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乱読読書日記①小川洋子「小箱」

小川洋子さんのおそらく最新作。大好きな作家さんの一人で、新刊を見つけると必ず買うようにしている。

物語全体に起伏はなく、淡々と進むので読み進めるのには時間がかかるが、それでもやっぱり読み終わると「ああ…好き…!」となる作家さんだ。

舞台は子どもを失った大人たちの住む、小さな村。

登場人物はみんな、大切な存在を亡くした人たちだ。幼いこどもだったり。恋人だったり。

主人公の女性は元幼稚園の廃墟に住み、そんな大切な存在を亡くした人たちを見守っていく。

大切な存在である分、その不在はより存在感を増してその人の人生を覆っている。

子どもを亡くした人々は、その小さな骨や、細い髪で楽器を作り、子どもの声を聞こうとする。子どもの代わりに幼稚園の遊具で遊ぶ。子どもと歩いた道以外は生涯歩かないというルールを課す。亡くなった子どもが天国で幸せに過ごせるように、元幼稚園にガラスケースを設置し、思い思いの品を供える。

小川洋子さん特有の静謐な世界観の中、淡々と物語は進んでいく。

もう耐えられない、抱えきれないという悲しみ、喪失感があっても、人は生活していかなければならない。

仕事をし、食べ、眠り、生きなければならない。

だから、側から見たら滑稽に見えるようなやり方でも、自分なりの悲しみの乗り越え方でそれをやり過ごすしかないのだ。

主人公は子どもを亡くした人々に真摯に向き合い、決して邪魔にならないよう、でも自分にできるだけの最善のことをしてあげられるよう、静かに寄り添っている。

「時間が解決してくれる」だとか、「いつか忘れられる」なんて無責任なことは決して言わない。その人がその人のペースで好きなだけ大切な存在に想いを馳せられるように、見守っているだけだ。

主人公の女性も、登場人物も、みんな自分の感情と、他者に誠実に接し、自分のできる最善をする以上は他者に干渉しない、という姿勢がすごく好きだった。

優しくて、寂しくて、夜眠る前に少しずつ読み進めるのにおすすめの本。


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