デスクワークは目に悪い。情報社会で生きることを余儀なくされている現代人の宿命と言われればそれまでだけど、パソコンの画面とにらめっこしつづけることはどう考えても体に悪いのだ。２時間も画面を見ていると、頭と首が熱くなって、集中力がとんでもない勢いで失われていく。休憩クールダウンをはさんでもよくならないので、HPは単調減少の一途をたどる。気づくのが遅すぎたかもしれないが、たぶん、自分はこの仕事に向いてない。
　このところ、いろいろあって、家に帰るのはすっかり夜も更けた午後１１時くらいで、ご飯を食べて風呂に入ってその他もろもろをこなしていると次の日が背後に迫っている。なすすべなく私は襲われ、明日は今日になる。ベッドにやっとの思いで体を預けると、窓から弱々しい月の光がさしている。満月だったんだ。窓ガラス越しの月は妙にぼやけていたが、それは私がコンタクトをしていないからで、決して窓ガラスの責任ではない。月影に照らされて輪郭がほのかにみえるようになった家具たちに囲まれて、私は目を閉じた。
　そうはいってもすぐには眠れない。ブルーライトを舐めてはいけない。アイツは脳を巧みに騙して、まだ眠りにつく時ではないと思い込ませる。意識がまだ暗闇の中で漂っている。なにか考え事でもしようかな。何がいい？　うーん、思いつかない。とりあえず今の自分の状態を言葉で表してみる。眠りたいけど眠れない。意識はまだ「はっきり」している。「はっきり」？「ゆっくり」息を吸い、吐く。「やっぱり」眠れない。これだ。こういう言葉を集めてみよう。あ行からローラー作戦。あ、あっさり。い、い、いはないか。う、うっとり。うっちゃりは？　相撲だっけ。うっかりもあるな。う、う、え、え、え、お、おっとり。お、か、かっきり。かっきり？　きっかりか。いやかっきりもあるのか。か、かっちり。か、か、か、き、きっちり。き、く、くはないだろ。け、けもないわ。こ、こっくり。あ、ちょっと待って、く、あったわ。くっきり。こ、さ、さっぱり。あ、が行忘れてた。がっぽり。下品な言葉。がっしり。がっかり。が、が、がっちり。がっぷり。なんか相撲多いな。が、が、が、ぎ、ぎっしり。ぎっちり。ぎっくり。ぎ、ぎ、ぐ、ぐったり。まさに今の自分だ。ぐ、ぐっすり。この言葉を使える日が来るのか。ご、ご、あ、こってりがあったな。ご、ごっそり。さ、さっぱり、はさっき言ったんだった。さ、さっくり。しっくり。すっくりはない。せっくりもない。そっくりはある。しに戻って、しっとり。しっぽり。しっかり。やっぱりしは多いね。し、し、死、あんまりしについて考えたくないな。すに行こう。移行。す、すっかり。すっきり。すっぱり。すっぽり。す、す、せ、せ、ない。そ、そ、そ、そもない。ざ行を忘れずに。ざっくり。ざっ、ざっ、着地点を見失う。じ、じっくり。じっとり。ずっぽり。そんな言葉ある？　まあ自然と出てきたってことはあるんだろうな。ぜ、ぜ、ぞ、ぞ、た、たっぷり。「たっぷり」って、なんでこんなにたっぷり感があるんだろう。た、た、ち、ち、ちゃっかり。ちゃ行だ。ちゅ、ちょ、なし。しゃ行に戻ると、と、しゃっくりがあったか。つ、つ、つっぱり。相撲が多いって。つ、て、て、てっきり。て、てっちり。食べたことないな。て、と、とっくり。これも使ったことない。と、と、だ、だ、ぢとづはスルー。で、ど、どっさり、どっしり。ど、な、に、にっこり。に、に、にっぽり。日の暮れる里。いい名前。に、に、ぬ、ね、ねっとり。ねっちり。の、のっそり。のっとり。怖いね。の、は、はっきり。はったり。は、は、ひ、ひっそり。ひ、ふ、ふっくり。ふっくらの弟だ。ふ、へ、へ、ほ、ほっそり。ほっこり。ほ、ほ、ば、ばったり。ばっちり。ばっさり。もうすぐ髪切らないとな。ば、ば、ばっかり。非難めいたニュアンスがこもった言葉だ。び、びっくり。びっしり。ぶ、べ、べっとり。べったり。ぼ、ぱ、ぱっくり。ぱったり。ぱっちり。おめめ。ぴ、ぴったり。ぴっちり。ぷ、ぷっくり。ふっくらのいとこだ。ぷ、ぺ、ぺったり。ぽ、ぽっくり。ま、まったり。ま、ま、まっこり。飲んだことない。マッコリをとっくりで。なるほどね。み、みっちり。む、むっつり。すけべ。む、め、めっきり。め、め、も、もっちり。もったり。もっこり。あ、これで思い出した。ひょっこり。芸人にいたよね。今何してんのかな。も、もっさり。や、やっぱり。や、や、ゆ、ゆっくり。ゆったり。ゆ、ゆ、よ、よ、ら、ら、り、る、る、れ、れ、ろ、ろ、ら行全滅だ。わ、わ、わ、ない。あっさり終わった。がっかり。結局眠れなかった。ていうかむしろ漏れた言葉がないか気になって眠れないかも。逆効果だった。あー。疲れた。寝よ。あ。鳥取。