロアンコールFC)を観た。

また、アジアといえばAFCチャンピオンズリーグ(ACL)である。2019年、浦和レッズは2年ぶりのACLを戦い、決勝まで辿り着いた。相手は、2年前と同じ、サウジアラビアの強豪アル・ヒラル。ちょうど観光ビザが解禁されたタイミングでもあり、僕もサウジアラビア遠征に繰り出した。

カンボジアも、サウジアラビアも、どちらも印象深く、心の赴くままに筆を走らせた。その結果、2つの3部作が誕生した。

▼カンボジア3部作

▼サウジアラビア3部作

サッカーを通して、世界を学ぶ

OWL magazineの主題は旅とサッカーだが、実は間口はもっと広い。旅のサッカーのどちらか1つにかすっていれば大抵OKが出る。

その守備範囲の広さの中で、個人的に一番書きたいと思っているシリーズが「サッカーを通して、世界を学ぶ」。

僕は色んな土地を訪れるのが好きだ。見たことのない世界を目にするのは単純に刺激的だ。これまでに訪れたのは40か国ほどだが、どこもとても面白かった。ただ、世界には200近くの国があり、コンプリートするのはかなり難しい。

しかし、自分自身で訪れることが出来なかったとしても、サッカーを通して、世界に触れることが出来る。

例えば、ACL決勝でアル・ヒラルと戦うことが決まると、浦和レッズ公式のSNSアカウントにアラビア語のリプライが溢れた。日本で普通に生活していたらアラビア語に接する機会はほぼない。

実は2017年にも同じ現象が起きていたのたが、なぜサウジアラビア人がツイッターが好きなのか、現地の駐在経験もある友人に、中東情勢とともに語ってもらった。

また今シーズン、浦和レッズにオーストラリアからトーマス・デン選手が加入したが、彼はなんと南スーダンにルーツを持っている。ケニアの首都ナイロビの難民キャンプで生まれ、6歳の頃にオーストラリアに移住したそうだ。

デン選手が来るまで、オーストラリアにスーダン人コミュニティがあるなんて全く知らなかった。そこで、オーストラリアで長年フィールドワークをやられている文化人類学の専門家にコンタクトし、お話を伺った。

どちらもやや"お堅い"内容だけれども、特にデン選手は順調に浦和レッズにフィットしてきていることもあり、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思っている。

なお、まだ次のテーマは決まっていないが、こういった記事はこれからも書いていくつもりだ。

浦和レッズと旅をする

ここまで海外の話ばかりしてきたが、もちろん日本国内でもサッカー旅をしてきた。浦和レッズのアウェイ遠征である。ただ、記事にするほどの熱量を注げる遠征は必ずしも多くはない(試合には勿論全力だが)。

幸いなことに、そんな稀有な遠征が2019年3月にあった。行き先は松本。4年ぶり2度目のJ1を戦う松本山雅の、ホーム開幕戦に乗り込んだ。この松本遠征がOWL magazineでのデビュー作だ。

2019シーズンは松本以外の国内遠征を書くことなく終えたが、シーズンオフに2作目を書いた。2か月以上サッカーのない週末が続いたことに耐え切れず、沖縄キャンプに行ってきたのだ。

キャンプは初めてだったが、FC琉球とのトレーニングマッチもあったし、沖縄という土地もあって、なかなか充実していた。そしてキャンプの旅記事は、ニッチでOWLらしいかなと感じた。

「浦和レッズは文化だ」

浦和レッズについては、旅以外にも書いてきた。

最初はデビューの2日後。欧州チャンピオンズリーグ準決勝でリヴァプールが起こした「アンフィールドの奇跡」がきっかけだった。試合の内容以上に、それを取り巻く空気が素晴らしかった。そして、そこにイングランドと日本の”レッズ”に共通するものを感じた。元々は自分の備忘録として綴っていたのだが、OWLで出してください!とのことで、立て続けに公開した。

また、2019年11月に埼スタで行われたACL決勝第2戦の前には、浦和レッズのチャント集を作ってみた。当日のチケットは完売だったが、もしかすると浦和レッズのサポーターではない人もスタジアムに訪れるかもしれない。そういう人たちに向けて、一緒に戦ってほしいという思いを込めて書いた。

実はこの2作、公開した直後だけではなく、いまだにコンスタントにアクセス数が伸びている。理由は定かではないが、どちらもある種のモチベーションビデオ的に作ったので、そういう使い方をしてくれている人がいるのかもしれない。

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約4か月の中断期間には、OWL magazineのライター仲間で、鹿島アントラーズサポーターの五十嵐メイさんと対談した。こんな特殊な状況でなければ思い付かなかった企画だけど、これまでの激闘の歴史を振り返った。

また、メイさんが担当した後編は、エンタメ感強めの場外戦。事前に宿題も出され、柄にもなくグッズやマスコットなどについて語ってみた。

審判と競技規則を学ぶ

デビュー作を世に出した2019年5月17日。実はこの日、Jリーグにとって大きな事件があった。浦和レッズと湘南ベルマーレの試合での、例の「世紀の大誤審」である。

仲の良い友人たちにライターデビューを報告したら、案の定、「湘南戦について書いて」と言われた。最初はどうしたものかと思ったが、なぜあのような事象が起きてしまったのか、僕自身きちんと知りたかったので、まずは調べてみて、わかったことを書き留めていった。すると、意外とまとまったので、思い切って公開してみた。

それをきっかけに、「審判批評」で知られる石井紘人さんにインタビューする機会を得た(OWL magazine前編集長の澤野さんに繋いでもらった)。審判やVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)との向き合い方、2020年の競技規則の改正のポイントなど、色々とお話を伺ってきた。今年の改正は必ずしも注目されなかったが、サッカーが好きな人なら、読んでおいて損はないと思う。

「文化」としてのサッカーの魅力

石井さんのインタビューでは、競技規則に加えて、公式DVD「Jリーグメモリーズ&アーカイブス」の制作秘話も伺った。1993年に開幕以来、Jリーグで活躍した日本や世界を代表する選手達のスーパープレーをまとめた話題作である。

この中断期間には過去の映像が多々公開されたが、そのおかげで懐かしい記憶を掘り起こすことが出来た。そのひとつが2004年の欧州選手権。イングランドのサッカーが好きな友人に触発されて、初めて本格的に見た欧州サッカー。早朝、空が白んでくる中、オランダ代表のシュートレンジの広さに驚嘆した。

この記憶をきっかけに、2004年のジュビロ磐田戦での長谷部誠のゴール、2005年のイスタンブールの奇跡、2007年のクラブワールドカップでのACミラン戦など、異なる時空間での出来事を結びながら、エッセイを書いてみた。

古い記憶を引っ張り出してきて、ああだこうだ言えるのも「文化」としてのサッカーの魅力である。

その点で見逃すことができないのが「サッカー本大賞」である。2015年には中村慎太郎さんが、2017年には宇都宮徹壱さんが、それぞれ大賞を受賞し、OWLとも浅からぬ縁がある。

2020年の大賞は豊永晋「欧州 旅するフットボール」。個人的にサッカーを絡めて欧州を旅することは多いのだが、この作品は本当に美しかった。

本作の白眉は「レジェンドが生まれるところ」だと思うが、実はこれが「2004年の記憶」をあのようなスタイルで書くきっかけにもなった(言うまでもなく、文章のレベルは月とスッポン)。

「レジェンドが生まれるところ」はスポナビで読めるので、ぜひお薦めしたい。これを無料で公開してしまうなんて、太っ腹にも程がある。

「私、こういう者です」

こうして振り返ると、僕の記事にはいくつかの"ジャンル"があることがわかる。それっぽく整理をするとこんな感じだ↓

①旅
▼海外サッカー旅模様
▼浦和レッズと旅をする

②学び
▼サッカーを通して、世界を学ぶ
▼審判や競技規則を学ぶ

③文化
▼「文化」としてのサッカーの魅力
▼浦和レッズは文化だ

実は、これには密かに「狙っていた」ことがうまく現れている。

何が狙いだったのか?

OWL magazineに寄稿を始めたとき、当面の目標を「名刺」を作ることに定めた。

名刺といっても「OWL magazineライター」と印刷された紙きれが欲しかったわけではない。ひとりのサッカー人として、「ほりけん」とはどんな人間なのかをわかってもらえるような状態を作りたかった。

そのためには、まずは四の五の言わずに数をこなす。そしてある程度溜まったら、それらをまとめてリスト化する。いわゆるポートフォリオ(作品集)というやつだ。

しかし、リストと言っても単なるリンク集では意味がないと思っていた。そのリストから、「ほりけん」というキャラクター、特にサッカーに対する姿勢や考え方などが伝わるようなものであってほしい。

1本1本の記事は情熱を傾けて仕上げ、それを振り返った結果、どんな人物像が浮かび上がるのか。自己分析としても興味があった。

それがこの記事だ。

読者の皆さんがどう感じられたかはわからない。しかし自分自身では、僕という人間、キャラクターが投影されたラインアップになっていると思う。サッカー業界に転職したいなどと考えたことはないが、ひとりのサッカー人として、名刺が手に入った。

書き手としての武器

書き始めてからは、書き手として、複数の武器を持つことを意識していた。

僕は勝手に、OWL magazine内でのポジションは左サイドバックだと思っている。なので、左サイドバックに例えつつ話をしていきたい。

まず、客観的に見て、自分の一番の特徴は何かというと、浦和レッズのサポーターであることだ。世の中に浦和サポは数多いるが、OWL magazineでは僕だけだ。ここなら確実に勝負ができる。

OWLの主題は旅とサッカーなので、これはつまり、浦和レッズのアウェイ遠征を記事にするのが手っ取り早い。これが最初の武器であり、いわば、サイドをえぐってから左足で上げるクロスである。(1作目は浦和レッズの松本遠征)

しかし、これだけではレギュラーとして戦い続けるには心許ない。浦和レッズのアウェイ遠征だけで、定期的な寄稿を続けられるとは全く思っていなかった。

だから、早いうちに武器を増やしたいと考えていた。

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