ボーイッシュの現実逃避
時雨の日、わたしを助けてくれた人は誰なの?
あの日私は無意識のうちに家を飛び出して、
どこだかわからない川辺を歩いたわ。
わたし、いつでも泳ぎたい人だったから、
服のまま飛び込んだ。
そしたらすぐに急流のところに来てしまって・・・川が私をとりまくじゃない。
私は泳ぎが得意だったはずなのに、
このときばかりはお手上げ。
でも死ぬわけにいかないから必死で
「マントラ」唱えた。
そしたらね、ちょうどカヌーをしていた人が
いて、その人うまく波に乗ってた。
その人私を見るなり(たぶん)その鍛え上げられた筋肉をこれまでにないと思うほど
血管がふるふると浮き出るほどに使って、
その狭き船に引き上げて下さったんだよね。
引き上げられたとき、意識が朦朧としていた
けれど・・これだけは鮮明に覚えてる。
視界はかすんでいたけれど、その人私を救った直後に、かすかに笑ったの。
白い歯を見せて。
助かってよかったね、っていう笑顔ではなくて、ははは、というなにか可笑しいことがあったときのように笑った。
信じられないでしょ?
でも「助けてくれた人だからいい人なんだ。」「本当に、助かってよかった」「ありがとう」って、感謝の気持ちがあふれ出したんだ。
結局わたし、ちょっとおぼれたくらいだったから、体力はそれほど消耗していなくて、
そのまま家に帰ってこれたんだけども。
今あの人どうしてるかな?
まだカヌーやっているかな?
またあの川に行けば会えるのかもしれないけど・・連絡先教えてもらえばよかった。
お礼にもいけやしない。
でもあれからどうにもその川への行き方が
分からないから、もう二度といけないかも。
あの日はほんと私どうかしてた。
ああ、おそろしい。
だからわたしは・・・時雨の日はきまって
おとなしく家にいるようにしているのよ。
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