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女子競輪の児玉碧衣選手特集でメンタルが救われた話

古き良き中華料理屋で彼女と出会った

家から歩いて数分のところに、物価を昭和においてきた中華料理屋がある。
普通のチャーハン並みに盛られた半チャーハン。大きめの8個入り餃子。合わせて600円である。安い。

狭苦しく小汚いカウンターテーブルに座ると、ちょうど目線の先に壁掛けされたメニューがある。その真横に20インチほどの小さな液晶画面にその競輪選手が居た。

LEXUS lc500hと共に(一番最初に出てきた画像の白でした)すでに使い古された金持ちアピールの演出で登場した。

「あぁ…まじか…しんどくなるから見たくないなぁ」と思いながらも、チャンネルを変更する権限を持たない私。店主、お客さんともに顔見知りはいない。テレビに興味があるかのように、視線のやり場に困った私の目は彼女をイヤイヤ見つめていた。

名前は「児玉碧衣」競輪選手と言われなければ普通の女性に見える。アスリート体型というようにも私には見えなかった。右上のテロップには「3分で1000万爆稼ぎの謎の超レベチ福岡人とは!?」と書いてある。あぁ…なんと胡散臭い。というか古臭い。3分で1000万稼げる。いまどきITに疎い人でも騙されない謳い文句だな。

3分で1000万で稼ぐ理由

そうこうしているうちに、彼女の職業が紹介された。

「競輪選手」

あ~なるほど。それで3分で1000万か。さすがにテレビに出る人だから、本当に胡散臭い感じの人は出さないか。急に腰を据えて見る気になった。我ながら簡単に騙される視聴者である。

職業紹介のあと、すぐに彼女の練習風景が映し出された。とんでもないスピードでダッシュをしている。いやいや、練習ちゃんとやってんじゃん。そりゃそうだよな。そう思った瞬間。半周で彼女は練習を終えた。怪我でもしたのか?と心配していると

「今日は疲れたから半周で終わります。」

時間にして30分前後だったらしい。トップアスリートの練習量とはとても思わない。いや、彼らの練習量なんぞ私が知る由もないが、それでも少なすぎることぐらいはわかる。他の選手に彼女のことをインタビューしている様子も流れた。すごく微妙な顔をしながら「彼女はああいう人なんで」と嫉妬のような憎悪のような自分を憐れむかのような…。一言で言えば「私と違って天才です」ということだろう。

そのままLEXUSに乗り込み、彼女の家の中での過ごし方のシーンが流れた。私の自転車の知識は弱虫ペダルをかじった程度しかない。その私の予想では家に自転車のローラー台があるはずだ。これから室内練習シーンが流れるはずだ。

トップアスリートの自宅での過ごし方

おもむろに彼女はPS5を取り出し、テレビに接続した。ここでも私はまだ彼女を信じた。きっと競輪や自転車にまつわるゲームをするはずだと。しかし起動されたゲームは「真・三國無双8」だった。自転車には全く関係ない。バッサバッサと敵をなぎ倒していく、三国志をベースにしたゲームだ。

トップアスリートとはいえ、そのスポーツから頭を現実逃避する時間もきっと必要なのだろう。しかし彼女はときに10時間近くゲームをすることもあるらしい。ゲーム好きの私の目から見て、目線、操作、動き、姿勢。彼女は嘘をついていない。10時間の真意はともかく、それに近い時間ゲームをしている事はわかる。本当に、本当に、練習をほぼしていない。ずっとゲームをしている。

荒野行動というゲームで1日の最高課金額は120万円を超えたとも言っていた。使っていないブランド物のバッグやネットで購入した山のような服もクローゼットで眠っていた。なんだろう。この親近感。いや、もちろん彼女の毛ほども稼いでいないので額は桁違いだが、やっていることのスケールが違うだけだ。だらしなさ、お金の使い道、ゲームの時間。その番組の中だけの情報だと私と大差がない。しかし彼女は紛れもなくトップアスリートなのである。

児玉碧衣選手の競輪愛

初めて料理に挑戦したような、ベチャベチャの半チャーハンの箸が進まない。それは料理がまずいからか、その番組に釘付けだからか。そんな事を考えていると彼女の競輪愛についてのインタビューシーンが始まった。何も悪びれることも、どう思われるかも気にしていない様子で次のように話していた。

競輪は別に好きじゃない。稼げるからやってるだけ。

たしかにあれほどゲームをしているシーンを見せられていると、好きじゃないのも伝わってくる。しかし…なんだその曇りなき眼は…。こっちが申し訳なるぐらい純粋な目で「金のためにやってる」というのだ。ここまでくるといやらしさが全くない。自分なんて…と頼まれてもいないのに自己嫌悪に陥っていると、また衝撃的な一言が。

東京オリンピックは稼げないから出なかった

確かに金メダルを取っても日本の場合はそれほど報奨が出ない。周りの人たちからはお金は後からついてくるから。と言われたそうだが、彼女は目先に利益をとったようだ。後よりも目先のお金。普通なら絶対にやめておけと言われることだ。

私のメンタルは少し救われた

10%の認めたくない天才の存在 と 90%の思考の枠を外された感動 が素直な感想だ。もちろんテレビなので誇張はあるだろう。嘘も混じっているだろう。メディアは視聴率で食っている。それは知っている。自分もやっている仕事が近いから。そんなことはいい。ただ彼女が存在している。これが救いになる。

自分は天才じゃないから落ち込んでしまう人もいるだろう。しかし、人とは全く違うやり方で成功しちゃう人もいる。この事実も見逃してはいけない。周りの目を気にして、他の人のやり方を参考にしたところで、よくてトップ10入りといったところか。しかも苦しい。

独自のやり方で、独自の価値観、感性で。もしその感覚でトップが取れたなら、こんなに楽なことはないだろう。そんな甘い話が存在するわけがない。だからみんなやらない。だからやってのける人がうまくいくのかもしれない。

もちろん0-100になる必要はない。ヒトマネで並な自分を違うアプローチで攻めてみるのも面白いだろう。トップになろうなんて考えなくていい。ただ人と違うやり方で、自分にあうやり方で。もっと楽な生き方があるかもしれない。

…どうして食事をしながらこんなくだらない妄想をしていたんだろう。きっと半チャーハンが不味かったからだ。美味しかったらもっと食事に集中していたし、写真を取ってインスタにアップしていたかもしれない。まずい食事にもメリットを見つけたり。

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