米中首脳

悪役トランプに救われる、したたかな中国

 米国トランプ大統領が初めて参加した今回のG20。案の定、トランプ大統領の国際協調を乱す孤立だけが目についた。反保護主義を謳う貿易問題しかり、地球温暖化防止のパリ条約問題しかりだ。おかげで新興国vs先進国といった、これまでのG20の伝統的な構図が米国vs米国以外という構図にガラッと変わってしまった。これはトランプ政権が未だ政府高官の重要ポストを任命できず、その結果、米国の外交戦略が極めて粗雑になっている結果だ。そしてこれで漁夫の利を得ているのが中国だ。

貿易問題の責めを負うのは誰なのか

 中国は本来、国有企業の貿易歪曲的な補助金や恣意的な輸入制限措置、高関税など「保護主義のデパート」だ。ところが米国のトランプ大統領が声高に保護主義的な発言を繰り返すことによって、各国の批判の矛先は米国に向う。その陰に隠れて中国は問題にされずにいるのだ。

 その最大の問題が鉄鋼問題だ。
 問題の根源は中国による過剰生産だ。余剰の鉄鋼を大量に安値輸出している問題を是正しなければならないのは中国だ。今回のG20首脳宣言でも早急な具体的な解決策の策定を関係国に求めているが、ねらいは中国に対して強い圧力をかけることだ。
 ところがこれに対してトランプ政権がちらつかせているのが通商拡大法232条による輸入制限の発動だ。自国の安全保障上の理由に基づいて発動するもので、中国だけを対象とせず、日欧も巻き添えを食らう恐れがある。EUはこれに激しく反発して、発動されれば即座に対抗措置を講ずるとしている。その結果、世界貿易は報復合戦の嵐だ。

 本来日米欧が結束して中国への圧力を強化すべき問題である。それにもかかわらず、米国の鉄鋼輸入に対する保護主義的な手段に批判が集まり、日米欧の足並みが乱れているのだ。中国にとってトランプ政権は問題の本質から目をそらしてくれる、ありがたい存在だ。

地球温暖化でも平然と積極派ぶる中国

 日本、欧州など主な排出国はCO2の総量を減らす削減目標だ。これに対して中国のCO2の削減目標はGDP当たりの排出量の削減であるこれは根本的に意味が違う。経済成長に伴って排出量が増えることを許容して、何ら痛みを伴わないのだ。世界最大のCO2排出国としては到底責任を果たしているとは言えない。
 それにも拘らず、国際的に批判されてはいない。それどころか米国がパリ条約からの脱退を宣言したことから、米国が孤立し、中国は平然と地球温暖化に前向きな振る舞いで欧州と協調している。まさにうまく立ち回っているのだ。

中国の米欧分断作戦にどう向き合うか

 こうしていずれも中国は国際的な批判の矢面に立つことなく、“中国問題”は米国と欧州の対立の構図の中にかき消されている。

 欧州と米国の間の亀裂は決して日本にとって望ましい状況ではなく、安倍総理が橋渡し役を果たせるような生易しい溝でもない。
その結果が欧州と中国の急接近だ。日本がもっとも警戒すべき事態だ。
AIIBの設立にも見られるように、日米欧を分断する作戦は「孫子の兵法」だ。欧州にとって地理的に遠い中国は元来、安全保障上の懸念を持つべき対象ではない。中国にとって先端技術の入手先として欧州は絶好のパートナーだ。兵法三十六計の「遠交近攻」にも合致する。

 実は日欧EPAにはそうした欧州を繋ぎ止めるといった戦略的な意味も込められているのだ。

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