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列島縦断18きっぷ-はじまり


2022年3月、今年も青春18きっぷのシーズンがはじまった。

青春18きっぷとは毎年学生の長期休みに合わせて春夏冬と期間限定で販売される、JR全線の普通・快速列車が乗り放題となる企画乗車券である。5回分で12050円(1回あたり2410円)のこの切符は使いどころも様々で、片道運賃が1210円を超えるような場所であれば日帰りでも元が取れるため小旅行に活用したり、乗り放題を最大限に活用して東京から九州までの大移動に用いたりと活用術は枚挙に暇がない。

さてこの切符で乗り放題となるJR各社の路線というのは、北は北海道稚内から南は鹿児島県枕崎まで、日本全国をそれこそ網の目のように結んでいる。最果ての枕崎と稚内は距離にして約3099.5キロあることになっていて、具体的に数値で表すと実に壮大である。日本は狭苦しい島国などと言われるがこの数字を見せつけられれば「日本は広い」という感想を抱かざるを得なくなることだろう。

2022年3月1日14時、私は博多駅のホームで鹿児島中央行きの新幹線さくら555号を待ちわびていた。この日から青春18きっぷの利用期間が始まり、私はその18きっぷを活用したある旅を前々から思案を重ね検討し、本日実行に移していたのである。


「青春18きっぷを用いて最南端の終点である枕崎から最北端の終点である稚内まで移動する」



端から見れば珍獣の奇行のようにしか映らない阿呆の極みのような旅だけれど、乗り物に揺られることを至上の悦びとする私のような「乗り鉄」と呼ばれる人種にとっては最長片道切符に並ぶほどに価値を持つ旅である。最果てのロマンを追い求めるのはマニアの性なのだ。

さくら555号は定刻で14:42に博多駅に滑り込んできた、駅弁屋で買った鳥栖中央軒の焼麦(シャオマイ)に舌鼓を打ちながらマニアの紀行もとい奇行は無事に幕開けを迎えた。

新幹線はびゅんびゅん飛ばし、これから私が丸2日をかけ苦心して北上する予定である福岡県と鹿児島県をものの2時間30分で結んでみせる。つくづく魔法のような乗り物であると思う。少なくとも九州新幹線の開業によって、鹿児島はグッと身近な土地となった。
16:10定刻通り鹿児島中央着。

鹿児島中央に降り立って方向音痴の婆さんに道案内を施したらいよいよ仕込みの時間である。鹿児島中央のみどりの窓口で青春18きっぷを1枚購入した。

「鹿児島中央」とどこか誇らしげに書かれた18きっぷは途中の札幌から稚内まで世話になる予定である。残念ながら2020年7月の豪雨により肥薩線が流されてしまった今、1枚の18きっぷで列島縦断を成し遂げることができなくなってしまった。稚内までの軌跡をこのきっぷに残せないのは口惜しいが致し方ない。

北海道新幹線オプション券も早めに買っておきたかったが、これぞ薩摩のイントネーションといった具合の方言の駅員が悩んだ末奥に分厚い冊子を取りに行こうとしたため止めて諦めた。ただでさえ18きっぷのユーザーに乏しいであろう鹿児島、無理もないことだ。

起点の枕崎へ移動するのに指宿枕崎線を使ってしまうと矢鱈に時間を食う上にバスよりも高くつく、それに同じ道程を往復することはどこか負けた気分になるので、私は駅前から鹿児島交通のバスを用いて枕崎へ向かうこととした。


旅行とも修行ともとれない珍獣奇行はまだ始まってすらいない。