風さん

日々触れた柔らかな風の声を、文字に変えて綴りました。 Ameba;星)☆

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キャラバンからはぐれて 他

【キャラバンからはぐれて】 「太陽は僕を見棄てたのかな?」 君は、日が落ちて急速に冷えて行く大気から身を守るように、毛布を被りながら呟いた。 せつなさが闇に紛れて、ヒタヒタと君を冷たく責め立てる。 「駱駝の睫毛が好きだ。」 君はごく薄く色を表した月に語りかけた。 暫くすると、空は漆黒のその皮膚から無数の光を放ち始める。 それは、遥か彼方から気の遠くなるほどの旅を経て君に届くために、疲れはてチラチラと息も絶え絶えではあるけれど、その息は彼の溜息を誘う位綺麗だったと、君

    • アメリカが好きだった

      高校生の頃、アメリカが好きだった。 おそらく、夏が好きだという理由とさほど変わらない理由で好きだった。 朝の陽光が渇いた匂いと共にやって来る。 何者でもない自分自身が、可能性に満ちてそのひかりを受け、そして自転車を漕ぐ。 12歳から22歳までに思い描く未来は、アメリカへのあこがれに似て、夏の朝の色がした。 初めてアメリカに行ったのは、21歳の夏休みだった。 留学中の高校の同級生を訪ね、1ヶ月足らず滞在する計画を実行したのだ。 渡航費用、パスポート、旅券、全ての準備を調

      • 母性とは何かを学んだ一年 2022

        2022年も間もなく終わろうとしている。 今年、仕事に必要な資料として母子の関係について調べはじめた。 そんな時、ネット動画の猿の母子、特に育児放棄と虐待に見紛う物に衝撃を受け、暫く消化出来ずに呆然としてしまった。 人は個々を生きて、感じるものの形も色も匂いさえ違うのだから、動物しかり植物しかりその数だけの生命の表現はあるだろう。ましては、自然界の厳しさの真ん中で生を営む厳しさを前に、人間は弱体らしく彼等の逞しさに敬意を覚えるべきなのかも知れない。 背景も歴史も日々の空

        • 針葉樹が見上げる静寂

          「彼に逢いたいよね。」 彼女はそう言った。 背が高い彼女の視線は、珍しく真っ直ぐ空をとらえていた。 「本当に逢いたい。」 君は座ったまま膝を見て答える。  彼が見ているであろう景色の連なりを、 Landと言うタイトルの映画で君は観たばかりだった。  君は、彼女と彼に逢いに行った旅を思い出していた。 社会に出たばかりの三人は、違う景色の中で生きていた。アメリカは果てしなく広がり、彼はその中に収まっていたと、彼女が君に呟いたことがあった。 夢に微かに触れつつも、曖昧でとらえ

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        キャラバンからはぐれて 他

          「彼の中の宇宙」

          「火星でウランを掘削していたんだよ。」 彼は真っ直ぐにその人を見て、そう言った。 「重機の搬送は大変でしたか?」 その人は返した言葉を、すぐに後悔したけれど彼は微笑みながら、 「私はアンドロメダの総長だったからね、簡単な事だったよ。」 と語るのだった。 彼は物語の中で春を迎え、夏の陽射しを楽しんだ。 落葉をサクサクと踏みしめ、彼の宇宙は拡がり初雪を見上げて襟元を左手で寄せる。 時折差し込んでくる長い陽光に眼を細めながら、彼は確かに異星での出来事を懐かしむのだった。 その

          「彼の中の宇宙」

          「静かな語りべ」

           風の穏やかな休日に、彼女は思い立って車を走らせた。 「もう遅いかしら」 ずっとタイミングを外していた、黃葉の並樹を観たかったのだ。 信号待ちにカサカサと音がした。 落葉にしては、強く主張するような不思議な音がもう一度聞こえ、枯れ葉がアスファルトを転がるのを彼女は見る。 「楓」 それは、掌を僅かに窄める仕草に似ていて、確かに枯れていた。風に背中を押されるように、しかし面白そうに転がっていた。 「桜の花びらみたい」 彼女は呟いた。 桜の花びらはひらひらと舞い落ちてもなお

          「静かな語りべ」

          「猫がおしえてくれたこと」

          2017年のトルコ映画「猫がおしえてくれたこと」。 イスタンブールの猫の写真や動画は何度も見てはいた。 猫だけではなく、動植物、風達にいつも感じている。 人として知り得る全てを超えた、はるか多くを知っているのだろうと。 例えば、雪が降る数秒前の空気の音色。 街が寝静まった後の星の瞬き。 樹を揺らす風の言い訳。 イスタンブールの人々は語る。 猫達は、森羅万象を創造した神の使いの如く彼等を暖め、緩やかに命の道を歩む力を授けたのだと。 人が迷い戸惑い、膝を抱えてうずくまるしかな

          「猫がおしえてくれたこと」

          緑の海原

          こんな夏は初めてだ。 陽の粒子が戯れた海を見ようと、向かった先は北だった。 今朝、あまりにも空が情けない表情で君を咎めたから? それとも、記憶の中のそよぐ稲穂の羽音が、君を誘ったからなのかな? 泣きたくて、泣けない空の色を見上げ、 『君の碧さが恋しい』 と声にしないまま呟いた。 稜線を曇らせた里山に、緑の海原が波を送っている。 絶え間なく、少しさみしげな頬を持ちながら。 君は睫毛でそれを遮りながら、海を手繰り寄せた。 砂浜を歩く。 夥しい数の砂が語りかけ

          緑の海原

          パキパキと時を折りながら

          朝の音は少年の肩に響いた。 何かの予感が樹々の葉に届く頃、 5月にはサラサラと乾いた声で現れた風が、 今はパキパキと時を折りながら、太陽を迎え入れる。 準備はしないさ。 時は汗を流しながら、風に促されて瞬く間に去ってしまうのだから。 けれども、せつなさへの慰めは、 芯に絶え絶えとたどり着き、 少年は幾ばくかの和らぎを、 肩に感じる筈だ。 パキパキともう太陽は真上にいるよ。

          パキパキと時を折りながら

          向日葵のように

          笑っても良いのだよ そう心が震えながら呟いた朝に、 君は笑った 人に言えない鬱積は振り払えもしないだろうに こんなに晴れた朝だもの、 笑いもするさとそんなふうに君が笑った 朝の空は、 そりゃそうだよなと、 君の哀しみさえ受け止めて、 陽を降らす 優しいものはこんなにもすぐ傍にあるよ、 と 君の背中に音のない声をかけた 星(☆

          向日葵のように

          夜に咲く花

          時に、色を持ちそれは開く 意識下でなのか 覚醒時のなごりなのか 或いは前世の記憶なのか 希望なのか 絶望なのか 願望なのか 夢 目覚めると 何時も 何処か懐かしい もう逢えない人に逢えた時などは、 次はあるのだろうか そんな期待に胸が1、2度温かくなる 何処かで空気が凍りついているような、そんな夜でも 星(☆

          夜に咲く花

          時という硝子の扉

          毎秒、硝子の扉を開ける 時に蹴破りながら、 君は傷んだ ほんの偶然が硝子を割らずに開くこともある おびただしい扉が永遠に続くが、 皆透明であり、声も持たず導きもしない 君は立ち尽くし そして、自らの迷いを開いて行く キラキラと光を透かせば、 君は当然高揚するだろう 同じ形を持たない時の硝子は、 少しばかり君を弄ぶ 儘ならない行く手は、 君を試しもするだろうね けれど、時々見せる君の微笑みが硝子に移る時、 私は君以上に笑むだろうね 君は無垢な時に対峙しているん

          時という硝子の扉

          三叉路

          勢いを持って駆けてきた彼は、 立ち止まる。 分かれ道のどれを選ぶか? 彼は振り向くだろうか? 勿論、踵を返し戻る道もあるのだろう。 時の中なら、どうか? 前に進むしかない。 振り向くのは、自分を広げ改めて見る行為だ。 哀愁に包まれた朝霧のように、そこは愛しい。 また、鮮明な輪郭を残す哀しみもある。 まだ見ぬ先は、絶えず肩肘を張り彼の横顔を強張らせるだろう。 時に、足元で軽快なリズムなど刻み、揚々と胸躍る瞬間もきっとある。 三叉路は冬の真ん中のように、 冷え

          天使の羽根

          星降る夜に舞う 君は孤独を知っているの? 窓から少女が問う 天使は、タンポポに今年初めて止まった紋白蝶のように、微笑んだ 夜道を急ぐ少年は、ひとひらの小さな羽根を手に受けた それは、彼の悴んだ掌で幻のように消えるのだけれど、 わずかにミルクの匂いがした 暗闇は深く、 時にドクドクと躰を巡る紅い血を感じる位、 強ばって高鳴る鼓動が更に不安にさせるけれど、 空には孤独を知っている星が動くことなく見つめている なにを? 蒼みを帯びて、けれども温かい天使の羽根を

          天使の羽根

          ある日・・・から始まる物語

          ある日、彼女は沢に居た 7月始めの水量に恵まれたその場所の、 ちょうど良い岩に腰掛けて、憂いを溜めた横顔で流れを追いかけた 私が遠くから呼ぶと、彼女は横顔の影を弾いて微笑んだ ある日、彼女は小さな小さな島を目指して、ひたすら泳いでいた 海に表情を委ねる時にだけ、涙を流しながら ある日、彼女は思い立ってバスに乗った 朝陽が車内に満ちるころ、最後尾の座席で彼女の涙は乾き、 眩しそうに外の景色を見た ある日、私はその時々の哀しみからすくっと立ち上がる、その柔らかでしな

          ある日・・・から始まる物語

          予期せぬ出来事

          ひとつの道を歩いていても、 避けられない岩が道を塞ぐかもしれない その先には雨上がりの虹が、この世のものとは思えない美しさで架かっていようとも 君が胸をざわつかせた瞬間に、 その虹は余韻だけを申し訳なさそうに残し、去る 傍らに白い百合の蕾が、地面を見つめている 引き返すか否か 予期せぬ出来事を潜りなから君が惑い、 そして君はまた歩く とぼとぼと、時に揚々と 消えた虹にぶら下がって遊んでいた天使たちが、 そんな君を見ている 大丈夫 きっと大丈夫よ と見つめてい

          予期せぬ出来事