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藤子F不二雄の短編集について

 子どもの時から『ドラえもん』が大好きだった。『ドラえもん』には、藤子F不二雄先生の、人間や自然に対する深い理解や、そこから生まれる思想が詰め込まれているし、しかもそれが子どもでも親しめるように工夫して作品化されていると思う。

 そんな藤子F不二雄先生が、たくさんの短編を残されている。自分も文庫版を6、7冊所有している。『ドラえもん』とは味付けが異なるものの、こちらも非常に面白い。ちょっと大人向けというか、表現がドラえもんよりも直接的だったり、扱うテーマもより哲学的だったりして、ビターな味付けになっているが、その分味わい深さがある。

 藤子F不二雄先生の短編で自分が特に好きなの点は、「価値観の転換」にある。
 例えば、『ミノタウロスの皿』という話では、牛と人間の立場がひっくり返ったような話だし、『絶滅島』では、ちょうど人間が自らのエゴで動物を絶滅させてきた例のように、宇宙人に地球人が絶滅の直前まで追い詰められる。『気楽に殺ろうよ』の社会では、殺人がよしとされている。
 このように、感覚的に「当たり前」になっていることに対して、「なぜそれは当たり前なのか」「それが当たり前であることは妥当なのか」ということを、面白いストーリーでもって突きつけてくる。面白いだけでなく、考えさせられる。スウィフトの『ガリヴァー旅行記』のようだなと思う。

 このように本質的なことを突いてくるので、哲学の名著のように、いつまで経っても古びることのない、普遍的な作品だと思う。

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