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お稽古場探訪⑨【和久荘太郎 先生】飛鳥舞台

宝生流能楽師の先生とお弟子さんに
能を「習うこと」の魅力をお話いただきます。

「能を習ってみたいけど、誰に習ったら良いか分からない。
先生の雰囲気を知りたい。
稽古場の情報を教えてほしい。」

という方はぜひご参考にどうぞ!

第9回目は
和久荘太郎(わくそうたろう)先生です。
飛鳥舞台でのお稽古についてお話を伺いました。

■和久荘太郎 Waku Sotaro
シテ方宝生流能楽師
昭和49(1974)年、横浜市生まれ、名古屋市出身。1993年入門。18代宗家宝生英雄、19代宗家宝生英照に師事。初舞台「藤栄」立衆(1995年)。初シテ「小鍛冶」(2004年)。「石橋」(2006年)、「道成寺」(2009年)、「乱」(2011年)、「翁」(2020年)を披演。


──和久先生の稽古場情報を教えてください。
東京の滝野川(西巣鴨駅から徒歩3分)にある自宅の飛鳥舞台では、平日の朝9時から夜10時までお稽古しています。お一人30分程度で、月に4〜5日稽古日を設けており、その中から月2〜3回お越しいただきます。予定の合わない方に関してはご相談しながら別日に設定しています。

通常、お稽古場ではお弟子さんが他の人のお稽古を見ながら自分の番を待つ場合もあるかと思いますが、私のお稽古ではお待たせしないように、きちんと予約表を作って管理しています。

予約表

ご希望の方には椅子と高い見台を用意しています。撮影用の道具もありますので、ご自分のお稽古の様子を自由に撮影いただくことが可能です。


──東京以外のお稽古場はどちらにございますか。
名古屋の桜山、岡崎、桐生、甲府、横浜にございまして、全て「能舞台」でお稽古しております。

名古屋の桜山舞台

あとは愛知県の大学2校(愛知県立大学、愛知教育大学)と私の母校の高校(名東高校)で学生たちにも教えています。私は能楽師の家系に生まれたわけではなかったので、高校生のときに母校の能楽研究部に入って能を始めました。


──飛鳥舞台の特徴を教えてください。
実は私が建てた家ではなくて、観世流のある方がお建てになった舞台付きの家を買ったんです。今年で築60年です。

飛鳥舞台

私はもともと同じ町内に一軒家を借りて住んでいて、部屋の一部でお稽古していたのですが、息子がちょうど子方をやり始めたので、息子の意識の切り替えのためにも、「うちの3階に上がったら稽古だぞ」と言えるような、3階を稽古場として使えるような家を探していました。

先輩や周りの方に都内で探していることを公言していたのですが、そんなの能楽師の収入で買えるわけがないと馬鹿にされてきたんです。
ところが、公言して探し続けていたら、同じ町内に正にその通りの空き家があることを知りました。すぐ近くに持ち主の方が住んでいらして、その方が「近所を通りかかったときに謡が聞こえてきていたので気になっていましたよ。」と、まさに私が自宅でお稽古していた声だったんです。いろいろ話しているうちに私を気に入ってくださって、譲っていただくことになりました。

ここは、その人の思いのこもった特別な舞台なんです。もとはその人のお父さんが造った舞台だそうで、鏡板もその方のお父さんがご自身で描かれたそうなんですよ。油絵や日本画をされていた方だったようで。ずっと空き家だったので、不動産屋から早く駐車場にするように言われていたらしいのですが、「ここを有効活用してもらえる方に会うまではこのままにしておきたい。」と待っていたらしく、偶然同じ町内でご縁があって私が譲り受けることになりました。

私の息子は今、高校2年生になりましたが、小さいころから3階に上がってこの舞台でお稽古できました。自分の稽古も好きなタイミングでできますし、そして何より、お弟子さんのお稽古がいつでもできるので、とても感謝しています。

──お稽古で大切にされていることは何ですか。
心がけているのは「稽古」という言葉の意味について、深く掘り下げること。「レッスン」とか「講義」でもない。対面で一対一でお稽古するのは、心や気の受け渡し、交換だと思っているんです。できるだけ頭で理解しようと思わないで、私が言ったことをそのまま真似してすぐ出していただきたい。言葉で覚えたものはすぐ忘れてしまうので。だけど身体で覚えたものは自然と身についていますよね。身体を使う武道と一緒だと思うんです。武道的に言えば、お互いに隙を見せない状況。

今は何でも説明しすぎるでしょ。説明を私はあまりしません。もちろん、質問があれば丁寧にお答えしますが、質問はお稽古の最後にまとめてお願いするようにしています。


──先生の公演情報を教えてください。
■9月24日(日) 第9回 和久荘太郎 演能空間
自分主催の会ならではの選曲や配役になっています。このチラシを見ていただくと分かるのですが、音が反響しているようなデザインにしていただきました。「音」をテーマにした「鐘づくし」の公演になっております。
最初の「道成寺」は素謡でやるのは珍しいのでおすすめです。次の狂言の「鐘の音」は、鎌倉のいろいろなお寺の鐘を撞いてまわる話。最後に、私がシテを勤める能「三井寺」は、「三井の晩鐘」と言って、昔から三井寺の鐘は音が一番良いと言われています。途中で狂言方が鐘を撞く場面がありまして、その音をシテ(主役)が聞いて自分も鐘を撞きたいと物狂いになっていきます。

■10月14日(土) 五雲能
能「三輪」のシテを勤めます。大神神社に成功祈願のためにお参りに行ったので、すでに準備万端です。
3年前にも大神神社にお参りしたのですが、その当時、私は「三輪」をまだやったことがなかったので、ぜひ「三輪」の曲をさせてくださいとお参りしたら、翌年に「三輪」のお役をつけていただいたのでびっくりしました。舞台が終わったらまたお参りに行こうと思っています。
宝生流にとって「三輪」は所縁のある曲で、大神神社のある桜井市は宝生流の発祥の地とされています。宝生流で大事にしている曲の一つです。

🍁10月 五雲能チケットはこちら🍁

── これから能を習ってみたいと考えている方にメッセージをお願いします。
うちの稽古に来てくださる方は年齢層も幅広く、つい最近では、3歳の子や、80歳になって始めた方がいらっしゃいます。学生もいますし、私と同世代の男性もいます。
きっかけは能のドラマを見たから、武道やバレエを習っていたから、健康のための体操代わりでもどのような動機でも結構なので、まずは臆せず入っていただければと思います。やりたいと思った時が始め時なので。
発表会は出ても出なくてもいいんです。出ると楽しいですけどね。
あと、お金のことがみなさん心配だと思いますが、お金をかけようと思えばいくらでもかけて楽しめる稽古事ですけど、うちの場合はできるだけお金をかけないで楽しむこともできます。まずは無料の体験稽古にいらしてみてください。

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和久先生のお弟子さんにインタビュー

《参考》椅子や高い見台を使用した場合

──お稽古を始められたきっかけを教えてください。
令和元年12月に会社の先輩がギターとボーカルで出演するライブハウスに行った際、自分も長く続けられる趣味を持ちたいと感じたことでした。思い浮かんだのは、前月の文化の日に鑑賞した能楽でした。文化の日なのだから、その祝日の趣旨に賛同するために、日本の文化に触れようと言う単純な理由で能楽堂に行きました。それまで能楽堂で能楽を鑑賞したことはありませんでした。

インターネットで「能楽」「稽古」を検索すると、能楽協会の公式ホームページが表示されていたんです。会員紹介のページには、能楽師の写真や稽古場の情報、ホームページURLが掲載されており、その中で和久先生を知ることができました。和久先生のホームページには、お稽古の内容や発表会に関するブログ記事があり、大変参考になったので、ぜひ和久先生に習いたいなと思いました。
先生は丁寧ですし、やさしくて話が上手です。

──習い続けている理由は何ですか。
旅行の楽しみを増やしたいからです。能は神話や歴史上の物語を題材にしており、日本各地に舞台となる場所がたくさん存在します。
先月、奈良県吉野山と和歌山県高野山を訪れましたが、「国栖」「吉野静」「嵐山」などの所縁の地を巡ることができました。次回の謡の稽古は「忠信」ですので、今後、吉野山へ行く際には、物事を異なる視点から見ることができるかもしれません。今年の春に「敦盛」の舞囃子を学びましたが、そのシテとワキである平敦盛と熊谷直実の供養塔が高野山の奥之院に並んで置かれていることを知り、「舞わせていただきました。ありがとうございました。」と挨拶に行きました。
2年前から能管も始めましたが、旅行には能管を持参します。旅先で景色を眺めながらの演奏は、非常に心地よいものです。

和久先生:私と同い年なのですが、会社員の方で仕事をやりながら能にのめり込んで、旅行も楽しまれているのは、私から見たらとても羨ましく思いますね。

──能を習ってみて良かったことは何ですか。
1点目は、なんといっても能楽堂で舞うことができることです。習わない限り、その機会に恵まれることはありません。生徒は1年間を通して、この目標に向かってお稽古に励んでいます。目標と期限を設けることは、技術習得において非常に重要です。自己の成長を確認できる機会であり、新たな経験を通して変化する自分を楽しむことができます。
2点目は、地方に住む両親と能やお稽古など、話す話題が広がりました。

──発表会に参加されてみていかがですか。
初めて紋付袴で舞台に立ったのは、「鶴亀」の仕舞でした。思いのほか緊張して、納得できる出来栄えではありませんでした。しかし、その後、「鶴亀」の素謡をさせていただいた際には、気持ちに余裕があり、聴いている皆さんが私たちの謡に合わせて口ずさんでいるのに気づきました。なんだか自分がその場全体と一体化し、高揚感に満ちた感覚を味わったように思います。春先の上演で、今でも「鶴亀」を聴くと、晴れやかな気分になります。

──周りで能を習ってみようかと悩まれている方がいたらどのようにお声がけされますか。
最近、メディアやお店などでSDGsやサステナビリティという言葉をよく耳にしますが、能を学ぶことによって、自分が日本の伝統文化の持続可能な活動に貢献できることに大義名分を見出すのはいかがでしょうか。これは背中を押す力となり、お稽古のモチベーションを高めると思います。能の稽古は、能楽師の方の経済的なサポートにとどまらず、謡本や扇、着物などの日本文化の事業継承・発展にもつながるはずです。昔からのものを譲り受けて大切に使うのも良いことではありますが、今、実際に作られているものを買わない限り、作り手が事業を続けていくのは難しく、メンテナンスする方もいなくなってしまうのではないかと思うんです。

和久先生:このように考えてくださってありがたいですよね。習うだけでなく、我々のような役者や職人のことを念頭に置いてくださっているのは嬉しいです。


インタビューにご協力いただきありがとうございました!


インタビュー日時:8月17日(木)、飛鳥舞台にて。

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