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読者と作者

一つの小説を読み感想を手紙に書いて小説家に送ったとしよう。その小説はぼくにとって等身大の主人公が登場し、その主人公の人生は自分が送ってきた人生のようであり、小説を読むことが自分の人生を確実に生きた歴史として文字に再生産されたと、手紙に書いたのだった。それは長編小説であり、架空の村が日本の中世からいくつもの伝説をくぐり抜け小説の中で時間を蓄積していた。先祖代々で繋がっている普通の人々の歴史というものが、登場人物の生き様を通して小説化されている、一冊の書籍が出来上がったという奇跡に驚く。果たして返信が作者から届いた。作者がぼくの感想を喜んでくれた。ぼくの手紙には9つの質問が付けられていた。小説の中で起こったことはどういうモデルがあったのかとか、作中の伝説には歴史上の根拠があるのかとか、NとYの姉妹の本能的な敵意というのは現実にありうる事なのかとか、作者本人の創作上の秘密にも切り込む、ほとんど読者の越権行為とも受け取られかねない質問だった。その質問全てに丁寧な回答が書かれてあった、、、、。その小説の作者は職業作家ではなかった。いわばぼくを登場人物の一人と認めてくれたのかもしれなかった。読者と作者の対等な交流という一つの小説から得た僥倖に、ぼくは至福の経験をさせてもらった。

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