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心の中の彼奴が囁く

おそらくもう、丸1年間くらいずっと好きだった子に彼氏が出来たらしい。しかも2回。アタクシの知らないうちに一回付き合って、別れて、もう一回別の人と付き合っていたのだそう。
ドライブしようという約束をはぐらかされたので多少予想はしていたが、まさかその間に二人と付き合っていようとは思わなかった。とんだビッチだ。
東海からはるばる東京まで行って久しぶりに会ってこの仕打ちは流石に食らった。予想していても食らった。食らったのだが。なぜだろう。予想していたほどは喰らわなかった。多分それを聞いたらその場で泣き崩れてしまうかもしれない、彼女をいらん言葉で攻め立ててしまうかも知れないくらいの大荒れを予想していたのだが、それを聞いた時瞬間ですら案外感情が崩れないでいられたのは、その娘があまりにも悪気のない悪戯な笑顔で楽しそうに話すから。そも笑顔を見てやっぱり好きだなと思ってしまったから。悔しい、かわいい。エグい、愛しい。吐きそう、好き。不安だ、安心する。そうだ。残酷にも裏切られて、残虐にもB級スプラッタ映画よろしく感情がミンチにされようと、されている最中でさえ彼女に安心を感じてしまう。このどうしても信用ならない女をどうしても信用したいと思ってしまう。私は彼女のことが好きでしょうがない。
彼女の行いは完全なる裏切りで憎悪と嫉妬と悲痛と憤慨と混乱と失望とありとあらゆる負の感情が湧いたが、結局私の感情を支配したのは安心。彼女の無邪気さの前では全てが浄化されてしまった。好き。吸いたい。手を繋ぎたい。唾液を交換したい。エッチしたい。結婚したい。家族になりたい。子供作りたい。子供育てたい。一緒にに老いたい。老いてもセックスしたい。80代でも子供作りたい。孫を可愛がりたい。一緒に死にたい。やっぱり俺が年上だから先に死にたい。

そういえば彼女には散々自分勝手されてきた。傍若無人で理不尽だ。知らないところで勝手に知らない人と付き合って、勝手に別れて、アタクシとも遊んで、また知らない人と付き合ってる。今度の彼氏はなんでも言う事聴いてくれて幸せなんだそう。全くひどい女だ。わがままで自分勝手だ。でも好きで仕方がない。側から見ればアタクシは完全に相手に主導権を握られた哀れで滑稽で無様な道化師なのだろう。自分では超大作恋愛譚の圧倒的主人公だという妄信を未だにすてきれないのがその哀愁に拍車をかける。

その後は二次会でやけ酒。あなたが好きでしょうがないと告白したような気もするが覚えていない。気づいたらカラオケボックスで怒鳴り散らかしていた。ある同期から電話が来てその話をしたら、私が振られたらしいからみんなで慰めドライブ行こうとグループラインで流された。なんでこの悲しみをみんなに速攻でバラしてるんだこのクソ屑がと怒り心頭であったが、翌日見返すと同期には私から連絡していた。酔っ払いの叫びに付き合ってくれていたのであった。ごめん。勝手にムカついてしまって。
あの子から昨日はだいぶ酔ってたねと連絡が来たから、多分好きだと言ったんだろう。その日、喉が痛くて、咳が止まらなくて、右目が真っ赤に充血して、死ぬかと思った。深い悲しみにより写輪眼が開眼しかけていたのかも知れないが、その時はそんな余裕は持ち合わせていなかった。辛いけど涙は出なくて、悲しみで吐きそうだけどゲロはでなくて、眠って忘れたいけど眠れなくて、死ぬかと思った。

一応またごはんでも行こうと言ったら数日後にOKのスタンプが帰ってきた。まだ続けていいのだろうか。振られた身だし、距離も遠いし、特別に気が合うとか特別にかっこいいとか特別に金持ちとかそういうのは一切ないし、そろそろ潮時だろうかと思った。彼女の幸せを願ってここで潔く身を引いて次に行ったほうが建設的なのだろう。
が。しかし。だめだなぁ。時間の経過に従って指数関数的に恋慕と後悔の気持ちが増幅されていく。感情を完全に支配されて仕事に支障が出始めている。マッチングアプリで2,3人とデートの約束を取り付けて見たが全く心が踊らない。全く心がついてこないのだ。

そこで決めた。ちゃんと振られよう。多分彼女は自分の気持ちをダイレクトに伝える、伝えられるのがものすごく苦手なんだろうけど、今まで散々好き勝手やってきたんだから、俺だって好き勝手してやるさ。全部ぶつけてすっぱり振られてしまおうと思った。心臓を掴まれるように嫌だけど、後腐れなく斬り伏せられれば多少は諦めもつこうというもの。

だが、ここでアタクシのゴーストが囁く。本当にそれで良いのかと。せっかく好き勝手すると決めたのだ。最良の結果、本当の自分の望みを求めて足掻いてみてもいいんじゃないか、否、手に入れなけれなければならない。そうだ。こんなに好きなのにすっぱり振られるなんてことを求めているはずがない。やっぱりつきあってセックスして結婚して子供作って老いて死にたい。彼氏持ちでそこまで不満もなさそうな彼女にそうしてもらうにはどうすればいいのか。

続いてアタクシの中にいる日本武尊(高校の同級生、言うまでもなく仮名)が囁いた。寝取っちゃえば?奪っちゃえば?本当にあの子が欲しいなら無理矢理にでも略奪しちまいなよ。人間生まれた瞬間から死ぬその時まで別に誰の何の所有物でも無い訳でさ。だから別に問題なんて何も無いだろう?雄を解放して欲望のままに生きてみては?
。。。確かに!それいいじゃん!採用!自分の状況がどうであれ、彼女の事情がどうであれ、好きなものは好きだもんな!距離が遠いとか、彼氏がいるとか、多分彼女のタイプじゃないとか、休みが合わないとか諦めるに足る理由はいくらでも見つかるけど。そんなもんじゃ憧れは止められねぇんだ!ありがとう日本武尊。

アタクシは今、略奪の算段を練っている。
有給を使って、無理矢理予定を合わせる。
自分の感情と主張だけをぶつけてくる。
主導権は渡さない、全て言いなりになってもらう。
エッチして、仕事を辞めてこっちに来させる。
結婚させて、子供産ませて、幸せにする。
イエスというまで返さない。


さあ、勝負だ。
Good Luck, 俺。

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