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「 竪坑櫓 」

この漢字を見て、すっと(たてこうやぐら)と読めるのは、ある程度「炭鉱」に興味を持っているヒトだけでしょう・・。

「三菱高島炭鉱端島鉱業所」のあった端島が軍艦島と呼ばれるようになった要因のひとつが、この竪坑櫓であることは、言うまでもないのですが、そもそも何故このような櫓があるのでしょうか?

岸壁を壊すような荒波や強風が吹き荒れるこの場所に、このような高さ47mもある櫓を建設すること自体が無謀のようにも思えます。

これは軍艦島にあった第2竪坑櫓です。この櫓の下には地底600mまで続く竪坑(たて穴)があります。つまり海底坑道へのメインの入り口です。
櫓の上部にフライホイールと呼ばれる大きな輪っかがついており、地上部からワイヤーでケージと呼ばれるエレベーターを昇降させています。


多くの場合、炭鉱の昇降口はこのような櫓を持つ「竪坑」か、櫓を持たない「斜坑(しゃこう)」に分かれます。
それは下にある石炭の層の特徴や地形、また鉱区を所持している経営規模にも依るところが大きいようです。

乱暴な?言い方をすれば、端島や高島、それに筑豊などにあった三井・三菱系など経営規模の大きな炭鉱ほど大きな櫓もあった・・と言えるようです。

当然、炭鉱のシンボル的な役割を果たしました。また炭鉱は基本24時間フル稼働していましたので、炭鉱住宅に住む人達にとっては、ケージが昇降する音が、まさに「ヤマ(鉱場)の心臓の鼓動」だったわけです。

だからといって、炭鉱会社の威容を示すために、高く造られた・・・というわけではありません。
ワイヤーの切断やケージの脱落といった事故を防ぐために、物理的に研究され、設計されていたのです。


まずAのように櫓の高さが低いと、ケージが落下する力に対し、ホイールがうまく回転せずに、ワイヤーがホイールの表面を滑り落ちてしまいます。つまり、ケージにうまくブレーキがかからず、ワイヤーに対するダメージも大きくなってしまいます。


Bのように、ワイヤーを巻き取る場所(巻座)の位置と櫓の上のホイールの位置が適正であると、より効率よくホイールが回転し、ケージにも適正なブレーキがかかることになります。

近代炭鉱の母国である英国の物語に、有名な「名犬ラッシー」がありますね。・・・・物語では、炭鉱に勤めていたお父さんの鉱山が出炭不良になり、生活に困窮したがゆえにラッシーがお金持ちに売られたわけですが。
この物語の舞台にも、竪坑櫓とフライホイール、そして炭鉱住宅なども見られます・・・。
ちなみに日本における近代炭鉱の発祥となったのは、岩崎弥太郎が買収した高島炭鉱の北渓井坑(ほっけいせいこう)で、スコットランド人であったトーマス・グラバーが技術的な援助をしています。

ある時、軍艦島ツアーに参加していたイングランド人の若者に、この「ラッシーと炭鉱町」の話をすると、「ラッシーのことを話すには、自分は、若すぎるぜ!?」と返ってきました。




旧三池炭鉱宮浦坑竪坑櫓


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