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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part4

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「細」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

4月30日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(4月21日〜26日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月26日

虹風 想蒔 @i_nw_ao_rbdmges
ボロボロのノートには、幼い頃の僕の日常が綴られていた。所々読めない走り書きは、砂糖に群がる蟻のよう。些細な出来事、物心つく前の記録ほど愛おしく、気付けば夜が明けていた。もっと早くもらっていれば、すべてわかったのに。見上げた空には、煌めく光が一つ。目を閉じ、手を合わせることにした。

宮川ヌエ(サイトからの投稿)
腕がなくなった日、窓の外には桜が咲いていた。心底、ムカついた。わたしの無価値さが浮き彫りになるようで。そんな薄ピンクの影が寝室を覗いてぽつりと言った。「あなたの腕は花びらだったのよ。ほら、手をごらんなさい。」その瞬間、ベッドの上で繊細な風が渦巻いた。さようなら、散っていった左腕。

@AoinoHanataba
『積もらないかな、今年も』
細雪が降って来る度、彼女が白い息を吐きながら、言っていた事を思い出す。
どうしてんのかねぇ、あいつは。
一人郷愁に浸っていると、頬に温かい感触がした。
「ごめんね〜、コンビニ混んでてさ」
 彼女が……妻が昔と変わらない笑顔で、ホットココアを俺の頬に当てた。

兎的(サイトからの投稿)
細雨が大気を濡らしながら、凪いでいる海面に落ちていく。釣り人の数だけある糸はどれもピンと張ったままだ。「どうです、狙いのほうは。」ひゅっと吹いた早朝の風にそわそわして、隣の老人に話しかけてみた。しかし老人は水面を見たまま動かない。つられて視線の先を覗けば、細小魚が三匹泳いでいた。

高樫 何某 @naniga4_takaga4
宇宙を旅していた。
ああ、宇宙を流れる時間は細い。
ふふっ。“遅い”なのでは、と思われたかしら。これは宇宙時空学での現在のスタンダードな考え方なのよ。
細く引き伸ばされた時の中、この果てしなく広い宇宙で再び君と相見える日を夢想しながら、星々の間をゆっくりと光の速度で進んでいく。

193(サイトからの投稿)
昔から細部までこだわられたミニチュアに憧れていた私は遂に自分で作るようになった。まずはドールハウス、次にそこに並べる家具…何か物足りないわ…あ、アレね!

「緊急搬送です」「状態は?」「それが…左手の指が五本ともないんです」「事件か?」「いえ、五人家族を作らせてよ!と叫んでます」

飛馬 光 @AsumaHikaru
恒例のトレーニングをして、外に出ると綺麗な夕焼けと放射時に細く伸びる飛行機雲。熱を帯びた体にぴったりの海風。こんな良いシチュエーションないだろ!と思わず写真を撮って君に送った。飛行場の場所すぐ分かるね!との返信…いや、そこじゃなくて!と頭の中でツッコミつつ君らしいなと苦笑したよ。

瀬名橋晴香 @tasekan0410
西日が眩しい。手を翳し、指先の隙間から漏れる細い光を見つめた。
「ここから見る夕日が綺麗なんだ!」
 幼い君の声。返すように僕は細い声で呟く。
「綺麗なもんか」
 晩照に眼を奪われ、君は防波堤から足を滑らせた。
 手向け花を夕日に向かって投げる。
 ああ。光が目に染みて、益々憎い。

笹慎 @s_makoto_panda
ビニ傘を叩く雨の音はあまりにもか細く。まるで具現化した私の心情。故郷を出て幾日か。期待に胸を膨らませ自信満々で来たこの都会。
今日も大学の食堂で一人。もう友達を作っている人達を羨望し、スマホで新幹線のチケットを取った。GWは帰省しよう。

「さっきの授業一緒だよね?」
私は顔あげた。

おの橙 @orange___ohno
「いくよ、3……2ぃ」
ガシャッ、耳元でホチキスの音と弾ける痛み。
「いっ……!普通1で開けるべ」
マキロンを染み込ませたガーゼを細い指で持ち、僕の左耳に押しつけ笑う君。
「つい、ごめん」
「何がつい、だよ。いつも急なんだよ」
「つい、電話するかも」
「すんな」
「出ない?」
「わかんね」

おの橙 @orange___ohno
先生が水で濡らした筆を取り黒板に向かった。
「春、とゆう漢字は基本の横画、一画目は空を仰ぎ、二画目は真っ直ぐな芯を持たせ、三画目はふくらみを持たせしなるように。両はらいは堂々と、日の字は広がらず縦に伸ばす」
皆が半紙に集中したとき、先生は細筆に持ち替え、
「名は体を表す」
と呟いた。

想田翠 @shitatamerusoda
クルーズ客船の宣伝番組に目を輝かせる妻にきまりが悪くなり、散歩に出かける。定年まで零細企業に勤め上げた退職金は雀の涙だった。恥を忍んで和菓子屋で一つだけ土産に買ってきた饅頭を「食が細くなったから半分こが丁度いいわ」と目を細め差し出す君と来世でも添い遂げたい…なんて、口に出せぬが。

さるすべり(サイトからの投稿)
長いあいだ、妻に隠していた。どうしても言えなかった。僕が明智光秀の生まれ変わりだってことを。笑いたければ笑えばいい。僕は本気で信じている。ある日、意を決して妻に打ち明けたんだ。すると妻は真面目な顔でこう言った。私もあなたに隠していたの。私が細川ガラシャの生まれ変わりだってことを。

幹みさき(サイトからの投稿)
石を砕く。粉々にする。それはもう丁寧に、元がどれくらいの大きさだったのかなんて想像もできないくらい細かく砕いてしまう。小さな金魚鉢に敷き詰める。水を入れる。朱色のからだの繊細なこの魚が生き続ける限り、細波は絶えない。

4月25日

七月夕日 @twilight_7moon
細身、黒髪、眼鏡。
気がつけば沼落ちしている人間の三拍子。
現実世界でも二次元のキャラクターでも。
好きなタイプではなくて、好きになったのがそのタイプなのだ。と、思う。一目惚れじゃなくて、三度目の正直みたいに別に普通と特別を行き来して恋をするから。
おや、また今日もはじめまして?

七月夕日 @twilight_7moon
「ねえね、ゆきふってゆよ」
傘を上げると風に舞い、はらりと水たまりに落ちる薄紅色の花びら。憂鬱な帰り道。けれどきれいねえーと初めての桜吹雪にきゃっきゃっとはしゃぐ姿にどろどろの心が洗い流されていく。「んー、細雪かな?」
じんわり湿った小さな手。きっとまた巡る季節のなかで思い出す。

冨原睦菜 @kachirinfactory
「そうそう上手上手」巾着袋をしめる紐がないと言ったら、ばあちゃんが昔やってた藁の縄綯い風に作る方法を教えてくれた。やっとこ二本どりを覚えた私に「二本より三本どりの方が丈夫なんさな」と得意げ。そんなばあちゃんの最期はあの日作った三本どりの紐のようにきっちり細くて静かな大往生だった。

村沫瞳 @hitomimur
路地を筆で画面に写す時、現実のそれよりもっと細くなっているのに気がついた。絵を書き直す度に細くなって、いつか挟まって出られなくなると思った。それが抱擁ではないことくらい知っているけれど、街が、路地が、数日後に旅立っていく私の体を掴んで悲しんでくれたら、ここを故郷と呼ぼうと思った。

泥まんじゅう @doromanju_sub
風呂のタイルの細い隙間に河童の群れがいた。拡大して見るとゴマ粒程のミニ河童が村を作っている。彼らはタイルの目地に小穴を掘り家を建て、カビの畑や用水路、船まで作っていた。漬物をあげたら私を神と拝んだ。追加を取りに行ったら「き~退避~」と河童の騒ぐ声。戻れば父がシャワーを浴びていた。

永沢健流(サイトからの投稿)
細魚(サヨリ)の大群を見たことがあるだろうか、いつか見てみてほしい、彼らは騎士だ。剣を構え、列をなして行進する私の騎士。であるならば、その見事な行軍を見下ろす私は王なのだろう。それも私欲に溺れた愚王。大軍が私の指揮に合わせて右に左に胃の中に。まさに「意のままに」だと思ってみたり。

ももこ @momo_beni
出口のないような深い夜、星みたいに光るものが目に飛び込み、私の中に入ってきた。
光は照らした。奥底に居た もう一人の真っ黒な私を。こんなにも細い指だったのか。ごめんね、と手を繋ぐ。

リプライを読み返す。私も、私の言葉も、いつか誰かの光になりたい。新しい願いが生まれる朝。
おはよう。

さるすべり(サイトからの投稿)
僕は子供の頃、空を飛んだことがある。朝の六時頃だった。だれかが子供部屋の窓をノックしたんだ。窓の外には箒に乗った魔女。「いまから一緒に虹を見に行かない?」僕は魔女の箒に乗せてもらった。箒ってふしぎだよね。あんなに細いのに、魔女の頼れる相棒なんだ。人形の僕なんかよりずっとふしぎだ。

真読 @setusame
愛してると最後まで言えなかった。細くなった君の体を抱き締めて僕は大泣した。君が余命を宣告される前からずっと好きだった。僕は弱かった。言ってしまえば、自分が立ち直れない気がして最後の最後まで言えなかった。そんな僕を君は見透かしていた気がして、また涙が零れた。

4月24日

雪菜冷 @setsuna_rei_
和紙を細く切って窓際に吊るせば夜更けに自ら捻れていく。月明かりで固まり星粉が降れば世にも美しい水引の誕生だ。梟の音頭に合わせて水引は絡みあい朝には蝶結びとなった。今日は入学式。父がお金の入った包みに出来立ての水引をかけて差し出す。私は恭しく受け取った。行ってきます、お母さん。

かず(サイトからの投稿)
目の前に広がる鮮やかな地球。まるで宇宙人にでもなった気分だ。足元には自分と地球を繋ぐ細い管が浮いている。この宇宙観光は何十年か前にすごい人が発明したらしい。私達ってこんな小さなところにいたんだね。不意に横から友達の声が聞こえる。宇宙観光が人気な理由がわかった気がした。

泥からす @mudness_crows
些細な事で上司と揉めた私は、辞表を叩きつけたその足で海へ向かった。途上、動かない蛇と出会う。車に轢かれたらしいその蛇はほとんど死にかけていた。「海が見たいんだ。分かるだろう?」そう語る蛇を私は海へ流してやった。後日、その浜で小さな紅い珊瑚を拾った。それはどこか蛇の心臓に似ていた。

フミコ(サイトからの投稿)
細くたなびく紫色の雲。これを見て春の素晴らしさを感じた彼女は、きっと強く美しい女性だったのだろう。僕の母と似ている。母も季節の移りを楽しむ人だった。お庭にトンボが飛んでいるわ!捕まえましょう!まるで少女のように無邪気にいつも僕を巻き込んだ。パパ、またお空ながめて何を笑っているの?

フミコ(サイトからの投稿)
おや、お嬢さん。こんな細道で蹲って居ては風邪をひきますぞ。4月の夜はまだ肌寒い。それに、軍人に見つかると厄介なことになりますゆえ、家に帰りなさい。…何を仰る、今は明治ですぞ?…ほぉ、そうでしたか。それは大変だ。一先ずウチにおいでなさい。そしてお聞かせくだされ、そのれいわとやらを。

けろこ(サイトからの投稿)
周囲の壁が迫ってきた。居心地がよかったが、どうやら時間切れらしい。この場所を出なければならない。
追いやられて細い出口に押し込まれる。全身をぎゅうぎゅうに押され、出口から広い場所に出たとたん、眩しい光に包まれ、僕は大声で泣き叫ぶ。
聞き慣れた、優しい声が僕を迎えた。

灰澤なな @san73_nanana
潮風に揺られ、細波に煌めく夕陽の路を、弟に手を引かれて歩いてる。
「ねえ、どこへ行くの?」
そう訊いたら、
「うーん。地球の反対側、ブラジルとか」
笑って振り返る。笑顔が輝いて見えるのは、きっと水面に反射する光のせい。
遠く鴎の声、静かに陽は沈む。夜闇の足音を背中に、海を歩き続ける。

長尾たぐい @zzznap3
身体のあちこちでゆうれいを飼っている。頭痛に冷え性、めまいに白髪、二枚爪。「生活態度が悪いからだよ」とゆうれいは皮肉げに言う。お黙り、毛細血管としての役目を果たさなかったくせに、と言い返しとりあえず睡眠を取る。ゆうれいたちはしぶしぶと元の姿に戻ったが、患った未病が治る気配はない。

彩咲又君 @eWiHG9Hc9f38756
春の植物…といえば、きっと桜やたんぽぽなのだろう。しかし、私が今魅せられているのは、道にひっそりと,されど堂々と生ゆる雑草だ。細い、細いコンクリートの隙間から,全身全霊で生命を紡ぐその様子。それが、私にはたまらなく愛おしく思えた。

彩咲又君 @eWiHG9Hc9f38756
病室越しに映る、壮大な桜の景色。けれど、私の心を奪い去ったのは…窓からひっそりとこちらを眺める、たった一本の細い枝。今にも折れそうな、その枝。しかし、それにはどこか力強さを感じて…伏した私の心を起こすのに、充分なの代物だった。

彩咲又君 @eWiHG9Hc9f38756
この新しい春という季節。「今やれば」「きっといつか」。私達は、今も,これからも。その細い糸を信じ続けるのだろう。これからも、そんな言葉で自分を騙していくのだろう。…でも。けれども。その糸はとても魅力的で、私達を動かすのには充分なのだ。…だから、その先のモノを手繰り寄せようとする。

高樫 何某 @naniga4_takaga4
今日、告白する。
そう決めて、クラスの男子を放課後の屋上に呼び出した。
夕陽で赤らむ顔を隠そうと思っていたのに、彼は東側のフェンスにもたれて待っていた。
ええい、ままよ!
「好きです!付き合って下さい!」
彼が逆光に目を細める。
私はその時、夕陽では顔が赤らむのを隠せないのだと知った。

高樫 何某 @naniga4_takaga4
《18時に屋上に来てください》
手紙をクラスの女子に貰った。俺は5分前に来たが、彼女はまだ来てないようだ。
しばらくして、太陽が赤くなり始めたころだった。
「好きです!付き合って下さい!」
俺は目を細めて答える。
「夕焼けが後ろだと、逆光で意味ないね。いいよ」
逆光でも赤い顔が分かった。

白花みのり @shirahana_m
震える彼女の肩に手を置く。言い聞かせるように目を合わせる。館に招待された9人。残ったのは君と僕だけ。ワインに毒を混ぜたのも、車に細工して転落させたのも、彼を刺したのも、証拠を消すため館に火を放ったのも。すべて僕がやったこと。この事件の結末はそれでいい。君の手は汚れてなんかいない。

我楽 太(サイトからの投稿)
曇天の寒空の下で、僕らは歩く。
空は泣き出して、やがて細雪になった。
「降ったね」
「うん」
僕らは傘をさした。柄を握る手は雪を吸って、かじかみ、赤らむ。
しかし、もう一方の手は温かい。
今日、僕らの心は繋がった。
熱に浮かされる僕らの頬が朱に染まっている。

我楽 太(サイトからの投稿)
「これ以上の延命は推奨できません」
医師は宣告する。
私は眠る父の腕を握った。細い腕に反応はない。
「わかりました。でも、自分でやらせてください」
私は装置の電源を切った。心電図の曲線がフラットになる。
父の腕を握る。温もりが私に流れてくる。
私の瞳からは熱いものが流れた。

山尾 登 @noboru_yamao
気軽に口走った言葉が、夫婦関係の瓦解の始まりだった。でもそれは、大いなる思い違いだった。あてにしていた転職先を、上司との諍いで棒に振ったあの時から、すでに妻は見切りをつけていたのだろう。赤い糸で結ばれていたんだ!って慶び合っていた新婚生活だったが。あの糸は、頼りなく細かったのだ。

我楽 太(サイトからの投稿)
「神は細部に宿る」が亡き画の師匠の口癖だった。
 確かに、AIの画には細部の粗が目立つ。これでは神は去る。
 しかし、神が嫌うのは、AIか、それとも私のどちらなのだろう。
 そのようなことを考えながら、今日も師匠の遺作を薪にして、AIに作品を出力させている。

葉山みとと @mitotomapo
ぽと。 ぽと。

 落下した椿は、裏返ったりなどせず必ず天を仰ぐ。

 ためしにその付け根をつん、と。突いてみたのは些細な悪戯心。気怠い春の日で、皆一様に憂鬱で、誰も誰をも見ていなくて、だから

ぼと。(容易く)

 ただ、目が合う

地の底で咲く鮮やかな花弁。

八木寅 @yagitola
お父さんは存在感が薄い。体も細く薄っぺらいから、いい風が来ると飛んでいってしまう。いつの間にか消えたお父さんを探すのは大変だ。飛んでいかないように、お母さんは手綱を握るようになった。近頃は五十肩で辛いらしい。代わりに私が握った。けど、繋いでおきたい男性に出会い、お父さんは飛んだ。

紗那(サイトからの投稿)
ゆっくりと藍色に染まった空には小さくも綺麗な星々の光が見える。
今日はいつもと違う道で帰ろうかと、見かけた細い路地に入ってみる。
街灯のない道を照らすのは家々の明かりだけ。
いつもと違う道という好奇心に駆られながら少女は歩いていく。
少女の頭上には煌びやかな星が輝いた。

鈴欄 @suzurantuzuri
モラハラ夫が私に言う。
「おいおい、ちゃんと掃除したのか? 俺の可愛い子供が汚れるだろう!」
些細な事で夫は怒る。
「すいません。やり直します」
「それにしても可愛いなぁ。俺にそっくりだよな」
「そうですね」
夫は息子を溺愛している。

でもね。
ーーこの子の父親はあんたじゃないから。

くろまめ(サイトからの投稿)
幻想的で美しい夜ほど
月は控えめに輝いて魅了する

片手を掲げて藍紫の空を見上げ観て
それから雲の流れに視線を任せ
すーっと眺めてようやく理解する

儚くも凛とした細月の様な
自分の存在意義を

馬鈴薯(サイトからの投稿)
「知ってるから見えるんだよ」彼女はそう言うと薄く笑った。僕はまったく訳が分からなくて、もう一度尋ねようとしたけれど、もうそのときには彼女の姿はなかった。目を細めても、辺りを見回しても、彼女の姿は既になかった。

たつきち @TatsukichiNo3
探偵は細い糸を手繰り寄せては答えを導き出していると思っていた。「違うね。最初にもう答えは見えているんだ」目の前に立つ探偵は言い放つ。「君ら凡人でもわかるように、証拠とやらを見つける作業が、僕にとっては面倒なことなんだよ」探偵は顔を顰める。「すみません」僕は素直に謝るしかなかった。

ヘナ(サイトからの投稿)
なびく桜と30という年齢がその対比として私の記憶を呼び起こす。「あれ、綾香じゃね?」まだ少し葉の残る桜の木の陰を指さして涼介は言う。「結婚すると思ってたよ。」と言うと、涼介は苦笑いしながら首を振った。制服姿の綾香は確かに綺麗だった。その内側に隠された細いくびれもまだ忘れられない。

秋透 清太(サイトからの投稿)
その人が三味線を構えた瞬間に予感がした。何かが変わる予感。そして、始まる予感。撥が糸を叩く。細棹が揺れる。艶やかで深みのある音が胸を満たしてゆく。体育館の中なのに、その人の周りだけ雪が降っていた。静かに、真っ白な雪が。面倒とさえ思っていた地域の体験学習。ここから全てが始まった。

4月23日

と龍(サイトからの投稿)
最近はこの辺りも詳しくなった。だから今日はあえて細い道も選んじゃう。それでも迷わない自信があったのだ。だけど道はどんどん細くなり、最終的には行き止まり。新生活。転校前の親友への道に似ていた。ああ、あの子のいない私の人生も、こんな感じに行き止まりなのかな。迷わない自信があったのに。

秋田 絶(サイトからの投稿)
人間が年越しそばを食べるのは、細く長く生きる為らしい。飼い主は毎年欠かさずそれを食べていた。だけど、ある日突然倒れて、運ばれて、戻ってこなくなった。その時から髭がピンとしないこと、爪が伸びすぎてること、上手く眠れなくなったこと、全部飼い主のせいだ。毎日、そば食べればよかったのに。

美心(サイトからの投稿)
 私が初めて雪に触れた小学生の冬。名前が雪なのもあって当時の私は、顔に当たる冷たく細かく冷たい雪に夢中になって曇り空を仰いだことを年老いた今も覚えている。
 もう空を見上げる元気もなくなった私にはあの景色をもう一度見ることは叶わないのかもしれない。
――あぁ、死にたくない――

涼月摩耶(サイトからの投稿)
夏の甲子園球場で高校生が宙を舞う白球めざし必死に追いかける。あと一点という声の龍が球場内を飛び回る。エースがバッターボックスに立つ。龍が飛び回っている球場で、白球を打つ音が場内に響く。目を細めるほど小さくなった打球が観客席にアーチを描く。刹那、龍が咆哮を上げる。

涼月摩耶(サイトからの投稿)
主役というたった一本の細い糸を無数の役者が争う。私は幼いころに見た主演女優に憧れ芸能界に足を踏み入れた。彼女のような存在になるために。その一心で過酷なレッスンを過ごした。私は念願の主役を勝ち取った。私は彼女のようになれたのだろうか。これからも私は未知の世界に足を踏み込んでいく。

(サイトからの投稿)
目には見えない細い糸。どこまで伸びているかも、どこに繋がっているかもわからない。
ある日突然切れてしまうかもしれないし、糸の先と巡り合うかもしれない。それは神様だけが知りえる話で、私たちにはわからない。
ただ言えるのは誰にでもいつかその糸が赤く色づく日が訪れるということだけだ。

月乃香(サイトからの投稿)
目深にローブを被った魔女がふぅと息を吐く。今夜は星が奇麗だ。魔女は星空に手をかざした。星が風に揺れて瞬いている。魔女はそっと瓶に手をかざすと魔法をかけた。きらきらと輝く魔法は瓶に収まり、瓶は満天の星で満たされた。魔女はできたばかりの『魔法の瓶詰』を光にかざすと、目を細めて笑った。

ちかち @UncleRemusBrer
向かいの窓には私の住んでる団地と同じ家々が続いている。今の私に学校や母からの電話は必要ないはずだった。思い立ったのは今朝、乗るはずの電車に乗り遅れたとき。アナウンスはこの電車の方が早く出発すると言った。トンネルを抜ける度、私の心はキュッと細くなる。どれだけ揺られても海は見えない。

早希子(サイトからの投稿)
トイプードルを飼った。汚れた身体を洗うと細い身体になった。痩せていたんだね。可愛さに思わず笑う。けれど犬は早くお風呂から出たいと騒ぐ。細い身体をブルブルッと振る。お風呂が終わると走り出す。また外へ出てしまった。見えなくなる細い身体。追いかける私。見つけたけれど又散歩する事にした。

早希子(サイトからの投稿)
貴方が歌う。空に向かって手を広げて。花も咲いている。香りは広がる。香りを胸に吸い込む。細い指輪が光る。私は自然に細くなる目で貴方をみていた。あたたかい風がふく。時折り鳥が鳴く。その時のハーモニーが面白くてて目を細めて笑ってしまう。小さく私も歌う。いつまにか暗くなる空も見守っていた

鈴欄 @suzurantuzuri
遊び相手に昔話をした。
「生死を彷徨ったとき、死んだ親父が現れて『おいで』と言った」
「何故行かなかったの?」
「毒親だから、もう絶対に関わりたくない」
「お父さんも1つは良い事をしたね。あなたを私の元に戻してくれた」
彼女の言葉に俺の心の細な部分が激しく揺れ。
 唯一無二の女になった。

早希子(サイトからの投稿)
細い道に紛れ込んだ。細い道は続いている。貴方は歩く。時折、雨が降る。川に雨が落ちる。細い小枝が流れている。その小枝を、掴もうとしたけれど、そのまま流してあげた方が良い気がした。また歩く。川に葉も流れる。立ち止まって葉を見つめた。葉に雨があたる。たまには道草もしようと、つぶやいた

くろまめ(サイトからの投稿)
『お父さん。』
必死に涙を堪えて呼びかけた一言だった
痩せ細って小さくなった身体は
寝返りすら打てないほどに固まっている
瞬きすらできなくなった大きな眼は
ギョロっとしたまま
何処か一点を見つめていて
何の反応も無い
私が幸せと引き換えに捨てた
父の最後である。

明桜生(サイトからの投稿)
雪だるまの腕にでも使っていたんだろう、細い枝と木の実が溶けた雪の水溜りに落ちていた。日陰だから、他のところより溶けるのが遅かったようだ。小さい木の実と細い枝と小さい水溜り。次の日までここにあるかも分からない、雪解けと同時に忘れ去られたであろう小人。

ももこ @momo_beni
飴をもらった。ソーダ味らしい。袋を開けると、まん丸な飴が飛び出て、床に落ち、一瞬光り、散ってしまった。流れ星みたいだ、と思いながら欠片を拾う。集めた欠片は、細波みたいにきらめいた。この青い星もいつか……なんて考えが膨らみ、思わず飲み込む。飴は、しゅわしゅわ……と儚く消えていった。

藤原(サイトからの投稿)
私は娘を愛している、名前を呼ぶと「なに?」と駆け寄って来る姿が愛おしい、小さく寝息をかいている姿を見るだけ何だって頑張れる。しかしこの子もいつかは醜い大人になってしまう。でも、もう大丈夫。包丁を片手にあの子の元へ向かう。あの子を愛し続けれるならこんな行為は些細な事だ。

4月22日

ジョナサン @xxdokunlot2
かねてより期待されていた細川氏が宇宙へ旅立った!というラジオからの音声を聴きながら、私はコーヒーに映った月をスプーンでひとすくいして飲んで満足する
私は宇宙飛行士が降り立つ前に月を飲んでやったぞ、と一人ほくそ笑んでは月を見上げてコーヒーカップを持ち上げる
今宵の月に、細川氏に健闘を

鈴欄 @suzurantuzuri
夫婦2人の家に指輪が落ちていた。「この指輪知っている?」夫が指輪に目を遣り「知らない」と言う。私はリングの内側の文字を読む。「from ken to Yumi どちらも知らない名前ね」夫が細かく震えている。夫の浮気相手には夫以外にも男がいる。今それを私が教えて上げた。浮気される気持ちを知れば良い。

さやこ(サイトからの投稿)
あの手この手でなんとかまとめて三つ編みにした。細くて短くて不恰好である。結べないならショートになんて、とんでもない校則だ。輝く絹のような姉の黒髪に憧れていた。すぐにでも染めたいという本人の発言には耳を疑ったものだ。叶うなら、手に入れたい。これはわたしが初めて焦がれた美しさなのだ。

水原月 @mizootikyuubi
時間の単位がとうとう変わってしまった。「秒」は「細麺」に、「分」は「太麺」になった。例えば五分三十秒は、五太麺三十細麺となってしまうのだ。
なんてことだ。ため息をつきながら「細麺の茹で時間は二太麺三十細麺」とレシピ帳を書き換える。ラーメン屋にとっては、ややこしすぎる。

長月秋 @_aki_nagatuki
もしも願いが叶うのなら、細長い指先に触れて少し握ることを許して欲しい。貴方の前に立つよりも、貴方の隣にいたい。レンズ越しよりも、貴方の目を見たい。気づいているかな、シャッターを切る指に止まったモンシロチョウに嫉妬している私を。気づいていないでしょうね、もう貴方からは見えないから。

露野うた(サイトからの投稿)
カーテンの隙間から差し込む繊細な光たちが、わたしを優しく部屋に縫い付けていく。柔らかな陽、温もりを抱きしめて、瞼の裏で夢を描く。あなたの輪郭、春に取り残されて、景色と一緒に散っていく。わたしはそれを弔うように、桃色の花の名を口にする。それは永遠を作る呪いで、おまじないだったんだ。

兎野しっぽ @sippo_usagino
彼女は天才的な芸術家だ。繊細なタッチ、独創的なセンス、鮮やかな色彩。どの作品も一目見れば心を奪われるような、摩訶不思議な魅力を放っていた。こんな天才は100年にひとりも現れまい。
新作を描き終えた彼女が、得意げに振り返った。
「パパの似顔絵できたよ」
うわぁ、パパの顔、すごい緑色だぁ。

天透 奎(サイトからの投稿)
拾った時はあんなに細かった白い子猫が、愛情とごはんをたらふく与えて育てた結果、まるまると太ってしまった。名前をそうめんからうどんに変えるか否か、今夜家族会議が開かれる予定だ。

ちなみに私が提案したおもちは、さらに太りそうという理由で早々に却下された。

星部かふぇ(サイトからの投稿)
僕の不注意で硝子細工を落としてしまった。金色の天使のような装飾は砕け散り、見るも無残な姿に変わり果てた。窓から差し込む夕日が僕の部屋を星屑の煌めきで満たそうと、砕けた硝子がどれだけ美しかろうと、あの天使の硝子細工で無いなら意味がない。夕日を背に座り込み、茫然とがらくたを見つめた。

王馬せつか(サイトからの投稿)
運動神経抜群の彼女はダイエットに成功し、ただでさえ瘦(や)せている体を、さらに細くしたいという願望がある。だが、ことごとく邪魔が入り、瘦せるどころかどんどん太っていった。結果を見てやけになった彼女は、ならいっそ太ってやろうと決意し、丸々と太った彼女は立派な柔道選手なった。

なつ(サイトからの投稿)
 ポォー。体育館裏に、フルートにしては間の抜けた音が鳴る。
「部活、やめようかな」
「どうして?」
 独り言に返事があって驚く。
「先輩」
私は黙っていた。
「フルートの息は細く、長く。宮野の息は丁寧だから、音も綺麗だ」
 顔が熱くなる。
「部活、もう少し続けてみます」

柳雪丸(サイトからの投稿)
クラゲちゃんは泳いだ。スーっと水に流されて。クラゲちゃんは泳いだ。かさを細やかに動かして。クラゲちゃんは泳いだ。友達の後を追いかけて。
「クラゲはね、薄くだけど光るよ。だから君に導かれるだけじゃなくて、わたしも君の道導になる!」
クラゲちゃんは泳いだ。君が迷子にならないように。

優斗(サイトからの投稿)
細蟹が目の前に現れると、待ち人が来る前兆なのだという噂がある。
窓際から現れたそれは、キラキラとした糸をたらしこちらを見ていた。
「そこにいるのかい?」
静寂だけが答えだった。
先に置いて行ったくせに、わがままな人だ。
とうに動かなくなったはずの体を起こす。
「今いきますからね」

(サイトからの投稿)
艶のある黒い髪。袖から覗く白い肌。形のいい赤い唇。魔法にかけられた世界で一番かわいい女の子。
けれど外に出ると魔法は解けてしまう。細く見えていた手足は街を歩くと歪み、醜く消えていく。
城の外では生きられない、鏡の中のお姫様。

鷹村さいた(サイトからの投稿)
私は繊細さんだ。終末の繊細さんだ。今日も一人でおにぎりを食べる。屋上で食べるおにぎりは格別だ。時々遠くの建物が壊れてびっくりするけど、人ごみにいるよりましだ。時々爆発音がするけど、隣の人の貧乏ゆすりよりましだ。私は繊細さんだ。終末の繊細さんだ。この終末世界が大好きだ。

鈴響聖夜(サイトからの投稿)
黎明。そんな言葉が思い浮かぶ世界が、窓一面に広がっていた。随分続いた雨は上がり、雲の隙間から細く薄明が覗いている。新緑は活き活きと揺らぎ、泡沫が淡く消えゆく。新聞配達員は駆けていく。遠くから汽笛が聞こえる。また今日が始まっていく。取り残された僕は、太陽から逃げように布団を敷いた。

(サイトからの投稿)
ぼくの兄は細かい人間だと思う。家を出る十分前には用意を済ませるようにとか、リモコンを置く位置とか、とにかくグチグチとうるさいのだ。
病床の今なら、当時の兄の心情が痛いほどわかる。置いていく存在を愚直に愛し、託された使命を全うしようと懸命にもがいた結果だったのだと。

藍揺(サイトからの投稿)
 キラキラと光っている。
 観客席から見上げる彼女は、光と見間違うほどに輝いていた。
 その姿は、昨日までの彼女とは全くの別人だった。
 地球上の誰よりも感じやすくて繊細な彼女がどうか傷つきませんように。
 僕にできるのは、遠ざかっていく彼女の背にただ祈ることだけだった。

自慢職(サイトからの投稿)
母の腕のことを今まで私は、周りの人間が見るように細腕と思うことはなかった。
乳母車をも買えなかった母はいつも私を抱きかかえていた。病持ちの私の頭に水に濡れたハンカチを乗せてくれた。
その腕でしてくれたことを嫌に思うほどに思い返していた私は今、棺の中にいる母の手を初めて細腕と見た。

碧衣檸檬(サイトからの投稿)
 日曜の昼下がり、彼が声をかけてきた。
「なあ、お前、今から暇?」
「うん、暇だけど……」
 そう返すと、彼は目を細めて私の方へと寄ってきた。
「買い物に行こう」
「何を買うの?」
 彼は私の細い指をなぞって言った。
「お前の指輪」
 あの日買った指輪は今も私の指に輝いている。

大谷航史(サイトからの投稿)
 宗一は歩いていた。
真っ暗闇の中に走る細長い道を。
 道は基本平坦なのだが、時折山のような斜面が現れる。その繰り返し。
 だが今は違う。どれだけ歩いても平坦で山がないのである。
宗一は疑問に思いながらもその道を歩き続けた。
 ベッドで眠る宗一の横で、心電図の音だけが鳴り響いた。

モサク @mosaku_kansui
友だちの手のあいだを赤い毛糸がすいすい泳ぐ。さっきまで一本の細い糸だったものは、目の前で箒やちょうちょに姿を変えた。「一緒にやる?」ぴんと張った三角にそっと指先を入れる。私の手に移動した糸はふにゃふにゃと歪んでしまう。「大丈夫」添えられた指が力をくれて、突然ダイヤマークが現れた。

自慢職(サイトからの投稿)
母の腕のことを私は今まで周りの人間が見るように細腕と思うことはなかった。乳母車をも買えなかった母はいつも私を抱きかかえていた。病持ちの私の頭に水に濡れたハンカチを乗せた。そのようにその腕でしてくれたことを嫌に思うほどに思い返していた私は今、棺の中にいる母の手を初めて細腕と見た。

しのさん(サイトからの投稿)
君は細い。繋げば隙間に収まる指も、組んだ腕の中に納まる身体も力を込めれば折れてしまいそうな細さだ。ときどき同性の子達からもかいがいしく世話をされては「ひとりで大丈夫なのに」なんて頬を膨らませていた。こうして堪忍袋の緒が切れると俺を連れ、お気に入りのつぼ湯にふたりで入りに行くのだ。

かぼすサワー @strong_zero1107
「あんた男なのに刺繍好きだよね」
ハンカチを受け取りながら偏見じみた失礼な事を言う幼なじみ。
「細い糸がこんな素敵な作品になるんだぞ。凄いと思わないのかね」
「サイネリア。あんたの事だからそれっぽい花言葉を探したんでしょうね」
「学生の恋愛なんて、そのうちそう思えるさ」
「全部ダサ」

如月恵 @kisaragi14kei
病院のホールにピアノが置かれている。ピアニストと共に世界を旅した後、寄贈された。医師は人気のないホールの椅子に腰かけた。死の間際までピアニストの細い指はピアノを弾いているかのように動いていた。身体の重みに疲れを感じ吹き抜けを見上げればピアノの音がきらめきながら昇って行った。

酒部朔(サイトからの投稿)
介護用のミトンを外すと細くなった指が現れる。鼻歌でもうまかったらよかった。ホラ話がうまかったらよかった。もっと父と触れ合えばよかった。手を握れるのは最後になるだろう。ぼくがいきなりそんなことをしたら、そう、最期だと父は悟るだろう。ぼくは握った。ぼくが生きていくために握った。

酒部朔(サイトからの投稿)
雨が降って星の火は消えた。観測者は漆黒のコーヒーを眺める。最後の一人になった。雨は細雪に変わり、観測者は星座盤を燃やして暖を取る。冷たい眼鏡を拭く。頃合だ、呟いてハンドルを回す。歯車が大気圏を覆い、地球は墓石になった。宇宙では透き通る巨大な手が花を供えて、地球の最期を悼んでいた。

酒部朔(サイトからの投稿)
夢を見るんです。牧場が燃える夢です。火のついた羊が飛び出して、いなないて。私は裸みたいな格好で外に出る。ホースからは細い水しか出てこない。どうしようもなくて、一匹の燃える仔羊を抱きしめる。真夜中に目覚めると仔羊の震えが腕の中に残っていて、胸に火ぶくれが瞬いている。あかあかと蠢く。

4月21日

沙羅双樹(サイトからの投稿)
今は亡き人からの手紙を読んでいた。
愛おしむように指で文字をなぞる。
線は細く、字は小さい。けれど一画一画丁寧に書かれたそれは紛れもない母の字だった。
そこに温かく確かな繋がりを感じられる。
「あなたのような母になります」
顔をあげ蒼穹に向かって、出産したことを報せた。

まごまご @85phl
細身の身体にタートルネックとスキニーパンツ、無造作な黒髪ヘアーに涼やかな目元。思った以上の完成度にマスクの下で思わず口角を上げた。待ち合わせで有名なオブジェの前で、ライブTシャツを着た女の子を見つけ、声を掛ける。
スマホから顔を上げた彼女の瞳孔が、じわりと開いてゆくのがわかった。

けんたろ @kentaro135512
「まあ、懐かしい」
小さな巻き貝のひとつを手にとって
祖母が目を細める。
「細螺ね。昔は浜で採れたものだけれど」
内海に面した集落の神社。
亡くなって久しい祖母の声が聞こえてくる。
迎え火までまだ日があるのに、
生前かわいいもの好きで慌て者の祖母は
もう現世に来ているようだ。

秋田 絶(サイトからの投稿)
「早く大人になりたいなぁ。」大人っぽい顔した子供が前よりも低くなった声で言う。
「子供の頃に戻りたいなぁ。」子供っぽい顔した大人が低い声で言う。
2人は同じ頼りない細い月を、全く大きさの違う国から見ていた。午前2時15分のことだった。結局2人は、愛されるより愛したいのであった。

一途彩士(サイトからの投稿)
僕はずっと真っ暗闇の世界を彷徨っていた。重い足と喉の渇きが限界に達したとき、天から細く頼りない光が降りてきて思わず手を伸ばした。空をきるかと思ったが、光から生まれた白い手を僕は掴めた。
「……女神様?」
僕が零した言葉を聞いて、手の主は笑った。
「生きてるときもそう言ってたわね」

一途彩士(サイトからの投稿)
お隣さんは細い薬指が印象的な人だった。どうしてその指だけ細いのか尋ねたら、指輪をつけていたからだと言った。羨ましくて、自分も彼氏ができてすぐに指輪を贈った。付き合って数年経ったある日、彼は指輪を外していた。他の女と会うために。彼の指が思い出のあの人ほど細くならないのは当然だった。

秋透 清太(サイトからの投稿)
いつもと同じ朝。特別なにかがあったわけではない。強いて言えば少し疲れていて、気づけば会社と逆方向の電車に乗っていた。平日の朝、新宿御苑はとても静かだった。ゆっくり苑内を一周して、今はベンチに座っている。春一番。パキッと軽い音がして、細い枝が落ちてきた。会社にはまだ連絡していない。

明桜生(サイトからの投稿)
ハナミズキの、細い茎を折る。押し花にして、手紙に添えて、ポストに入れる。余った花びらを破いて、こちらに送られてきた手紙に入っていたチューリップの花びらと一緒に捨てた。あの細い腕に抱かれることももうなくなる。仕方のないこと、もう決められているのだから。変えることはできないから。

桜 花音 @ka_sakura39
引き出しに長くしまってあった婚約指輪。細いリングはとっくに私の指にはおさまらない。娘が幼い頃に『お嫁に行く時には、この指輪ちょうだい』と目を輝かせていた。そんな事を思い浮かべながら今、純白に身を包み、永遠の愛を誓う娘を見送る。左手には、かつて私の指におさまっていた指輪をはめて。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
曽て町の人たちの体を温めた風呂屋の煙突は周りに建てられたタワーマンションの陰になり、細い体を震わせています。その姿を見下げてタワマンが言いました。
「役立たずの耄碌爺さん、足元で煙を吐かれたんじゃ迷惑だよ」
煙突は細い声で
「若いの頑張れよ。人々が再び儂に頼る将来など望んでおらん」

真央(サイトからの投稿)
病室を訪れる度に彼女は段々と痩せ細っていくように感じた。彼女の異変に気付き始めたのは今年の春頃で、彼が訪れた今は夏の初めである。「次は、いつ来れるの」と彼女。彼は「七夕の日にまた来るよ」と手を握った。彼女は寂しそうに笑い、「彦星と織姫は会えないかもね」と呟くように言ったのだった。

真央(サイトからの投稿)
春を迎えた初日、私は風を引いてしまったのであった。「先生に何て言われたの」と彼は、横になっている私を尻目に問い掛ける。「細菌感染症だって言われたよ」と私。微笑む彼が「正に最近、感染だね」と独り言ちた。愉快そうだ。だが私は彼の称える、その微笑の意味をすぐには理解できずにいた。

真央(サイトからの投稿)
桜の細枝で寄り合う二羽の目白の内、一羽だけが突然にして飛び去って行くのを、僕は偶然にも捉えていた。幹の桜が小さく散る。残された目白はたじろぎ、その場を動かずに首を回しているだけである。野鳥撮影家の僕はシャッターを切りながらも、ただただ同情の目を投げ掛けたのだった。

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