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大事ではないとされたものの気持ち。

下北沢の街はひどく冷たくて、皆×0.95ぐらいの大きさに縮み上がって足早によく舗装された道を滑っていく。帰りにげんちゃんと油そばを食べに行った。何が食べたいと聞いたら油そばだとげんちゃんが言った。

お昼にラーメンを食べていたが、まあ良いかと思った。油そばは油そばであって、ラーメンではない。何も言わずに店に入って、あまり深く考えずに大盛を注文してしまった。帰りの車内で激しく後悔した。

朝は電車の中で倒れてしまった。久々にパニック発作を起こして、呼吸困難になり、酸欠で倒れた。隣に立っていたおばあさんがひどくびっくりしていて、手が震えていた。「大丈夫?」としきりに聞いてくれたけれど、僕は声が出ずで応えられなかった。悪いことをした。

昼には息子の学校から電話があった。「もう息子さんの気持ちとかはよいので、暴力をやめさせてください」と先生から言われた。残念な気持ちと、粘り気の強い感情が喉元あたりに立ち上がった。怒りだと思った。

息子のことを想った。もしも息子が、なんかの拍子にタイムスリップなんかして、僕が子供の頃に着いたとしたら、きっと僕たちは友達になっていただろう。僕は息子を家に招き入れ、持ってるおもちゃの自慢をしたり、お気に入りのノラクロの目覚まし時計を見せたり、キン肉マンのキャラの描き方なんかを自慢げに教えたりしていただろう。そして夜になって、緑のバスクリンの風呂に入って、ぜんぶの指をシワシワにしたら、チューペットを真ん中で2つに割って、仲良く甘噛みして溶かし食べただろう。

夜は二段ベットに横たわる。息子に下を譲って、僕は上に寝るだろう。ベットの隣に面した窓からは比較的明るい夜空が見えていて、僕のいる上からは、窓の上辺付近の空しか見えなくて、下にいる息子からはたっぷり夜空が見えている。僕はそれでも満足で、2人で外を別々にのぞきながら、他愛無い話を句読点なくし続けて、やがて眠る。月が明るい。僕は上にいる分、空に近い。そしてその分、少し空が狭い。

むすこのきもちはだいじだと、僕は想ってしまう。
悔しさが込み上げてくる。感情を鋏で細かく切り刻み、元の形がわからぬように僕はする。それらの断片を僕はうつむきながら拾い上げ、白い紙に貼ってなんとも言えない切り絵を作る。

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