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猫は、床に落ちたものを拾えないオバはんのことを知った

えっ?
オバはん、そんなこともできないの?

「まあね、でも、すぐできるようになる、つもり」

オバはんは右ヒザがあんまり曲がらない。
それで、今のところ床に落としたものが拾えないんだって。

自分で落としたスプーンとか、お箸とか。

足のリハビリは主に膝を曲げるための施術になってる。
理学療法士さんの施術直後は結構曲がって、90度までいくようになった。
でも、少し時間が経つとそんなに曲がらない。


ある日ベンチまでの歩行練習の途中、道に小さな白い袋がひとつ落ちてた。
「調剤薬局で分包された粉末のお薬っぽい」ヤツ。

3往復の間にオバはんはそのお薬のことを6回考えた。
いつものノロノロ歩きの道。
その中間地点に落ちてるお薬の小さなポリ袋。

<1>踏まないように歩かなきゃ。あれ、踏んで転んだりしたらかなりヤバい。

<2>誰か落とした人が取りに来るかもしれないから、道の端っこに寄せたいけど、足曲がらないからできないな。

<3>今日は鳩さんたち来てないけど、大丈夫かな。お薬、口に入れないでよね、危ないから。

<4>やっぱり危ないな、カラスがくわえていって飲み込んだらどうしよう。

<5>拾っておいたほうがいい。何のお薬でも、体が小さい鳥にはとっても危険。

<6>でも、どうしよう。拾えない。そうだ! 明日トングを持ってきて回収しよう。(なぜ明日?)


オバはん、道に落ちてるものも拾えないのね

オバはんは最近床に落としたものを長めのトングで拾うことを覚えた。
だから、危険な落とし物もトングで拾えばいいんだ。
でも、このトングを持って落とし物のところまで行くのも自信がない。
で、もしトングで挟めたとして、それをどうやってゴミとして密封する?
左手は動かないから、片手でできることではないことに気づく。

これまでなら、さっと拾って終わりなのに、身体のどこかが不自由だとこんなに悩み、結局誰かに頼まないとできないってことになる。

オバはんは祈るだけだった。鳥さんたちがくわえていきませんように。

猫は言う。
「落ちていたお薬は人間にとっては<可燃物>だけど、他の生き物にとっては<危険物>になるよね」


気をつけてね



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