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シャチと国後島、黒いリュック②

シャチに合わせて動く船。
スタッフの女性が、「右です」「左です」と言う度に、流れる客の群れ。
私と彼は、何となく同じ方向を向いていた。
まだよく知らない他人同士の二人が、歩調を合わせて船内を歩く。
スマホしか持っていない私は、それで一生懸命シャチを追うが、うまく撮れない。
本当に会いたかったの?
目の前にいるのに実感がわかなかった。
家族で泳ぐシャチ。
水族館とは違う。
家族・・・。

「神奈川県から一人で来たんです。シャチに会えて本当によかった」
「え!?僕も神奈川です」
「すごい!どこですか?」
こんな会話をした。
羅臼で、日本の果てまで来て、実は近くに住んでいた人と出会うなんて。

彼が撮った写真を見せてくれた。
「うまいですね!」と言った。
本当にそうだったから。
スマホも使っていた。
動画も、上手ですねと言っておいた。
思わず、「いいなぁ。ほしいな」
と呟いた。

「これ、あげてもいいですよ。連絡先がわかれば」
と、聞こえた。

第三話
シャチと国後島、黒いリュック③|AH (note.com)


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