「父が娘に語る…経済の話」の、鼻歌的なサマリー

ベストセラーになっている「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」をしばらく前にダイヤモンド社三浦さんにおおくり頂きました。翻訳は「Factfulness」翻訳者のお一人の関美和さん。

 まず一度読みました。よく分からなかったのでKindleでハイライトしながらもう一度読みました。それでも分からないところがあったので、英語版を見て確認したりしました。著者は、ギリシャの経済危機時に財務大臣だった経済学者で、ティーンエイジャーの娘に向けて書いたそうなのですが、私の理解力が追いつかないんです。

で、なんとなく消化不良のまま読了しました。それなのに私は、つい、いろんな人に本書を勧めてしまうんです。消化不良ではあるものの、何か自分にとって気になる要素があるんだろうな。そう気づき、何が気になるのか明らかにしたくなりました。改めてKindleハイライトを見直し、章ごとにポストイット1枚ずつ、まとめをメモしました。それでも釈然としないので、ポストイットメモを文章に書き起こしてみました。それがこちらのnoteです。

きっと理解不十分で、間違っているところや忘れているところがたくさんあると思います。このメモを歌にたとえるなら、すごく緻密にアレンジしてレコーディングされた曲を素人が鼻歌で人に聞かせるようなものです。「変なうた」って思われたら、それは私が下手くそなせい。それでも、自分が本書の理解を深めていくきっかけになりそうなので、公開します。なお、自分の理解のために私の解釈を書き加えたところがあり、文中に「*」をつけて示しました。

第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?――答えは1万年以上前にさかのぼる

経済と市場は別のもの。市場は交換の場。市場(物々交換)は経済が生まれる前からあった。では、経済はどのように生まれたのか、メソポタミアを例に説明されている。まず農業が起きた。それにより余剰が生まれた。余剰の穀物を貯蔵するのに共同倉庫ができた。「ナバックさんは穀物を●●袋、預けた」と記録するために文字が生まれた。記録は貝殻に刻まれた。ナバックさんが預けた余剰の穀物は、倉庫から見れば債務になる。そのため、預けるにあたっては、貝殻を倉庫番に提示すれば穀物が確実に引き出せるとか、*倉庫番が穀物を盗んだり貝殻に虚偽の記録を書かない*、といった強力な信頼が必要。そのために権力ある国家が債務を保証した。国家権力の裏付けとなるが、そして権力を正当化する宗教が発達した。余剰が債務を生み、債務を保証する存在として国家、軍、宗教が位置付けられ、経済が誕生した。

第2章 市場社会の誕生――いくらで売れるか、それがすべて

価値には「体験価値」と「交換価値」がある。*例えば私が友人の子どもを預かってうちの子と一緒に遊び、夕飯を作って一緒に食べたら、それは友人の役に立ててうれしいし、楽しいひとときとして思い出にも残る。これが「体験価値」。一方、もし友人が私に「子供を預かって欲しい。時給2500円でどう?」と頼んだら、同じ行為が「交換価値」を持つ商品(サービス)となる*。「体験価値」は、家族の絆、友情、誇り、ケア、といった感情と不可分だ。
では、「体験価値」と「交換価値」を軸に歴史を見てみよう。ここで著者は、産業革命前は「市場がある社会」、産業革命以降は「市場社会」だと言う。「市場がある社会」では、社会の中で限られたものにしか「交換価値」がなかった。「市場社会」になると、あらゆるものが「交換価値」を持つようになる。中でも、何を生産するにも生産要素となる3つ、生産手段(資本財)、土地、そして労働力が、産業革命において、初めて「交換価値」を持つようになった。これが「市場がある社会」から「市場社会」に転換する重要なポイント。「市場がある社会」では、生産手段である農機具や職人の道具は、荘園内や家庭内で作られるもので、買うものではなかった。土地も労働力も、同様だ。土地や労働力が交換価値を持つようになったきっかけは、イギリスで東洋との貿易で羊毛が高く売れるようになり、土地を持っていた貴族が牧羊を始めるため「囲い込み運動」を行ったこと。それがなかったら、蒸気機関が発明されても産業革命に至ることはなかった。*以下のリンク先には若干違った説明があって、興味深いhttps://media.moneyforward.com/articles/720 *。「囲い込み運動」が可能になったのは、英国では王が軍備を持ち、貴族を保護したから。

第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ――すべての富が借金から生まれる世界

「市場のある社会」と「市場社会」の、もう一つの大きな違いは、経済活動の順序だ。「市場のある社会」では、農民から見ると生産→分配→債務の順だった。
ー生産:農産物を生産する。
ー分配:その中から領主が年貢を取る。
ー債務(債権):残った農産物を預けたり売ったりする。
この順序が成立した背景の一つは、生産要素である土地や農機具は荘園(貴族)が代々持っているものであって、交換価値を持たず、市場で入手できなかったから。

これが「市場社会」になると、債務→分配→生産と逆転する。
ー債務:地主(元領主)から土地を借りる。
ー分配:地代が先に決められる。秋に◯◯ポンド払う、というように。
ー生産:農産物を生産する。
つまり事業の元手(この例では土地)を借り、将来の返済を約束したために、生産活動は利益を追求するもの、ある金額(以上)を目的にするものに変わった。ここで、初めてお金が目的になったわけ。人間は生まれながらにさまざまな欲を持つが、生まれながらに利益追求をするものではないことを改めて確認したい。欲と利益追求は、別ですよ。

第4章 「金融」の黒魔術――こうしてお金は生まれては消える

事業の元手としてお金を借りる(あるいは投資を受ける)ことは、未来から交換価値を掴み取ること。起業家は、タイムトラベラー。
銀行が起業家に貸すお金はどこからくるのか。

どこからともなく、パッと出す。

*銀行の「信用創造」とは、つまりそういうこと*。さらに1920年代に銀行は保有債権を小口化して転売しはじめた。貸し出しが焦げ付いても銀行は損しない。
返済が大規模に滞って債権者が倒れる連鎖が始まると、経済危機。ここで政府が介入してbail out. これは火元の周りの枝を燃やして山火事の延焼を防ぐようなもの。
所得の低い層は納税額より公的サービス支出による恩恵のほうが大きい。富裕層は節税しちゃう。したがって政府は税収だけでは財政をまかないきれない。公的債務は①公的サービスを提供し経済を循環させる、②銀行の保有資産(信用力)、③経済危機の介入原資、の3つの側面がある。*①は平常時のフロー、②は平常時のストック、③は危機対応*。公的債務は、経済全体を束ねるゴムバンドのようなもの。銀行は、好況時には国の介入を排除しようとするが、経済危機に対処するには、前の段落で見たように国が銀行を救済するしかない。結果として、国は、市場社会と格差を維持する役目を果たしている。英国の囲い込み運動の時、つまり市場社会の始まりから、国(王)が資本家を守る構図だったのだ。

第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界――悪魔が潜むふたつの市場

市場社会が不安定な根本要因は、労働力とお金の価格が、一般の財のように現在の需給では決まらず、「今後の期待値」で決まるという性質だから。
まず、労働力について。一般の財には「交換価値」に加えて「経験価値」もある。おにぎりを買って(交換価値)、美味しく食べる(経験価値)。しかし、労働力を買う側には「経験価値」はついてこない。生産の手段でしかない。ナバックさんが雇われたら、期待されるのは働きであって、雇用主が「あなたと一緒に過ごせて良かった」とはならない。生産手段である労働力の交換価値は、それを使って生産したものがどんな利益を生みそうか、に左右される。
ここで大事なのは、労働力=生活者であること。賃金水準は、購買力を左右する。賃金水準が下がると、消費需要も減ることになる。そのため、景気が悪く賃金水準が下がると、消費需要が減ることを予想し、事業家は生産を減らそうとする。そのため労働力への需要が減り、さらに賃金水準が下がる、という循環が起きる。一般の財なら価格が下がれば需要が増えるのに、労働力では逆のことが起きてしまう。
次にお金の価格、主にマネーマーケットでの金利について。こちらも賃金と同じように、金利が下がると、景気減速を予想し、事業家は生産を減らそうとする。将来への事業投資をしないので、資金需要が減り、さらに金利が下がる、という循環が起きてしまう。

第6章 恐るべき「機械」の呪い――自動化するほど苦しくなる矛盾

生産現場で機械(ロボット、AIも)がどんどん取り入れられ、自動化が進むと、生産コストが下がる。でも、どの企業もそうした自動化を取り入れるようになれば、競争が起き、商品の価格も下がる。一方、自動化が進むと労働需要が減り、賃金が下がり、消費者の収入が減るので世の中全体の需要も減る。需要が減ると商品の価格はさらに下がり、そのため労働やマネーへの需要がさらに減り、悪循環が起き、その末に経済危機が起きてしまう。*新しい産業が生まれ、そこで雇用が充分に生まれれば良いが、現在のテクノロジー(機械)が生み出す産業にはそうした雇用吸収力はない*。このシナリオにおける復活のパラドックスは、人件費がめちゃ下がってロボットより安くなる場合。そうなったら雇用が生まれる。

第7章 誰にも管理されない「新しいお金」――収容所のタバコとビットコインのファンタジー

ナチス下のドイツでイギリス人などの捕虜の収容所では、国際条約に従って人道的な扱いがなされていた。赤十字から捕虜に送られてくる支援物資にタバコがあり、これがある収容所内で通貨として機能するようになった。そのことを経済学者の人が克明に記録している。例えば、戦況が変わらないあいだはタバコの価値(通貨価値)は安定していたが、戦争が終わりそうな情報が流れると、タバコの価値は急激に下がり、収容所の解放と共に価値はゼロになった。タバコを供給していた赤十字は収容所の内部を感知しておらず、中立的にタバコ(マネー)を供給していた。しかし現実のマネーサプライ供給量は、政治と不可分で、中立などあり得ない。マネーサプライはその本質として公的債務と連動するから(第4章、第5章)。どうしても権力のある人、マネーをたくさん持っている人を利する力学が働く。
ここでドイツの捕虜収容所に話を戻すと、全ての収容所でタバコが通貨として機能していたわけではない。赤十字から送られてきた物資を、タバコも含めて全て皆んなで分け合っていた収容所もあった。*交換ではなく共有*。
このエピソードからマネーも「民主化」すべきではないか、という考えが導かれる。*「民主化」は英語で democratize. 30年前、マイクロソフトはウィンドウズによって誰もがコンピューターを持ち使える状態にする、というイメージで democratize computers を目指すと言っていた。ここで著者は、 democratize money という表現に同じようなイメージを持たせていると思う*。

第8章 人は地球の「ウイルス」か?――宿主を破壊する市場のシステム

市場社会においては、環境破壊はプラス。なぜなら交換価値を生み出すから。例えば山火事が起きたら消防車やヘリコプターが出動し、燃料や消化剤が売れる。それでも環境破壊を抑制したい。とすると自然体で市場社会に任せておけない。選択肢は「全てを商品化」するか「全てを民主化」するか、だ。「全てを商品化」はすでに始まっている(*排出権取引*)。もう一つの方法である「全てを民主化」も検討すべき。民主化とは、ひとり一票だ。株式会社のようにお金持ちがたくさん票を持つのではなく、皆んなに利益を配る考え方だ。たとえば機械によって生まれた利益も「民主化」すれば、第6章で描いた悪循環を防げるのではないか。

エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

今、欲しいと思っているものを全てもらえるとしても、それでは幸せになれない。将来欲しいものは変わってる可能性が高いから。私たちは変化していく。変化し何者かになっていくプロセスに幸せを感じるのが人間だ
経済が生まれた頃、経済を成立させるには債務の信用を裏付ける権力者が必要で、権力者の権威を正当化する宗教が必要だった。現在の経済学者は、当時の宗教家と同じように、市場社会が力ある者にとって有利であり続けるための存在になっている。その枠組みの外に出て、そこから眺める視点を持つと、経済格差や環境破壊の原因や対応が見えてくる。

(picture by Camille King)


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篠田真貴子

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