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夏の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part7

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

夏の文字 「遠」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「夏の星々」の応募期間は7月31日をもって終了しました!
(part1~のリンクも文頭・文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(7月30日〜31日16時以前)

7月31日は応募作多数のため後日に分割して掲載します。

投稿日時が新しいものから表示されます。

7月31日(16時以前)

おさないもみ(サイトからの投稿)
随分と遠くまで来てしまった。距離も心も身体も。子どもの頃夏休みを過ごしていた海沿いの祖父母の家がなくなったと母に聞いた。海を見下ろすお墓や温泉の匂い、精霊流しの爆竹の音……そうかあの家はもうないんだ……。今になって思うあの頃の素晴らしさ。戻りたいなぁ……涙が一筋頬を伝った。

トガシ @Togashi_Design
雲は雨を連れて、見る見る遠くへ流れて行く。雲間から陽が射し、あちこちにできた水溜まりは、千切れた空を映し出している。空を潰さないように、そろりそろりと歩く。もう少ししたら、空を繋ぎ合わせて青く塗ろう。雨が降っている間、じっくり寝かせた青は、きっと目が覚めるように鮮やかに違いない。

藤田ナツミ(サイトからの投稿)
夏の夜空で生まれて、一瞬で儚く散った花火の光は、遥か遠く手の届かない天できらめく星に恋をした。夏の熱気に溶けて消える花火の光とは違い、いつまでも輝き続ける美しい星。花火の光は、生まれ変わったら自分も星になりたいと願った。一目惚れした星が、自分の数秒後に消えた流れ星だとは知らずに。

可惜夜(サイトからの投稿)
「なんで自殺するの?」
前々から抱いていた疑問だった。どうせいつかは死ぬのに。生きたら幸せになれるかもなのに。目の前のあいつは言わんとすることを察したらしい。うーんと頭を掻いた。
「死までが遠すぎるから」
返された言葉。それに含まれた感情を理解できない僕に、幸せだねと彼が笑った。

可惜夜(サイトからの投稿)
「短かった?」
産まれたてホヤホヤ青二才の僕にとって、死はとても遠い。僕はまだ、一年が早く過ぎ去る感覚を知らない。大人たちが言う「人生はあっという間」が分からない。でも、彼は違ったようだ。頷く彼にそう思っていると、彼が痩せた顔で笑った。
「君は遠くていいんだよ。長い今を楽しんで」

慈セレン @i_mis_se_ren
期限を決めずに遠くまで旅行に行きたい、と言っていた主人は、ある日突然、病院に運ばれたと思ったら、本当に、永遠に戻る事が出来ないくらい遠くに逝ってしまった。離れる前は喧嘩ばかりで、わざと遠くのスーパーへ、パートに出ていた私も、今では胡瓜の馬と茄子の牛を作り、主人の事を想っている。

慈セレン @i_mis_se_ren
近くで花火の音が聞こえて、遠くであの子の泣き叫ぶ声が聴こえた。今日はシッターが面倒を見てくれるから、その間、多くの人々が花火を楽しんでいるであろう夜に、私は一瞬でも多く眠らなければならない。どうか良い母になれますように、いつかあの子の隣で花火を眺められますように、と祈りながら。

あおてあろあ(サイトからの投稿)
「遠くに海亀が見える。」
岬の展望台から望遠鏡を覗くあいつが呟いた。懲りずに嘘を吐きながら笑顔でこっちを振り向く。深夜いきなり連れ出され無駄な話ばかり。暗くて見えるわけがないのに。
「ほんとだよ、ウミガメ座が見える。」
遠くに目をやるが、あいつの笑みを見るとその必要は無さそうだ。

えすせれ(サイトからの投稿)
遠くに見える人々の喧騒、夜空に瞬く星々。微かに吹いた風は僕の髪の毛をふわりと揺らし、静かな平和に僕を誘う。過去が脳内を駆け巡り、淡い思い出達が強く実体化される。明日はこれを感じれるだろうか。次こそは彼女と共に味わえるだろうか。そう思いにふける夜、朝日が昇れば僕は手術台に眠る。

waka @HummingDays
折角だからとお祭りの日に合わせ久しぶりに地元に帰った。
綺麗になった町並みはお祭りの雰囲気とあいまって何処か遠くの知らない町に見えた。
隣で歩く貴方は昼間の緊張が嘘のようにネクタイを緩めつつ軽快な足取りで屋台を見て回る。
「来年はゆっくり見たいな。」
貴方と地元に帰れるなら幸せ。

岡田 夢生 @_yuu_okada
ドライブがてら車を走らせ、少し遠くまで来た。何かに導かれ、気がつけば自分の生まれ育った町まで来ていた。車を下りると、ここで過ごした日々がぶわっと溢れてくる。くだらないことで笑って泣いた。様々な思い出が蘇る。でももう、ここには誰もいない。お盆に近い夏の日。涙が零れて地面を濡らした。

岡田 夢生 @_yuu_okada
遠くまで続く青い空。夏の雲はまるで手が届きそうなほど近くに見える。掴むことは出来ないと分かっていても、私は思わず空に向かって、手を伸ばしてみる。その手は空気を掴むだけ。まるであの人みたいだと思った。こんなにも近くにいるのに、私はあの人の手を掴むことが出来ない。ただ泣きたくなった。

毘髦灯 @r_d_saeru
「大舟に乗ったつもりで安心してください。大丈夫、最後はうまくいきますから。」
胡散臭いと思っていたが、結局乗り込んでしまったのが運の尽き。舟は泥と化し視界は濡羽色に満たされる。宇宙のひづみは、空気が無くとも伝達される遠音。私は慣れない浮遊感に思った。
鴉、ではない。
鴎、なのかと。

百苺(サイトからの投稿)
大阪城天守閣に登った。お堀と緑と桜。遠くまでビル、ビル、高層ビル。遠い昔、淀殿はどんな景色を見ていたのだろう。東には生駒山。青い空に白い雲。きっと同じ雲を見ていたのだろうと胸が熱くなった。その夜、私は淀殿の夢を見た。空気が澄み空はもっと青く雲は白い。遠い昔と今、全てが違っていた。

鳥生千颯(サイトからの投稿)
遠火の直火。どっちなんだよ。意味わかんねえよ。ちゃんと教えろよ。これじゃまた前回、前
々回、前々々回と同じように失敗するだろ。お前の教え方が悪いんだよ。大体、男のための料理教室で、なんで講師がババアなんだよ。若い美人を期待したのに「料理には、あなたの心が現れます」あっ、焦げたっ!

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
海から8キロと遠い住吉大社。海の音も潮の香もないが、昔は海辺にあった。その西側の我が家はかつて海だったのだ。航海の守護神が祀られ、古くは遣隋使や遣唐使が無事を祈った。側にある住吉高燈篭は海が遠くなかった証拠だ。神社の常夜灯であると同時に、日本最古の灯台として海を照らしていたのだ。

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
お皿に一つ残る遠野まんじゅう。気のない振りをしながら、遠目でみんな狙っている。岩手に住む遠縁、紫遠兄さんから頂いたお土産だが、最後の一つは遠慮のかたまりで誰も取らない。遠野は遠方なのでまだ行ったことがない。星空が遠くまで澄んで見えるらしいが、遠くない未来、望遠鏡を持って訪れたい。

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
遠足で行った遊園地。小一の私には遠出だったが、当時の家から遠くない所にあった。遠い昔に廃園になったらしいが、ティーカップの遠心力でフラフラになったことさえ懐かしい。父の転勤で遠方に引っ越し、故郷と疎遠になった。初恋の高遠くんとの再会はまもなく。私は同窓会の案内ハガキを握りしめる。

朱音ゆうひ(サイトからの投稿)
 星を背負ったパパがカメラを撫でていた、遠い日を思い出す。
 
「あのう、キッズチャンネルに出てたリリカちゃんとママ?」
 
 ママは怖い気配になった。花火を見ずに帰るって。

「一家仲良しの動画、好きだったよ」

 私も好きだった。でも、新しい動画はもう出ない。

城戸祐介(サイトからの投稿)
 広遠な夜空に満ちる星粒へ、望遠鏡は今日も詫びていた。君たちを神々と見立てることを許してほしい、その遠々しい絶域を覗く罪を罰してほしい。レンズに滴る雨粒は、哀れな地神の涙のように透明な球面を彩る。そして尽きることのない切望は、果てなき夜の暗闇が主神の遠雷に裂かれるのを知っていた。

Yohクモハ @YohKumoha
久遠の郷愁を追いゆくもの、と呟く横顔を平手で張り倒す。文学くずれのど阿呆め! テメエなんぞ私から捨ててやる。浴衣の秋茜がくるりと回る。紅の鼻緒がきゅいと鳴く。さては先の夏祭り、声をかけてきたとはそういう所存でございましたか。一年限りの逢瀬にはさせませんと、向きかえり袖引っ掴む夏。

いまえだななこ @na2na1ko6
ねえ美沙。ゆうちゃんには「ばあばは遠くへ行った」なんて言わないのよ。死んだとちゃんと伝えなさい。私があの子にできる事なんて、ワガママを聞くのと別れを経験させるくらいしかないんだから。哀しんだ後は前を向かせてあげてね。大事な仕事よ。
さあゆうちゃんを呼んで。命の限りハグしなきゃ。

鳥生千颯(サイトからの投稿)
ウチは駅から遠い。徒歩三十分。オレはこの道のりを、週五で歩く。会社へ行くため。行きは時間に追われ、競歩ばりの勢いで駆け抜ける。帰りは時間はあっても、疲れで散策どころではない。でも今日、ひとつ発見をした。道沿いの民家の窓際に、犬がいた。目が合った。とりあえず、明日も頑張れそう。

本田臨 @ayakobooklog
音楽室の窓からは、プールがよく見える。彼だけが特別に速くて美しい泳ぎ方をするのはよくわかる。他の人より少しだけ遠くを掴もうとする手。他の人より少しだけ無駄のないバタ足。壁に手をついて立ち上がる彼の顔は遠くて見えないはずなのに、きっと浮かべているであろう満面の笑みが懐かしかった。

本田臨 @ayakobooklog
そっちはそろそろ夏ですか。彼は望遠鏡でしか見えない星に住んでいる。音速以上光速未満で届くメールは、時期外れなことも多い。もう秋ですよ、と返す。返信は数か月後だろう。私に優しい夢を見せてくれるメールは、星になった彼の兄の優しい嘘だ。夢の世界にいることは、いつまで許して貰えるだろう。

本田臨 @ayakobooklog
泣きべそをかきながら午前いっぱい歩いて辿り着いた海は遠かったはずなのに、今は車で二十分だ。お揃いの運動靴だった足元は私だけ編み上げサンダルで、日焼け具合を比べあった肌も、今はもう私だけが白い。同じくらいだった背も頭ひとつ以上離れた。それでも、隣にいることだけは、変わりたくない。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
祖母は「遠山の金さん」と結婚したかったらしい。
「騙されて悪代官みたいなのとくっついたけれど、まだ諦めてへんよ」
着替えを手伝う祖父は肩を揺らして笑っている。
ところで僕は四郎である。金四郎にしたかったの、と訊いても、
「時代はキャッシュレスやからね」
そんなことを言うばかりだ。

4423(サイトからの投稿)
こんなモーニングでもファミレスに行けば500円はするだろう。
粗挽きウィンナー、黄身固め白身かりかりの目玉焼き、トマトスライス、遠慮なくバターを塗りたぐったトースト。それらを洗い物が少なくなるようにワンプレートに盛りつける。
「いただきます」
合掌。少しだけ贅沢な、休日の朝。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
音楽に誘われ放浪するうちに草原に辿り着いた。装束を着た人がひとり、見たことのない楽器を奏でていた。星空から降りそそぐような音。私に気付いたその人がどこから来たかと問うので「街から。貴方の音に誘われました」と言うと「遠い街まで私の音は届くのに星は聴いてくれない」と涙を流すのだった。

レムール @haltill
長い間、私は自らの運命を呪ってきた。孤独、秘匿、逃避にすべてを支配された日々。あの声を聞いたとき、私はいてもたってもいられず、住処を飛び出した。会って確かめたい。私は独りなのかを。私は満月に白く照らされた、街を、畑を、山を、異形の風となって駆け抜けた。彼方からの遠吠えに導かれて。

怪夜 @kaiyo0813
遠雷に混じる風鈴の音に雨を予感した。彼方の雲が鈍色に染まるなか、四つ辻に見慣れぬ女が立っている。
女も空を見上げていたが、その表情は陽炎のようで判然としない。
「もうすぐ雨が降ります」
その声音は酷く湿っていて、私はそこに大切な伴侶を亡くしたとでもいうような、哀しみの匂いを嗅いだ。

仁部中つぎ @nibenaka_tsugi
プラネタリウムの上映前、展示室には、母親と小さい子どもがいた。「どうしてお星さまは写真みたいに見えないの」「すごく遠いからよ。肉眼……目ではっきり見えたらいいのにね」母親はわが子に目線を合わせ、しゃがむ。子どもは母親に抱きつき、並ぼっか、と呼びかけられても、離れようとしなかった。

珠芽めめ(サイトからの投稿)
遠いくにのお姫さまに あなただけがなれる魔法をかけました
幸かな 不幸かな となりの国は戦争です
こうかな ふこうかな 遠いくには殻のなか
千のおめめでのぞいても 玉座のいろが わからないのです
あなたが重ねた星の数 だから聖なるさいわいへ あなたを座らせたいのだけど

もざどみれーる(サイトからの投稿)
「心は疎か影さえ遠い」。ふと閃いた自分の短歌の下の句に、私は思わず嘆息した。
日々の安寧。それを実現するものは、恐らく努力と環境と運であろう。しかし、己心という怪物は、一体何処でどう転びどう叫ぶのだ?
ああ、部屋に蚊が一匹。……どうか私の血を喰って、未来を教えては呉れまいか?

若林明良(サイトからの投稿)
この世界は私から遠ざかっている。ミントの浮かんだグラスも、グラスに反射する光も。翠のピアスとシャツの裾をゆらす風も。はるかかなたの星雲も、星雲を飲み込む黒い穴も。少しづつ、急速に。あなたが永遠に私の手の届かない場所へ行ってくれたら、あなたを私のものにできるのと同じくらいうれしい。

若林明良(サイトからの投稿)
音のない花火が好きで。屋上から隣町のそれをながめる。菊、牡丹、枝垂柳。静かにひらき、静かに消えてゆく。きみは手のかからない人だね、賢いね。そうじゃない、行かないで。背中に投げる透明の礫。いつしか心は凪を覚えた。遠くのあれは身のうちにゆるゆると上がっては萎みゆく感情。私のうつし絵。

若林明良(サイトからの投稿)
遠い昔、人類は箱であった。ときおり展開し光合成した。箱に戻る際、誤ってたびたび蝶を閉じ込めた。殆どは酸欠で息絶えたが、猛者は苦しみながら箱にぶつかり箱を凹ませた。脱出に成功した勇蝶もいた。これが盲腸と脱腸の名残である。勢い余り箱ごと移動する蝶。これは進化の道を逸れ、駝鳥となった。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
遠回りしながらではあったがついに必要なものが揃った。コードを知らなくても音を聞いて和音を選べる便利なソフトウェア。それっぽい伴奏もつけてくれる。どんなメロディも言われた通り歌ってくれる歌声合成ソフトウェア。あったら便利と聞いたMIDIキーボード。できた!名曲には程遠いけど、私の。

麻希悠(サイトからの投稿)
どこか遠くへ行きたかった。だから僕は家から飛び出してひたすらに走り続けた。もうここまで来れば大丈夫。そう思っていると声が聞こえた。「もう、ハムちゃんはまたケージから逃げ出して!」僕の逃避行はまた失敗に終わった。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
段差舗装で跳ねる車体を抑えて切通しを抜ける。一転、開けた山間に入道雲がそびえ、まっさらな道が駆け上がっていく。
笑わば笑え。
躍起になって遠ざかるだけの女を。
5速に入れてバイクが震える。よし、よし。タンクに腹ばいになる。油はここよ。飲め、落ち着いて飲め。
逃げてるなんて認めない。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
推しは毎日自撮りを上げる。
下心で追っかけていたら、あるときから、写真が遠くなり始めた。
離れてピース。群衆にひとり。ほぼ航空写真。雲を抜け、地図になる。ついには星になった。
明らかに地球じゃない。
『明日は猫動画ね』
フォローを切るか僕は悩む。知っている猫じゃなかったらどうしよう?

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
私の彼は優しくて仕事もできる素敵な人。大げさでなく奇跡のような存在だった。
そんな彼から話があると連絡があった。
「ニューヨーク本社に行くことになった。期間は3年だって。しばらく会えなくなるけど大丈夫?」
「おめでとう!私は大丈夫!」
3年後の彼は私には遠すぎて存在しないも同然だった。

富田(サイトからの投稿)
上京して3か月、自炊はしなくなっていた。22時、無性に豚骨のカップ麺を食べたくなった私はそれだけを買いに出かけた。地元のスーパーにはあたりまえのように並んでいるドロドロの豚骨カップ麺は、近所のスーパーにはなかった。そうか、私は随分と遠いところに来てしまったみたいだ。

富田(サイトからの投稿)
屋上の扉を開けると、いつもの定位置にあいつはいなかった。フェンスの傍まで歩くと、向かいの校舎の窓からは生徒たちが身を乗り出して下を覗いているのが見える。悲鳴やサイレンがうるさい。フェンスに手をかけ恐る恐る目線を下に落とした。いつも近くにいたあいつが、すごくすごく遠かった。

吉村 京花(サイトからの投稿)
暗闇の中でパッと花が開き消えていく。遠くからでも目立つそれに、あいも変わらず惹かれる私がいる。炎色に染まった顔で「ずっと続いてほしいね」と言っていた君は、もう隣にいない。永遠なんてものはないと幾度も知らしめる、そんな夏の夜。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
出張で知らない土地を訪れると、うまい立ち食いそば屋を探してしまう。
定年退職したら立ち食いそば屋をやる。それが50を過ぎてまだ何も手にしていない私の夢だ。
駅の改札を出て少し歩くと、つゆの良い香りがする立ち食いそば屋があった。迷わず入ってたぬきそばを注文。定年が待ち遠しい味がした。

山羊山ヨウ @capricorn_ygyy
丸めて閉じた暗闇のなかの空洞を覗き込んでいた。レンズに濾過された世界が鏡に衝突して色づく破片に分解する。その無数にバラけた閃光を神経過敏に点と線で繋いできた。背中に置かれた掌の温もり。望遠鏡の物見窓から離れる私の視界。私から一番近い天体の君は何の光を放つでもなく私を照らす。

神喰透哉(サイトからの投稿)
骨董品屋を見つけた。
味がある店なのに、遠くからきたであろう観光客は見向きもしていなかった。
しかし、そこには招き猫しかなかった。その数の多さを怖く思い外に出た。
「あれ、帰っちゃったんですかい?せっかく招かれたニンゲンだったのに」
客に気づき出てきた店主は不気味に笑っていた。

7月30日

エビマヨ(サイトからの投稿)
前代未聞の事件が起きた。
探偵はすぐさま高速船に飛び乗った。
「遠路はるばるご苦労様です」警部が言った。
「ほんとだよ君。報酬はいつもの6倍で頼む」
続けて探偵は最初の質問をした。「ところで被害者は人間?」
事件が起きたのは月。到着するまでに地球時間で3日と6時間かかった。

低体温症の猫(サイトからの投稿)
 昨晩あった祖父の訃報。烏の鳴き声がやけに大きい。静閑の地を踏みしめる僕はしかし、煩悶を禁じ得ない。険しい表情を崩さない父が不意に足を止めた。
「朝早くから遠いところまですまないな。アイスでも食べるか」
僕は、遠い父の背中に少しでも近づきたくて、アイスを頬張った。

貴重な星(サイトからの投稿)
知りすぎないほうがいい。
そう思って自分に枷をかけてきた。
その退屈を超えて踏み出してみると見えるものがあって、それは心の中の星に火が灯ったようで、遠くまで見渡せる気がした。
こんな日が続けばいい。

栞しぐれ(サイトからの投稿)
 人生は美しいだなんて現実的な話ではない。己の生涯を振り返れば望遠鏡で覗いたような他人事の歩みに思える。太陽光で暈ける視界や反射するアスファルトから感じる熱。そういう、なんだろうか、リアリティが人生という総称には欠ける。だが隣で眠る彼女の吐息は温かくゆらりゆらりと時は流れた。

栞しぐれ(サイトからの投稿)
 ねえ、見上げてごらん。彼女は言った。星が輝いているよ。伸ばしたら届くかな、と笑う。必死に手を伸ばす彼女を横目で見れば耳に小さな穴が空いていて、それでもピアスなんかしていなくって。「遠くたって、届かなくたって、ちゃんと愛せるさ」僕はそう言って輝く星に手を伸ばした。

虚月(サイトからの投稿)
屋上から下を見る。たくさんの人がいる。あんなに人がいるのに、僕はひとりぼっちだ。
ここにいても、あの中にいても、みんなが遠くにいるのは変わらない。
空を見上げる。ここから四百五十億光年何もない。
「おーい」
四百五十億光年よりも遠くに叫ぶ。ひとりぼっちの誰か、そこにいませんか。

石森みさお @330_ishimori
悲しい報道に暗澹たる気分でテレビを消した。今がずっと続くよう願っても、時は過ぎ夏は終わる。永遠なんてあるものかよ、幸福であればある程に。怒りか恐怖かわからない感情のまま昼食の仕度にとりかかる。じきに、まばゆい一瞬をはち切れんばかりに内包したわが子が、笑顔で帰ってくる、はずなのだ。

高瀬涼(サイトからの投稿)
熱帯夜。毎夜、続いている。空は真っ暗で、星も見えない。昨日の夜は花火があがって眩しかった。会社の屋上に出て小さな花火を遠目から眺めた。花火大会は久しぶりだった。
花火のあとの静けさと寂しさものすごくしんみりした。
今日くらいが丁度いい。私は珈琲を口に含んで仕事に戻った。

石森みさお @330_ishimori
自分で自分がわからない、と泣く人に、貴方は貴方だ、なんて言う気はありません。胸に手をあててみてごらんなさい。人の手はもはや月にも届くのに、自分の心だけはこんなにも遠い。音を反響させて見えないものの形を探るように、懸命に発した言葉からこそ心は見えてくる。だから私は対話をするのです。

れん(サイトからの投稿)
自分の足跡がいろんな色で見える。ピンクの足跡は愛で出来たもの。ずっとピンクを集めながら歩く。拾ったピンクは体に貼り付けていく。気がつくと潮風に吹かれていた。あの日君と…はしゃいだ場所。海に入ると大量のピンクが僕の体を魚に変えていく。君の住む遠い国まで泳いでいける気がした。

伊古野わらび @ico_0712
いつかはこんな日が来るって分かってた。今だって四六時中一緒にいられる訳じゃない。仕事あるし。けど一日以上離れ離れになることなんてなかったから。遠距離での付き合いになっても、私のこと忘れないでね。
「たかが一泊二日の旅行だろ!ペット同伴OKのホテル探すから。だからそんな号泣するな!」

高瀬涼(サイトからの投稿)
視力が悪くなったときから、星を見上げなくなった。
パソコンばかり見て文字が霞むようになった。あの瞬きは今輝いているのではないのだ、と遠い目をして彼女がホームから見上げたので倣って僕も見上げた。微かに夜景に負けじと輝いている。同僚でもある彼女が、
夜景は残業の光だと漏らした。

石森みさお @330_ishimori
何の事情だったか、小五の夏休みに叔母の家に預けられたことがあった。翻訳業をしていた叔母は子どもと打ち解けるたちではなく、会話に詰まると珈琲を淹れた。「貴方の言葉を訳す辞書があればね」独りごちる叔母と二人、遠い異国の飲み物を啜った。不器用な沈黙は心地よく、叔母を近しく思ったものだ。

かれん みどり(サイトからの投稿)
遠征して参戦した推しのライブ。ちょっとした遠足気分だ。周りに遠慮しながらも、最前列で応援した。彼女は壮大な夢を語りながら、遼遠を見つめていた。あのキラキラした瞳に、僕が映ることは永遠にない。
帰りの道が遠い。

YOKO(サイトからの投稿)
娘を駅まで送り自宅に着くと、すぐに2階へ駆け上がり南側の窓を開ける。耳を澄ますと、遠くから微かに特急列車が出発する音が聞こえてきた。ガタンゴトン、ガタンゴトン……規則的な音は次第に速くなり遠くへ消えていく。目を閉じてさっき見送ったばかりの娘が電車に乗っている様子を想像してみる。

YOKO(サイトからの投稿)
車の下を覗いてみるが、やはり相棒の姿はない。雌の黒猫。どこかへ遊びに行っているのか。それとも恋人と遠くへ行ってしまったか。いつもの会話がもうできなくなるのは妙に寂しいが、どうか幸せであってほしいと願う。車のドアを開けると、遥か彼方から吹いてきたような優しく暖かい風が足元を包んだ。

御徒町久美子(サイトからの投稿)
遠いところにいるあなたへ。病気になってもすぐに駆けつけてあげられないし、会いたくてもなかなか会いに行けない。でも待っていて、もうすぐ会いに行くから。会ったらなんて言おう?ただいま?やぁ、元気だった?でも一番言言いたいことは、おーい、会いたかったよ!だね。

かれん みどり(サイトからの投稿)
「自分探しの旅」を揶揄する人がいた。ここに居る自分を見つける為に、わざわざ遠くに行く必要はないと笑っていた。なら、あなたは山にも登らず、読書もせず、人と話さず、流行りにも乗らずにいればいい。何かに触れて、揺さぶられた感情の中に知らない自分がいるのに。自分の枠から出なければ。

鈴木林 @bellwoodFiU
遠雷の音がゴロゴロとやってきた。いつどこで発生したのか知れぬ音だった。うちでは要りません、と言うと、そっか、と転がって隣家に向かった。少し先の町でサイズが小さくなれば、どこかの家が引き受けるだろう。かつて指輪を無くした日に我が家に迎えたものは、残響となって今でも窓際で鳴いている。

桜雪 @sayuki_f
やぁ、元気かい。遠い惑星から来た宇宙人です。突然、消えた友達は昔と変わらない姿だ。驚きで言葉が出ない私に自身の存在を分かって貰う為か、頬に手を伸ばす。大切な地球の友達が辛そうだから内緒で来ちゃたと、自称宇宙人は告げる。触れた手の冷たさに君がいれば冷房、要らずねと久しぶりに笑えた。

木露尋亀 @kirohiroki2001
砂漠を彷徨う私の前に突如出現した蜃気楼の街から手を振る人々はどう見てもこの世の者とは思えない姿をしていたが、ひょっとすると、何万光年も彼方の星の光景が遠くこの砂漠のスクリーに光の像を結んでいるのではあるまいかと、私は最後の力を振り絞って手を振ったのだ、何万年も後の人々に向かって。

桜雪 @sayuki_f
遠くになんて行かないよ。
泣きそうな僕に近づくと、あの頃と変わらない姿のまま、君は微笑んだ。
抱きしめようと、君に触れようとすれば、僕の手は簡単に君さえもすり抜けてしまう。君は寂しそうに駄目かぁと呟くと僕にバイバイと手を振った。やっぱり、君は嘘つきだ。遠くに行かないって言ったのに。

ミソラ(サイトからの投稿)
「ないな。」
これが彼女に対する第一印象。
見るからにバカそうだし、話も噛み合わない。

「もう次はないな」と思った数分後、俺は彼女に恋をした。

ビルの合間から、遠くの星を見つけ出した時の彼女の横顔が、あまりにも美しかったのだ。

単純なバカは、俺の方だったか。

まくす(サイトからの投稿)
遠日点を越えた。お土産はメモリセル一杯の記憶。十数度のフライバイを重ねて、太陽系最遠部にたどり着いた。赤い砂舞う大地、音速の巨大嵐、衛星軌道に達するジェット流、どれもわくわくする楽しい思い出。
家路が待っている。100年前に私を組み立ててくれたあの人は、今も私を覚えているかしら。

まくす(サイトからの投稿)
わたし遠距離恋愛とくいなの。君からの毎週の手紙は丸い文字。電話ボックスで話し続けた夜。二人の距離は500km。
結婚して、二人を隔てた単身赴任は1万km。SNSにビデオ通話、テクノロジーが僕らの味方。
一緒の時間は短くて、線香煙の向こうの君まで50cm。今度はちょっと遠過ぎるよ。

まくす(サイトからの投稿)
遠足の弁当の記憶は冷たいごはん。おかずはいつも違うけど、冷たいごはん。母の作ってくれたお弁当。汗の夏山、かじかむ冬の林道。興奮ぎみに友達と食べる冷たいごはんは、ささやかな非日常と人の暖かさ。
「お弁当温めますか」カウンターの声。「そのままでいいです」ぎこちない笑みにいつもの答え。

木畑十愛(サイトからの投稿)
遠雷が光る。
「一、二、三」
秒数を数えていたら同僚に笑われた。
光と音の時間差で雷との距離を測っても、別に安全を確保できるわけでもない。
それでも、雷がどうか遠い場所の事であってほしい、近いなら逃げたいと願い、数えてしまうのだ。
あの雷雲の下にも、私じゃない誰かがいる筈なのに。

れん(サイトからの投稿)
小2の息子と公園でキャッチボールをしている。好きな球団の帽子を深めにかぶる息子。そういえば遠い昔、俺もキャッチボールをした事がある。笑顔のあいつにぼてぼてのボールを投げたあの夏休み。母と別れて消えたあいつとの時間。あまりにも幼い感覚。息子と重なるあいつ…俺はどっちに投げるのか…

あられ @klavmlDG6wGoHNk
「遠くに行きます。」
酒を片手にソファに座る男に私は静かに告げる。
「逃げられるとでも?」
男が低いしゃがれた声で問う。
「問題ありません。だって貴方が追いかけて来られないくらい遠くへ行くんですもの。」
私は笑顔でそう言うと酒の空き缶や瓶を避けながら手ぶらで部屋を出た。

右近金魚 @ukonkingyo
訳あってこの岸を離れることにした。荷物を引きずり歩くと霧の中に船着き場が現れた。「この河を渡る前に、要らないものは笹舟で流すように」と、渡し守の老人は言う。少し考え、私は指輪を笹舟に乗せた。ひと粒の海も。
笹舟が遠のくにつれ、私は羽根のように軽くなった。
風もいい。船は岸を離れた。

新都けいゆ(サイトからの投稿)
 断続的な揺れに、ふと目が覚める。時計を確認する。目的地はまだ先のようだった。カーテンを開けて、頬杖をついて。窓の外を流れる星空を見上げる。遠いあの地に思いを馳せる。
 しばらくそうしていると、心地よい電車の振動が眠気を誘った。
 北斗七星に、また眠る。あの街を夢に見て。

栗 那智(サイトからの投稿)
俺はいつも同じ時間に電車に乗り、同じ建物に入り同じ机に向かって同じ事を繰り返して生きている。小さい頃はよく家族で遠出をしたり旅行に行っていたが、今は一切出かけなくなった。そんな俺にも家族ができた。俺は初めての有給をとり、久しぶりに遠くに出かけた。俺も父さんのようになれるかな。

あられ @klavmlDG6wGoHNk
こんなに近いのにこんなにも遠い私と君の距離。
私、君のことなんでも知っているんだよ。好きな食べ物も嫌いな食べ物も趣味も笑った顔も泣いている顔も赤らめた顔も。全部知っている。全部全部大好きなの。愛おしくって仕方がないの。でも、それでも画面の中の君は私のこと何も知らないのでしょう?

すーこ(サイトからの投稿)
毎日メールしたね。時々長電話もしたし、たまのデートが楽しくって。離れてても、私たちきっと大丈夫。そう、信じてた。予定が合わなくなり、しんどくなって、振ったのは私。あんなに近かったのに、今は誰より遠く感じる。定型文みたいな感情を抱く資格だってないのに。まだ胸の奥に、君が居座ってる。

川音夜さり(サイトからの投稿)
彼は優しい人だった。彼の心配りや思い遣りに私がどれほど救われたか、きっと彼は知るまい。否、伝えれば良かったんだ。そうすれば彼の隣に居られたかも知れない。彼は望むものを得た。偉勲、賞揚、名誉、巨富。いつしか彼は人間が変わってしまった。遠い存在となった彼の目に、私はもう映らない。

あられ @klavmlDG6wGoHNk
光が空から降ってくる。私はどうしてもその光を掴みたくて、輝きをこの手に掴みたくて、走る。転んでも目の前が真っ暗闇でも、傷だらけでも走る、走る。草木をかき分けて走る。どれだけ遠くても必ず掴んで見せるからね。手を伸ばすことを諦めないから。私の光。私の輝き。私の願い。私の流れ星。

又森昴(サイトからの投稿)
小学校の帰りに、些細なことで喧嘩が始まった。互いの好きなアニメキャラを競って言い合いになったのだ。ついに君は僕を突き飛ばし、振り返って走りだした。結果、君は車に轢かれて死んだ。それからずっと頭の隅に君の声が響いている。僕らは遠く離れることはない。君は一生、僕の心の中に宿り続ける。

秋葉碧(サイトからの投稿)
水星の夜を温められるくらい強い思いなら、迷うことなくその左手をひいて、暗い洞窟も抜けられるだろうに。僕らの両手は平行に振られ、もうすぐ駅だ。だからきっとここが最後。青になったら、震える右手、言うことを聞いて。平行線を繋げられたなら、遠回りをして帰ろう。今だ。響く鼓動に誠意を捧げ。

もりにいな(サイトからの投稿)
「遠心力エステいかがですか」駅前で声をかけられた。一日中外にいて汗まみれだった私は思わず、立ち止まった。冷水でマッサージの後、ドライヤーまで行ってくれるそうだ。その間はすべて遠心力付き。身体の汚れはとれ肌触りはふわふわに仕上がるとのこと。迷わず予約を入れた、明日が楽しみだ。

又森昴(サイトからの投稿)
君が遠くへ引越してから一年が経った。あれから私たちは手紙でやりとりをした。嬉しかったことや辛かったこと、会いたい気持ちも伝え合った。だけど五ヶ月を過ぎた辺りから、君の手紙は途絶えた。数日後、君は亡くなっていたと知った。それからずっと、遥か空の彼方、いないはずの君を想像してしまう。

秋葉碧(サイトからの投稿)
夜中に起きて水を飲むようにひっそりと生きている僕には、秘密がある。遠来の星を一つ保護したのだ。スイフト・タットル彗星から来たらしい。アルミニウムを好んで食べ、机の上で眠る。夏の僕は手袋をして、流星群を待っている。降り注ぐ隕石をキャッチして、宇宙へ帰る方法を探るため。これが僕の夢。

秋葉碧(サイトからの投稿)
遠い日、望遠鏡を覗く月の博士が言ったの。今日の星に大きな動きは無いって。だから私、それならどうして見ているのと聞いた。君が生きているのは誕生日やクリスマスだけじゃないだろうって、博士は、そう答えた。遠い日、まだ星を知らない君が、ベランダで夜空を眺めるまで、望遠鏡、壊れないでよね。

すーこ(サイトからの投稿)
ゴロゴロ。遠雷を一人で耐える夏の夜。耳と目を塞いで寄り添ってくれたあなたは今、隣にいない。でも、もうすぐ会えるから寂しくなんてないよ。早く帰ってきて。そして、ゆっくり帰ってね。ピカッ。近づいてきた稲妻が、少し不恰好な精霊馬、精霊牛を照らす。熱帯夜なのに、あなたの温もりを求めてる。

坂村 夜子(サイトからの投稿)
ひび割れたコンクリートの上を歩く僕は俯いて「これは僕の人生と同じだ」と思った。道が温かいのは、後ろ姿を見送る家族、太陽の光。水溜りが歩幅を妨げるのは、奴らの眼差し、冷たい雨。そして、歩みを彩るのは優しいあの子、草花。今日も足取りは単調で、それでも遠く、遠くへ僕は歩き続けて行く。

すーこ(サイトからの投稿)
「遠き日々懐かしや」「何? その歌」「今作った」「ええ~! 詩人~」「だろ」「高志、そういうこと言わなきゃいいのに」俺、今何を思ってると思う? 君が「たかしとけっこんする」って言ってた日々を思ってるんだ。あれ、まだ有効? 「覚えてる? 私、待ってるんだけど」「何を」「プロポーズ」

もりにいな(サイトからの投稿)
439.5 km。離れるまでは余裕だ、おんなじ空の下だからと思っていた。一月後、再会した君はどことなくそっけなかった。でもそんな無感情なところが好きだ。二月後、同じ街に住むことになった。「もっといい人がいると思うよ」君は遠くの存在になってしまった。好きな子が大学にできたんだって。

木畑十愛(サイトからの投稿)
天体観測って憧れる。歌になるような青春っぽいやつ。
でも望遠鏡なんて持ってないし、空いっぱいの星が見られる場所も知らない。
まるで遠い絵空事だった。
「ま、場所を探すところからやってみようよ」
軽やかに言える君を羨みながら、集合時間を話し合う。午前二時じゃ遅すぎるか。

(サイトからの投稿)
玄関先に、蝉がいた。腹を上にして、動かない。片付けようとすると、僅かな声でジジ、と鳴いた。
灼熱の石の上での最期とは不憫だ。私は木陰に移し、水を少しかけてやる。すると程なくして蝉は、弱々しくも飛び立った。

まだ遠くまで飛ぶつもりなのだろうか。
最期まで全力で生きる姿を見送った。

新都けいゆ(サイトからの投稿)
手を伸ばす。指先は宙を引っかいて、君がいる星には届きそうもなかった。
二千光年向こうの君は、もう忘れてしまっただろうか。遠い昔のことだ。言葉は通じなかったけれど、わたしたちはたしかに約束をした。いつかの再会を。
空を見上げてもう一度伸びをして、わたしは研究室に戻ることにした。

本宮笙太(サイトからの投稿)
 お元気ですか。お元気であると私も嬉しいです。さて、私の邸にも夏が訪れ、蝉が鳴き続けています。貴方の住む遠い隠れ家はどうでしょう。丁度一年前の今日、家宝の壺を盗みに入ったところを目にした私の主人を鉄パイプで撲殺し、国外逃走を図った貴方の下で銃声が鳴ったことでしょう。では。

近藤遊里(サイトからの投稿)
あの頃は、5時間かけて君が住む街へ行くことがとても遠くに感じていた。
君に会って抱きしめて、会えなかった時間の埋め合わせをして。
ただそれだけで幸せだった。
だけど小さなすれ違いが幾つも生まれ、今は一緒に住んでいるのに途方もなく君の心を遠くに感じるんだ。
夢の続きはもう見れない。

いまえだななこ @na2na1ko6
遠慮すんなよ。
そう言ってパパはパンダのキーホルダーやメロンのかき氷を買ってくれた。
一通り動物を見て帰る時間が近づく。まだ何か言いたげなパパに
「ママは元気だよ」と伝えると、少し驚いて、そっかと笑った。
遠慮すんなよ、パパ。
3つあるキーホルダーの1つを渡して、じゃあまたねと別れた。

灰白 せいか(サイトからの投稿)
心を過去に置いてきた。和三盆のようなあの心を。華やかな菓子箱に崩れないよう丁寧につめ、駅の待合室に置き去りにしてきたのだ。あの駅は確か……いや僕はもう思い出せない。永遠となったあの心を今やもう取り戻せないのだから。
僕は純喫茶の定位置で一口飲む。ブラックコーヒーはもう苦くない。

雪菜冷 @setsuna_rei_
イカ星人とタコ星人が握手を交わした。周囲の人々は身を翻し全力で走り出す。イカ星人が触手を広げた。タコ星人は頬を膨らませ墨の準備。「コリコリ最高!」「プリプリこそ至高!」種族の誇りをかけ仁義なき戦いが始まった。遠い所では別の種族達が握手。今日も宇宙は平常運転。平和だなと神は呟いた。

音葉なつ @otohanatsu
記憶を閉じ込めるとどうなるんですか、と聞いた。
こんな風になるのさ、と魔法使いはガラス玉を見せた。
これは誰の記憶ですか。
あんたには関係ない。持ち主は永遠に手放したのさ。
じゃあ、私のこの記憶もガラス玉にしてください。いつか引き受けられる日まで。いつになるか分からないけれど。

ぺいきち(サイトからの投稿)
 他人を中心に、振り回される日々。
 客の罵声、上司からの叱責、止まらぬ部下の不満――心を引き裂く遠心力。くたびれて、自分を手放しそうになった、その時。
「私がいるから」
 妻は僕の手を掴んでくれた。君が中心になったあの日から、ぐるぐる回る人生を、僕は踊り生きている。

彩葉 @sih_irodoruha
リモートで会う次の約束までの一週間は、それ以上に感じる。顔が見えると五感がフル活動するから余計に距離がもどかしい。私たちはここにいる。メールや電話よりも温度があって、思いが近い。だけどここは早朝、むこうはお昼。画面から顔が消えると遠く離れているという現実に溺れてしまう。

4423(サイトからの投稿)
午前四時。野良犬の遠吠えで目が覚める。寝ぼけ眼で庭に飛び出る。庭に座り込んでいる痩せた男は、夏だというのにファーつきのモッズコートを着込んでいた。おまけに遠吠えがひどい。
「近所迷惑」とだけわたしは突き刺すように言う。
あの日、道端に倒れていた男にかけた同情のゆくえがこれだ。

にしん(サイトからの投稿)
「あなたは、遠い森のようだね」そう彼女が言ったのを覚えている。「じゃあ、君は?君は何なの?」「わたしは、その森をさまよう鳥かなあ。だから、時々休ませて。あなたの森は涼しくて気持ちがいい。」そう言って、彼女は僕の胸に耳をひたりとのせた。静かな森になって彼女を休ませた夏が僕にはある。

藤原佑月 @yudukifujiwara
遠雷が聞こえる。
葬列が青田の小径を進んでいく。静子は雲のない空に目線を移した。迫り来る雷雨に早く打たれたいと願いながら。「私が死んだら泣いてくれる」の答えの代わりに雨を望んでいた。制服のスカートを膨らませて落ちていく彼女と目が合ったとき、にっこり笑っていた。にっこり笑っていた。

伏水瑚和 @coyori_fushimi
手の届かない所にいってしまったのだからサヨナラしようと言われた。けど腑に落ちなかった。いつもすぐ傍にいた。一緒に住んでた時もあって、よく話した。でも私達の間に近さなんてなかった。私が求めるポジションからはいつも遠くにいて、決してきてくれない人だったから。わかってたよ……とっくに。

江乃香 @eno__note__
ラムネの中のビー玉がからりと夏の音を立てる。僕は空っぽになった瓶を逆さまにしたり振ってみたりする。こんなに近くにあるのにずっと遠くに感じる水色のビー玉。
瓶の向こうにいる年上の幼馴染が笑う。セーラー服をまとった彼女は、いつの間にかラムネの中のビー玉のように遠い存在になっていた。

スズムラ @suzumuraxxxjun
子供の頃、田舎の高台からは遠くの花火が見えた。

帰り道、遠藤君が声をかけてきた「線香花火しない?」
手を繋ぎ高台に戻った。

彼の花火に火をつけ、私の花火に近づけると線香花火は繋がりながら燃えた。

今日彼の名前が書かれた黒い縁取りのハガキが届いた。
お線香をあげに遠い田舎へ向かう。

灰白 せいか(サイトからの投稿)
私は風の絵を描く。 毎秒変化し続ける風を永遠のものとして残しておきたかったから。
風は無限の色彩を放ち去り、私を翻弄する。
そうして風は音を立てながら私をからかってくる。惑う私を。
私は一呼吸置く。
風を描くためだけの筆を持ち、筆先に風を込め、無垢のキャンバスを染めはじめる。

4423(サイトからの投稿)
彼女はじっと見つめていた。本の中の夜空を。『星の図鑑』。かつては多くの人々がこの本を片手に、本物の星空を眺めたのだろう。
「ベガ、アンタレス、デネブ……」
彼女はたどたどしくつぶやく。
太陽が消滅し、次いで星たちも消え去った。漆黒だけが気が遠くなるほどに世界の四隅に広がっている。

Y(サイトからの投稿)
毎日のように誰かと遊んでいた。子どもだった。
会いたい人はもう、ここにはいない。美容師より頻繁に会う人なんてそういない。だからといって美容師は美容師でしかないし、遠くにいるからといって縁が切れるわけでもない。
会いたい。どこにいても、いなくても。会えなくても。私はここで永遠に、

緒川青(サイトからの投稿)
「危ないっ!」鋭い声に思わず振り向くと、顔に“ガツン!”という衝撃!
 野球のボールが当たったようで、眼鏡はお陀仏。諦めて帰路につく。
 酷い遠視で光と色しかわからないのに、不思議とはっきり見える人がいる。
 さては妖。胸ポケットには煙草。
 これで眼鏡に化けてくれないだろうか?

俄樂大(サイトからの投稿)
君を忘れる為に、あの街を出た。あの街には君の残滓があちら、こちらに浮かんでいたから。しかし何処まで行っても、君の影が追いかけてくる。どうしてだ、僕が君を忘れても、君が僕を忘れてくれない。あゝ、そうか、しまった、君の血で汚れ、僕の指紋がついたナイフを、遠いあの街に忘れてきたんだ。

俄樂大(サイトからの投稿)
君のいない世界にも、朝日が登るなんて思わなかった。だけど、今、僕は初めて、君のいない場所にいる。随分遠くまで運ばれてきたようだ。君の不在を、こんなにも強く感じる朝があること、それさえも知らずに生きてきたんだ。そんな僕は、君のいない世界では、もはや僕ではないのかもしれない。

緒川青(サイトからの投稿)
 遠雷が光も見せずに音だけ落ちた。恥知らずな犬が怯えて吠える。
 青春を知らずに逝く若者の呻きが、飢えた子供の吐息が、老人の諦めが、そして私の知らない無限の悲しみが、この雷鳴のように耳に届けば良いのに。
 この世で最も、泣いても良い人間に、私はなりたい。

俄樂大(サイトからの投稿)
君はたったの一度、僕の前に現れただけで、僕の全てを奪って、遠くへいってしまった。僕は全てをなくして、寂しくなった。しかし、君を知らずに、寂しさを感じることができなかった僕よりは、寂しくなくなった。たとえもう二度と逢えなくても、この寂しさは、君が教えてくれた寂しさだからだ。

矢入えいど(サイトからの投稿)
遠い日のこと。まだ星に手が届いていたころ、ポケットの中にはきらきらと光る星があふれていた。目をつむって潜った銀河の中で、えいと腕を伸ばして掴んだ光は、押し入れの奥の、水の入った瓶の中で静かに息をしている。たまに押し入れから取り出して、ひんやりとした瓶を抱いて眠る。水が揺れていた。

おだ ながのぶ @ShiGaodao
うちわを片手に屋上に上がった。

「早く覗いてごらん。」

父からもらった大きな望遠鏡が目の前に佇んでいる。急かされて私は片目をつぶった。

「パパ!こんなに大きく見えたの初めて!」

幼いながらに感銘を受けた。あの日はどんな空よりも、ずっと空が輝いて見えた。今三十年前の望遠鏡を撫でる。

井上秀樹(サイトからの投稿)
子供の頃、銀河鉄道に乗りたかった。重いガスに包まれたこの星から逃げ出したかった。銀河の美しい星々を旅してみたかった。列車に揺られ、どこまでも遠くへ行ってみたかった。でも、どれだけ遠くへ行っても、僕は最後には、またビルに囲まれたこの真っ黒な空を見たくなる。今は、そんな気がする。

結紬 @cocoasuzu1808
小学五年の時、親友だった子が遠くに引越して行った。離れ離れになってしまうと二人で声を上げて泣いたけど、今思えばそこまで遠くはなかったから長期休みに連れて行ってもらえばよかったのだ。その頃は主に手紙でやり取りをし続けて大学生になった時に再開した。そんな親友はこれから僕の妻となる。

結紬 @cocoasuzu1808
無機質な音が響く病室で、私は今さっき遠い空の向こうへ逝ってしまった大切な人を見つめて手を握った。頬には涙が伝っているけれど、貴方はきっと笑顔でいて欲しいと願うから気付かないふりをして笑う。そして小さな声で呟く。
「また来世で会いましょう」
いつか貴方と交わした約束を絶対に忘れない。

結紬 @cocoasuzu1808
無機質な音と泣き声が響く病室で、私はついさっき遠い空の向こうへ逝ってしまった大切な人を見つめて手を握る。頬には涙が伝っているけれど、貴方が以前、私の笑顔が好きだと言ったから気付かないふりをして笑う。
「また来世で会いましょう」
穏やかな日々の中、貴方と交わした約束を絶対に忘れない。

ペリドット @saihate76
疎遠になって15年。なんで夢に出てくるの?私がかなり酔うと、あなたの名前をグーグルで検索して出世したあなたの近況をたまに見ちゃうから?あなたが無名の人だったらわたしの想いなんて、とっくに溶けていたのに。検索がない時代なら、あなたの今を知れないのに。声まで再生出来るんだよ。罪だよ。

ミソラ(サイトからの投稿)
いつも以上に綺麗な朝。旅立つにはちょうどいい日。

本当はまだここに居たかったけど、もう潮時だ。

これからわたしは、誰も知らない遠い場所へいく。
だからわたしのことは、忘れていてほしい。

ただ、この想いだけ置いていかせて。

いままでありがとう。愛してる。幸せにね。

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