見出し画像

【掌編】ほろ苦アイスコーヒー

気のない相手を、深追いするほど馬鹿なことはない。真山忠典はさっきから、友人である原田章介の愚痴と弱音を聞きながら、腹の底で意地悪く思った。原田は、この間から、同じバイト先の女の子に熱心にアプローチをかけているらしいが、ことごとくかわされ続けているらしい。

氷のとけてうすくなったアイスコーヒーを、あまりもう美味しくない、と思いつつすすりながら、真山は原田に訊く。

「なんで、相手が迷惑そうに思ってることを感づいてる時点で引かないの。そこでばしっと男らしく引いたほうが、あとあと彼女にとっては好印象なんだぞ?」
「だって、どーしても、どーしても、仲良くなりたいんだよ。映画さそって、飲み会さそって、だめだったけど、次はOKかもしれないって……。彼氏としてはだめでも、友達ならOKかもって」
「お前、ほんと馬鹿」

はーっとため息をつきながら、真山は言った。

「あのね、その子が、自分のテリトリーに入れたくないと思ってるっていうサインは、もう出てるの。それが内心わかってるんだったら、さっさと身を引いて、次の子探す。次の子は、お前のこと、懐に入れてもいいと思うかもしんないよ? 恋愛にしても友情にしても、相性があるんだから、片方がないと思ってたら、この先だって、ずっとないよ」
「そぉーかなぁー?」

まだ疑わし気な原田は、ぶつぶつ言いながら、もう残っていないオレンジジュースをストローですする。その様子が、少し気の毒になったので、真山は口を開いた。

「俺もさ、昔こいつと仲良くなりたい!って思ったやつがいて、野郎なんだけどさ、でもそいつは俺のことあんまり好きじゃなかったみたいで、いつもかわされたり避けられてたのね。でも、俺は、あがいて、いろいろかまおうとしたんだけど、逆にもう修復しようがないくらい、嫌われた。

でも、俺自身だって、苦手なやつっていてさ、そういう奴から、いっぱいかまわれると、どうしてもうざいって思っちゃうんだよな。自分がやっぱり苦手な奴がいて、そいつを避けたいと思ってしまうんなら、別の奴が、俺のこと嫌いで避けたって、それは許さなくちゃならない。よっぽどひどいいやがらせとかされる場合は別だけどさ、他人のこと苦手でいる自由もあるとは思わねえ?

俺、相手が自分のことたぶん苦手なんだろうなって思ったら、もうかまわないでほっとく。それが一番の相手への思いやりだと思うぜ」

「まーなー、そうだよな」

元気がなくなってしまった原田を、真山は励ますように言った。

「ま、そんな落ち込むなよ!俺は、お前のこと友人として愛してるぜ? 原田くん」
「やーめーてーくーれー!俺は可愛い女の子に好かれたいの!」
「相談聞いたついでだ、ここは俺がおごるよ。だから元気出せ」
「おごるなら高い焼肉にしてくれ」

やいやい言い始めた原田に、真山は(よかったな、少し元気になったみたいで)とひと安心した。同時に、人間関係は、思いやりが大事だな、と改めて、心に刻んだのだった。

いつも温かい応援をありがとうございます。記事がお気に召したらサポートいただけますと大変嬉しいです。いただいたサポ―トで資料本やほしかった本を買わせていただきます。