堀雅昭

歴史ノンフィクション作家でUBE出版の代表をしています。 明治維新から近代史までを中心…

堀雅昭

歴史ノンフィクション作家でUBE出版の代表をしています。 明治維新から近代史までを中心に発掘し、ご紹介させて戴きます。

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「ディープな維新史」シリーズⅡ 靖国神社のルーツ 長州藩の椿八幡宮 歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

靖国神社のルーツが長州藩にあったことは、東京招魂社を発議した大村益次郎が長州人であったのみならず、初代宮司を務めた青山清も萩の椿八幡宮の宮司であったことから浮かび上がる。 萩の椿八幡宮は、藩政期に藩主・毛利家の庇護を受けていた。 毛利家と安芸国から一緒に長州に入った青山大宮司家初代・青山左近=青山元親が記した椿八幡宮の由来記「椿社記并御判物写」(山口県文書館蔵「毛利家文庫」)が今も残る。 それによると八幡宮としては鎌倉時代の寛元年間(1243年~1247年)から始まっ

    • 『セールスマンの死』―松前了嗣追悼―作家◉田月隆治(山口市在住)

      墓場に現れたセールスマン―これが二人の始まりであった。   二〇一一年五月六日。私は山口の生家におり、翌日の帰京を前に山間にある墓地にきていた。掃除を済ませた処で、ふと下の方に目をやると、三〇代後半か、童顔、背広姿の男が、カバンを提げてこちらを見上げているではないか。一体、何? ひょっとして墓石のセールス? ……  狭い急坂をようやくに上がってきて言うには、各地を転戦、維新を勝ち取りながら、戦後の処遇に抗議したのを弾圧され、処刑された奇兵隊戦士の墓がここにあるというの

      • 宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ⑥

        中原中也の「思ひ出」-煉瓦工場への道のり ⑥れんがは古里遺産  話をれんがに戻そう。厚狭郡厚東村棚井(1954年に宇部市に編入合併)出身の父謙助(1876~1928年)が営んだ中原医院、その中也の生家跡には、赤みを帯びた塀が今も垣間見える。  謙助が幼い日の中也を連れて、土地勘のある地元の海辺を歩いたと考えられないだろうか。その記憶を基に「思ひ出」を書いたとしても、飛躍した想像ではない。  宇部市教育委員会教育次長を務めた宮本誠さん(2008年死去)が、厚東郷土史研究会

        • 宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ⑤

          ⑤見えてきた確信  詩「思ひ出」のモデルを想定する現場。文学界に発表した1936年8月より2年前の34年8月25日、湯田に帰郷中の中也が東京の友人安原喜弘に宛てた書簡からヒントを得た。400字詰め原稿用紙2枚半(約1000字)ほどである。その2か月後に長男文也(1936年11月死去)が誕生するわけで、ポジティブな心の動きが読み取れる。  書き出し部分には「甲子園がある間は毎日聞いていました」。ラジオ放送である。「甲子園」とは全国高校野球選手権大会(夏)の前身、全国中学優勝大

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        「ディープな維新史」シリーズⅡ 靖国神社のルーツ 長州藩の椿八幡宮 歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ④

          ④〝大発見〟も束の間 詩「思ひ出」に出てくる「煉瓦干されて赫々してゐた」は、天日干しをする桃色れんがか? 焼成する赤れんがのことか? それを解き明かすための東見初、村松、丸尾といった固有名詞は詩の中に出てこない。いずれにしても中也が宇部地域の海辺を歩き、れんが工場をモデルにして書いた可能性が高いと考えるのが妥当だ。  今回のエッセイでは、半世紀前に購入した「中原中也詩集」(河上徹太郎編・角川文庫)と、古本屋で入手した1963年発行の「中原中也全集」(小林秀雄、河上徹太郎、大

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ④

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ③

          ③急浮上する赤れんが 「思ひ出」を何度も読み返していると気になるフレーズに立ち止まるのだ。3連目の「煉瓦干されて赫々(あかあか)してゐた」の「赫々」の文字が引っかかる。光線の加減にいくら左右されるといっても「赤色」が「桃色」に見えるはずはない。  ならば、古い赤れんが(以降「赤れんが」と表記)になる。桃色れんが路線で突き進んできただけに、気持ちが一気に頓挫(とんざ)してしまった。振り出しに戻り、取材をリセットしなければならない。中也の「煉瓦工場」のれんがを、「桃色れんがあり

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ③

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ②

          中原中也の「思ひ出」-煉瓦工場への道のり ②桃色れんがの落とし穴 れんが工場で生産したのは桃色れんがだと想定して2021年10月から取材を開始した。その1か月前の9月には、壁面に桃色れんがを模した宇部市庁舎が完成し、れんがに対する市民の意識が高まっていた。グッドタイミングである。  宇部産業史(1953年、渡辺翁文化協会・俵田明編)は図書館に行けば読めるけれど、じっくりページを捲(めく)りたい。インターネットで古書店から取り寄せた。れんがの記述ページがあるかどうかを探した

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ②

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ➀

          中原中也の「思ひ出」-煉瓦工場への道のり ①きっかけは立ち話  大学時代のボクは詩人気取りで、上衣の右ポケットに中原中也(1907~37年)、左ポケットに1958年にノーベル文学賞候補者となった西脇順三郎(1894~1982年)の詩集(文庫本)をそれぞれ忍び込ませ、エセ文学青年ぶって街やキャンパスを闊歩(かっぽ)していた。文芸サークルの誘いにも断っていた。サークルを上から目線で見ていたわけではない。  メンバーはいずれも文学や法学のつわもの揃い。文学に無縁の農学専攻のこの

          宇部詩人◉永冨衛さんシリーズ➀

          宇部詩人◉永冨衛さんが語る 

          中原中也の母宇部市床波2丁目の和田喜子(ひさこ)さん(81)は、詩人中原中也の母フクさん(1980年死去、享年101)に1963年から66年までの3年間、茶道を教わった。  和田さん(旧姓宮原)は山口市出身。明治生まれの母親ハナ子さん(1988年死去、享年77)は山口高等女学校(現山口高校)卒。昔では珍しい職業婦人である。俳句も詠んだ。同じ信教者同士のフクさんとはもともと懇意な間柄だった。三姉妹の次女の和田さんは嫁入り修行にと母親に勧められて、長姉と共にフクさんに茶道を学ん

          宇部詩人◉永冨衛さんが語る 

          シン・エヴァの巨匠「庵野秀明」と宇部

          シン・エヴァンゲリオンでヒットしたアニメ興行師・庵野秀明監督は、山口県宇部市の出身である。 庵野監督が子供時代を過ごした木造アパート「明光荘」が、シン・エヴァのラストシーンに登場する宇部新川駅近くの西中町1丁目に残っている。 そこが、かつて上町と呼ばれていたのを私が知っているのは、すぐ前の駐車場の空地に、戦前まで私の祖父・堀磨の屋敷があったからだ。 私は祖母に連れられ、子供の頃に、よくその界隈を歩いた。 大分県直入郡宮砥村(現、竹田市の一部)の村長(堀頼彦)の2男として明

          シン・エヴァの巨匠「庵野秀明」と宇部

          言論と暴力。ー島田雅彦氏の「暗殺が成功して良かった」発言を考えるー Heimat作家・堀雅昭

          夕刊フジ系「zakzak」によれば、作家の島田雅彦が安倍元首相の「暗殺良かった」などと発言したことで、いわゆるネット系右派ジャーナリストの有本香氏や同じく門田隆将氏、文芸評論家の小川榮太郎氏、弁護士の野村修也氏らから強い異議申し立があったという。その異議申し立てを要約すれば以下となる。 有田氏…「(リベラルは)選挙や政策論争に勝てず、支持を失っただけなのに、『(安倍氏が)殺されて良かった』というのは恐ろしい話だ」 門田氏…「〝目的が正しければ手段は正当化される〟が左翼の論

          言論と暴力。ー島田雅彦氏の「暗殺が成功して良かった」発言を考えるー Heimat作家・堀雅昭

          シン・仮面ライダー公開・その後。『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』刊行の後日談 ―仮面ライダー神社の発見—

          ◉『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』の出版直木賞作家・古川薫、〈男はつらいよ〉シリーズでヒットした映画監督・山田洋次、エヴァンゲリオンシリーズで一世を風靡したアニメ興行師・庵野秀明ら、山口県宇部市出ゆかりの3人の表現者たちと、彼らの作品の源流を地方からあぶり出す『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』を3月半ばに出版した。 版元は宇部市制100周年を記念して宇部市とコラボで立ち上げた宇部市制出版企画実行委員会から、出版部門を独立させる形で立ち上げたUBE出版である。

          シン・仮面ライダー公開・その後。『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』刊行の後日談 ―仮面ライダー神社の発見—

          『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者 ー古川薫・山田洋次・庵野秀明ー』がUBE出版からついに刊行!

          庵野秀明の故郷・山口県宇部市のUBE出版からこれまでにない人物群評伝『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』が堂々登場! 直木賞作家・古川薫の『君死に給ふことなかれ』、映画監督・山田洋次の『男はつらいよ』シリーズ、アニメ興行師・庵野秀明の『シン・エヴァンゲリオン』の原風景を、巨匠たちが生きた地から炙り出す渾身の力作! 作品に投影された知られざる風景とは。隠されたメッセージとは…。 語られなかった封印がいま解かれる。 巻末に日本画家・馬場良治のインタビューを収録。 関連マップ付

          『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者 ー古川薫・山田洋次・庵野秀明ー』がUBE出版からついに刊行!

          岸信介と統一教会〈邪教に毒された偽装保守〉 歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

          安倍元首相が奈良市の近鉄・大和西大寺駅近くで狙撃され、落命したのが令和4(2022)年7月8日であった。 容疑者の山上徹也氏が暗殺に踏み切った理由は、母親の統一教会への傾倒による家族の破綻にあった。自らの人生が崩壊したことで、自死を覚悟して蹶起したように見える。 私怨とはいえ、結果的に「政治テロ」であった。 したがってその原因が、問題を抱えていたカルト宗教であったことかた、政治家と統一教会の関係がメディアでも、問題視され始めたのである。 こうした延長線上に、事件か

          岸信介と統一教会〈邪教に毒された偽装保守〉 歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

          テロリズムと三島由紀夫       歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

          「暗殺と民主主義」で考える山上徹也談社の「現代ビジネス」が2022年7月24日に「【安倍元首相銃撃事件】「山上徹也容疑者に寄せられた〈賛同の声〉と〈模倣犯〉の危険性」と題して、興味深い記事を載せていた。 書いたのはフリーライターの奥窪優木氏である。 奥窪氏は、事件後に山上徹也容疑者に対して、多くの賞賛の声がネット上にあふれているのを目にして躊躇したようだ。むろん私も、その渦中にいたので、それは目にした。 驚いたのは、立命館大学に安倍さんの暗殺を賞賛するビラまで貼られたこ

          テロリズムと三島由紀夫       歴史ノンフィクション作家 堀雅昭

          山上徹也という迷宮〈不可解な刺客の「意識の変容」〉歴史ノンフィクション作家・堀 雅昭

          令和4(2022)年7月8日のお昼前に、安倍晋三元首相は、奈良市の近鉄・大和西大寺駅の北口近くの交差点で、手製の銃で暗殺された。 狙撃犯は同市在住の元海上自衛隊員の山上徹也容疑者、41歳である。 狙撃の風景は何パターンかのYouTubeで流れてきた。 私が何度も繰り返し見たのは、安倍さんがほぼ正面から映った映像だった。 安倍さんは奈良選挙区の自民現職の佐藤啓さんを応援していた。 「彼は、できない理由を考えるのではなく…」 次の瞬間、爆音と共に白煙が立ち上った。 観

          山上徹也という迷宮〈不可解な刺客の「意識の変容」〉歴史ノンフィクション作家・堀 雅昭