見出し画像

【ライブレポート】2021/3/13 LACCO TOWER レコ発ライブ「闇夜に烏、雪に鷺 ~現場と電波のレコ発開化~」

実に414日ぶりとなる有観客でのライブを開催したLACCO TOWER。3月31日に発売される黒白極撰曲集「闇夜に烏、雪に鷺」を記念してのレコ発ライブだ。

会場は彼らの地元・群馬の高崎芸術劇場スタジオシアター。フィシャルファンクラブ「猟虎塔」有料会員のみがチケットを購入することができる。これとは別に公式のYoutubeチャンネルにて無料配信も実施。

私はYoutubeにてライブを鑑賞した。悲しいことに大事な場面で回線が途切れてしまい、一時離脱を余儀なくされてしまったため中途半端な内容になってしまうが、有観客復活ライブという記念日でもあるので、諸々かいつまんでレポートしていこうと思う。

まずは冒頭。何かいつもと違う登場SEが流れ始める。いや、聴き馴染みはあるのだが、何かが違う…。そう、これは黒版と白版、両方のSEがMIXされているのだ。ステージに現れたメンバーの姿を見ても、この仕様には合点がいく。

白い衣装を身にまとう塩﨑啓示(Ba.)、重田雅俊(Dr.)に黒衣装に染まる松川ケイスケ(Vo.)と真一ジェット(Key.)、そして白シャツに黒ベストな細川大介(Gt.)。黒白極撰曲集にちなんでSEから衣装まで白と黒で揃えるあたり、憎らしい演出だ。

この一年、何度となく配信ライブでLACCO TOWERの姿を観てきたが、今日はひとつだけ今までと大きく異なるものがある。それは、観客の姿だ。画面からも、大きな拍手の音が聞こえてくる。

「400と14日ぶり。お待たせしました。おかえり、そしてただいま!LACCO TOWERですどうぞよろしく!」

ケイスケによる冒頭のあいさつ。「おかえり」「ただいま」という言葉が心に染みる。定番のフレーズではなく、今日のライブの本質を突いた言葉だろう。

ライブの幕開けは“非幸福論”から。LACCO TOWERらしい激しくも艶やかな曲で一気にボルテージを上昇させる。「始まったぞ!」と曲中にも観客を煽り、「現場と電波のレコ発開化へようこそ!」と告げるケイスケのエンジンはすでにフル回転に近い。

2曲目“怪人一面相”では大介によるタッピングも鮮やかなギターイントロが印象的だ。いい表情を浮かべながらベースプレイする啓示の姿に思わずこちらも笑みが浮かんでしまう。《おまじない》で右の指をクルクルまわすケイスケの舞いも美しい。

MCでは、コロナ対策で声が出せない観客に対し、手拍子と動作でその気持ちを表してほしいと語るケイスケ。有観客ライブができなかった400日あまりの日々を振り返り、人それぞれに悲しみやつらさがあったからこそ、今日が楽しみだったと話す。そして「みんな違うからこそ、この120分は我々にいただいて、どうせなら素晴らしい時間を過ごしてもらえたら」と告げる。

「今日は我々にとってもみんなにとっても記念すべき日にしたい」
「せめてこの2時間だけは泣かないように共に生きてきましょう」

こんな言葉とともに、湿っぽい空気など吹き飛ばして楽しもう、とばかりに3曲目“若葉”へ。
《せめて今だけ泣かないでよ もう離さないから》
《淡い緑が輝いたら それは始まりの季節》
希望へと進む歌いだしに心をぎゅっと掴まる。泣かないでよ、と歌うケイスケの隣には涙をこらえきれない啓示の姿が映し出される。彼の人柄が伝わってくる場面だ。思わずもらい泣きしそうになってしまう。配信画面には、観客席で天を衝くように挙がるたくさんの手も映っていて、あらためて有観客であることを実感した。

ステージのあちこちに設置されたモニターに映像を流すという演出も施されており、LACCO TOWER特有の工夫を凝らした照明ともあいまってインパクトのある空間が広がっていた。

続く4曲目、大介の黒いギターがキレッキレなイントロを奏でて始まる“必殺技”。《3,2,1》と歌う場面はきっと会場の観客たちも手を掲げ、指を折りながら楽しんでいるのだろう。やはり無観客時よりも明らかに表情が違うように感じるケイスケ。楽しそうに歌う姿が実にエモーショナルだ。一瞬だけ挟み込まれるベーススラップ、刹那の色気が素晴らしい。演奏を〆るタイミングで、満足げな表情を浮かべる重田。彼がライブ中にこんな顔をするなんて珍しいのでは。

“世界分之一人”では真一によるピアノでしっとりとしたイントロが奏でられる。激しかった“必殺技”からのギャップもあって曲の個性がより光る構成だ。歌詞もメロディも美しいこの曲は個人的にも大好きで、今日のセットリストに組み込まれていることが嬉しい。

5曲目となる“朝顔”は、ゆったりとリズムを刻む重田のドラムに真一のピアノが加わり、やがてケイスケが歌いだすという、トライアングルのバランスが見事だ。少しだけ気になったのは、ケイスケの高音域。少しだけ苦しそうで、いつもよりファルセット多めな印象だった。しかし真一のコーラスと重なるふたりのファルセット歌唱は抒情的で“朝顔”にさらなる深みを与えていた。

いろんなものが変わり、思い通りにならない中で、こんな世界になる前に作った歌が新たな役割を得たことが嬉しい…そんなMCから“歩調”。真一による美旋律のピアノから始まるこの曲は、スケール感のあるサビも含めてホールとの相性も抜群だ。ケイスケの右手は休むことなく動き続けて歌の感情や情景を伝えてくれる。

「ライブの感覚を思い出してきましたか?」というケイスケの言葉は、もしかしたら自分たちにも向けられていたかもしれない。

今日は換気タイムを設けているため前後半に分かれているのだが、早くも次の曲が前半最後の曲を迎える。

イントロで飛び出す啓示の軽快なベースソロも最高な“奇々怪々”。シングル“薄紅”のカップリングとして収録された曲で、なかなかライブでは味わえた記憶がない。ド派手に盛り上げる照明は、ゴリゴリハードに攻めるギターをはじめとしたLACCO TOWERサウンドとのハマり具合もバッチリだ。前半戦を締めくくるにふさわしい一曲だといえるだろう。

ステージを去りながら互いに健闘を称え合うかのように身体を寄せる大介と真一には、充実感がにじんでいた。

ここからは10分間の換気タイムに入るのだが、その際のユーモアたっぷりな影アナは重田が行っていた。のちに明かしていたが、これは録音ではなく生アナウンスとのこと。ヒリヒリするようなステージから一転して笑いを持ってくるところも実にLACCO TOWERらしい。

10分の休憩を経て、ライブは後半戦に突入。「行こうぜ未来の前夜へ!」というケイスケの掛け声から“未来前夜”へ。ケイスケが歌う隣で、メロディには被せずに歌声と重なっていく大介ギターの存在感はさすが。所狭しとステージを移動するなど、音だけでなく自身も躍動していた。ライブ中、啓示の視線は観客席へ飛んでいるように見える。視線の先に観客がいるということがどれほど嬉しいか伝わってくる瞬間だ。

“罪”では一転して鬼気迫る表情を浮かべて演奏する啓示。曲によって、あるいは曲中でもその表情を変えながらプレイする、そんな姿を楽しめるのもライブの醍醐味だ。

《一廻り 二廻り》で手をクルクルするケイスケを見て、(ああ、会場で一緒にやりたかった)と思わずにはいられなかった。手拍子もあるため、観客も一緒になって楽しめる一曲。

“罪”は2020年発表、ということは観客の目の前で披露されるのは初めてになるだろうか。この曲でもそうだが、LACCO TOWERには多くの曲にギターソロが組み込まれている。彼らのサウンドにおいてギターの存在がいかに大きいかが表れていると言ってもいいだろう。

11曲目の“珈琲”は、ハードロックにブルーステイストも注がれた渋くてカッコいいギターソロから始まった。ピンスポに照らされて輝く大介の見せ場だ。そのままギザついたギターに啓示のベースが鮮やかに重なる。酔いしれるように聴き入っていると、ケイスケが《お砂糖みたい》と歌った次の瞬間、突然カメラが真一を抜く。そこで飛び出したのは《お砂糖みたーーい!》というふざけた(?)コーラス。タイミングよく偶然カメラが捉える可能性は少ないので、これは真一が完全に狙っていたに違いない…!

→実際、その通りだった。

続く“茜”では、温かみのあるシンセが鳴る中、茜色に照らされたステージが映える。切ない歌にピタリと寄り添う、大介による泣けるギターソロも秀逸。切なさが幾重にも重なっていくようだ。ギターに負けることなく、感情たっぷりに歌うケイスケの歌声もまた風情を感じる。

音に強弱をつけ、言葉はないが歌うようなピアノソロで始まったのは“雨後晴”だ。通常時であれば、《Oh Oh Oh Oh》と雄叫びのような声を観客が一体となって生み出し、その勢いを力に変えて曲へと入っていくのだが、今日は違う。

声を出すことができない観客に代わりにメンバーが声を出す。

「今はこれが最高です」
「ここからまた一緒にライブを作っていこうぜ」

歌うことはできないが、手を挙げることで応える観客たち。

「ありがとう、よう聞こえるわ!」

客席やカメラに向かって叫ぶケイスケ。配信組は画面の前で手を挙げ、あるいは歌っていたかもしれない。直接は届けられない想いを、画面に映る観客の拳に乗せて。そんなファンたちの「歌声」はしっかりとメンバーに届いたことだろう。

観客を鼓舞するように、あるいは優しく包み込むように振る舞い、歌うケイスケの姿は、そのことを証明するようなパフォーマンスだった。

ライブはあっという間に終盤、ラストスパートに突入する。“狂喜乱舞”ではカラフルで攻撃的照明がステージを射す。重田と啓示が生み出すグルーヴにドライブがかかり、一気に加速していくLACCO TOWER。まさに狂喜乱舞するかのごとく激しい音がホールに舞う。

15曲目となる“火花”。こちらもいつもなら観客が叫ぶオイコールだが「代わりに俺らが言うから手だけくれ」とケイスケは言う。さらに「全部置いていけよ!明日肩が上がらんくらい手を挙げてみろコラァ!」とドSな顔ものぞかせる。

サビのツービートで曲の回転数も上がり、熱量もUP。ジャズテイストも加わったピアノ伴奏が曲にさらなる表情を与えることで、“火花”そのものが豊かに育っていく。ザスパクサツ群馬の公式応援ソングにもなったこの曲への思い入れもあってか、激しいパフォーマンスを繰り広げた啓示は、演奏を終えるとその場に倒れこんでしまう。そんな彼に向かい、会場からは拍手喝采が送られた。

ついに本編最後の曲を迎えるというタイミングで、ケイスケは語った。

414日ぶりの有観客ライブ。当たり前の毎日がそうならなくなって、やりたいこともできず違うことでカバーしようとして、しんどかったよね?俺はしんどかった。手を替え品を替え、いろいろやってみたけどステージに立って声を出し、みんなに向かって歌い、この5人で演奏することは何にも代えられなくて。

悲しいときには悲しい歌を。
楽しいときは楽しい歌を。

音とライブの半分をごそっともってかれて両手両足もがれたみたいでつらかった。目に見えない傷あともあって、それを解消するのが現場。

ほとんどのアーティストは365日ライブはできない。ライブは特別な出来事。みんなもそうだけどスタッフも楽しみにしていた、特別な日。そんな日を、僕らの0から1になったこの日を、猟虎塔(オフィシャルFC)のみんなと迎えられたのは嬉しい。

ライブがどうなるかわからない。
たくさんのバンドが死んでいった。
これからも死んでいくかもしれない。
俺らは変わらずにここで歌い続けていこうと思う。

せめて今だけは泣かないで顔を上げて
できれば薄い布一枚の奥で、笑ってくれればと。


長く、そして丁寧なメッセージを語り終えると最後の歌、“夕立”を披露した。関東地方では激しい雷雨となったこの日にふさわしい一曲だったかもしれない。

素敵な時間をどうもありがとう。
あなたのおかげでバンドに戻れました。
ありがとう高崎。
ありがとう地元。
ありがとうラッ子(LACCO TOWERファンの呼称)のみんな。

ケイスケの言葉とともに16曲の演奏を終えて、5人はステージを去る。

いつもならここで始まる、LACCO TOWERのアンコールとしておなじみのラッコ節も今日は一切聞こえない。あるのは手拍子のみ。シンプルだが気持ちが伝わってくる音だ。

その気持ちに応えて、5人は再び現れる。

アンコールでは各メンバーがそれぞれにライブの感想やその他諸々を語る時間が用意されている。しかしコロナ禍においては時間厳守、早めに切り上げる必要もあるため、スピーチタイムは短め。

塩﨑啓示
“ラッコ節”のないアンコールは初めて。
バンドマンだなって思いました。
みんながいい顔してるのが見える。
もっといい音楽を届けたいとしみじみ思った。
俺らはずっとやっていくんで、よろしくお願いします!
細川大介
言いたいことはたくさんあるけど…ライブやんないと死んじゃう!
ロックは死なないしラッコも死なない!
重田雅俊
みんなの前でやれて良かったぜ、これからもよろしく!
サンキュー(ロックユー!)
みんなの中にロックはあるぜ!


「以上のメンバーでお送りしました」とケイスケが言えばすかさず「おーーーーい!」とツッコミを入れる真一。お約束の流れであると同時に、これを観客の目の前でやっているという事実が何よりも嬉しく感じる。

真一ジェット
こうやってライブができるって素晴らしいですね。
自分の想像していたのと違った。
(ライブは)楽しいんだろうなあと思ってたけど、1、2曲目で号泣してて。
自分でこんなんなるんだって。怪人一面相で泣くって…!
松川ケイスケ
四十肩か五十肩かわかりませんが、肩が上がらなくなるくらい手を挙げて。
これからも歌っていくから、よろしくね!


メンバーそれぞれにメッセージが告げられたところで、ついにアンコールのパフォーマンス。「闇夜に烏、雪に鷺 ~現場と電波のレコ発開化~」を締めくくる曲は“薄紅”だ。

「みんなに春が来ますように!」と言って歌いだしたケイスケだったが…途中で感極まり、涙で歌えなくなってしまう。涙顔を見せないように観客に背を向ける場面があり、これもう完全に観ているこちらがもらい泣き必至だった。

《時間よ、お願い止まっておくれ》と一部歌詞をアレンジ。今この瞬間、この景色をずっと感じていたいというケイスケの心の声がそうさせたのかもしれない。

活動休止明けでもないのに久しぶりとなった観客を入れてのライブに、充実感と達成感があふれ出てしまうような、メンバーの興奮が伝わってくるステージ。最後はケイスケの「愛してるぜ!」という絶叫で終幕を迎えたのだった。

セットリストは黒白極撰曲集「闇夜に烏、雪に鷺」収録曲に加え、DVD収録のMVから全17曲すべてをピックアップ。まさにレコ発ライブにふさわしいラインアップだ。

以前、別バンドでの有観客配信ライブを観たことがあるのだが、画面の前にいると(チャットやSNSはあるものの)こちらの興奮はどうしたってステージにいるメンバーには伝えられない。しかし現場に観客がいるなら、彼らがしっかり伝えてくれるはず。メンバーの目の前にいる観客のことを羨ましいと思うよりも、頼もしいと思う気持ちのほうが強かった。メンバーはきっと観客の反応を感じながらライブをすることができる。だから私の分もこの喜びを、この感情を届けてくれ、頼んだぞ、と。

同じように思った配信組も少なからずいたのではないだろうか。

実はメンバーが入場するタイミングで、すでに私は泣きそうになっていた。有観客ライブを観ることができて嬉しいというよりも、LACCO TOWERが観客のいる場所でライブをする機会を手にしたことへの喜びだったのだと思う。

1年半前までは当たり前に思っていたことが、当たり前ではなくなる。今回はコロナのせいで皆等しく、今までとは異なる世界線へと放り込まれた。しかしこの先の人生、自分自身に降りかかる何かによって、当たり前だったものがそうではなくなってしまう可能性はいくらでもある。

その日が来た時に後悔するな、というのは難しいが、それでもなるべく後悔を減らせるようにやりたいこと、言いたいことをひとつずつ実現できるよう、進んでいきたい。

そんなことを感じさせてくれる、LACCO TOWERの414日ぶりとなる有観客ライブだった。

いつもLACCO TOWERがかけてくれる「おかえり」という言葉。今日は我々観客側から彼らに伝えたい。

目の前で観客が見守っているステージに、おかえりなさいLACCO TOWER。

セットリスト
01.非幸福論
02.怪人一面相
03.若葉
04.必殺技
05.世界分之一人
06.朝顔
07.歩調
08.奇々怪々

~換気タイム~

09.未来前夜
10.罪
11.珈琲
12.茜
13.雨後晴
14.狂喜乱舞
15.火花
16.夕立

EN.
17.薄紅



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?