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ガ○トでレアチーズケーキを食べる男

昼下がりのファミレスに男が一人、ドリンクバーの冷めたコーヒーを飲みながらノートパソコンを開いて何か作業している。一見すると男は風格もあり仕事が出来そうで、さるIT関係の経営者か、とも見えなくもないが、実際のところはいつまでも就職できないでいる三十路前のニートフリーターである。

その男を少し気にしつつも警戒しているのはアルバイトの女子高生ウェイターである。18歳にしてはやや大柄で大学生にも見えなくもない彼女は、かつて男に声をかけられたことがあるからだ。男にしてみれば特に下心があったわけではないのだが、コロナ禍でいろいろと規制がある昨今である。若い女の子に得体のしれない男が声をかけるということは、欲求不満に駆られた変質者かもしれないと疑われてしまう可能性がつきまとう。

実際、男にはある女性に付きまとっているとして警察に呼び出された経験があった。それは男の家から自転車で30分ほどのところにあるスター○ックスの店長をしている女性とのことだったのだが、あるとき男はその店のアルバイトに応募したことがあった。コーヒーが好きでかっこいいそのカフェで働いてみたかったからだ。さて面接に行ってみるといくつか女性店長の言動に、ホエっ?と思う点があった。例えば男は北海道のある程度名の知れた大学に行っていたのだが、「北海道まで行ったのはスゴイ」とその店長は言ったのだ。それも2回繰り返して、「行ったのは」という点に力を込めて言ったのだった。男にはその言葉の意味が図りかねた。一体何がスゴイのか今ひとつピンとこなかったのである。男の地元は北関東だったので、実家を離れて遠い進学先を選んだことが「スゴイ」のか、それとも男の行った大学はそこそこ偏差値の高い学校だったが、出た大学の偏差値が高いことは評価しないよ、という意味なのかもしれないなどとも思えたのだった。本当のところどうだったのか、確かめる暇はなく何だかモヤモヤとした感じが残ってしまった。

いろいろと振り返ってみるに、コロナ禍の始まった去年からたびたびそんなモヤモヤを感じることが男にはあった。いずれもいちいち聞いて確かめるほどの事ではない、取るに足らないようなことなのだが、なんだか頭に引っかかるので、積もり積もっていくとちょっとしたストレスになるのである。さらに不可解だったのは、やたらと「何もしていない」かどうかを尋ねられたことである。なぜ他に何かしていてはいけないのか、やはりこれもよくわからないことの一つだった。そして何だかちょっと色っぽい感じで「夜のシフトは入れますか?」と尋ねられたので、男は肉体関係を求められているのかと思ってしまった。そして肉体関係をもたせて、男をヒモにしようとしているのではないか、それが男の考えた推論だった。

と、ここまで書いて男はやっぱりいろいろと考えすぎなのかもしれないな、と思い出した。コロナ禍で内省の時間が増えたせいで物事を深く解釈しすぎるようになっているのかもしれない。でも去年はだいぶ不思議なことが(あるいは不思議に思えることが)あったように思う。世界はいつも謎と神秘に満ちている。

ふと目を上げると少し離れた席で老夫婦がおそらくほとんどは冷凍のものを温め直して作られているのだろうと推測される日替わりランチを食べていた。夫の方はライスを、妻はフランスパンを半分ほど食べたところだった。やっぱり世界は神秘に満ちている、と男は思った。

スター○ックスの女店長との顛末についてはまだ書くことがあるといえばあるのだが、まあひとまずこのくらいにしておこうと思う。次に気が向いたときは、歪んだフェミニズムを振りかざすまた別のコーヒー豆屋の女店長とのひと悶着について書こうと思う。特に期待しないで待っていてほしい。

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