見出し画像

アートと能動的に向き合う体験を作りたい - Casieさんインタビュー

期間限定「泊まれるギャラリー」が始まります

HOTEL SHE, KYOTOでは、ホテルをメディアと捉え、ライフスタイルの試着が行える場所としてさまざまな過ごし方の提案をしております。そんな当ホテルが、「アートのサブスクリプション」で、人と暮らしとアートの関係性を、新しく、面白くすることを目指すCasieさんとコラボレーションを行い、期間限定で泊まれるギャラリーとして「好きなアートを選んで部屋に飾る」体験を提供する試みを行うこととなりました。

2022年9月17日から10月16日にかけての約1ヶ月間、HOTEL SHE, KYOTOに宿泊いただくゲストの皆様は、チェックイン後にホテル内のギャラリーにてお気に入りの1枚の絵画を選び、それを自分たちの客室に飾り、アートを楽しむ体験を行うことができます

美術館などでアート作品を見たりしたことのある方はいたとしても、実際に自分の好きなアートを購入して部屋に飾って楽しんだことのある方は少ないのではないでしょうか。そうした方々にもアートの楽しさを感じていただく試みとして、月額制の絵画レンタル「アートのサブスク」で、日常で身近にアートを楽しむことを提案するCasieさんと、「ライフスタイルの試着」を提案するHOTEL SHE, KYOTOが手を組み、アートのある暮らしをゲストの方へご提供します

この記事では、今回の企画がどのように実現したのか、ゲストの方にアートを通じてどのような体験をして欲しいのかを中心に、株式会社Casie執行役員の河野様にお話いただきました。インタビューは、本記事を書いているHOTEL SHE, KYOTOスタッフの高見が行っています。

株式会社Casie 河野様インタビュー

Casieについて

━━本日はよろしくお願いします。はじめに、Casieさんの事業について簡単にお聞かせいただけますか?

Casie 執行役員 河野様(以下、河野):Casie(かしえ)は、アートのサブスクリプションサービスです。月額2,200円から、誰でも気軽に絵画をレンタルで飾れます。絵のサイズで月額が決まるのが特徴ですね。現在活動中の約1,300名の画家、13,000点以上の絵画から好みの作品を選べ、季節や気分の変化に合わせて最短1ヶ月で自由に作品を交換していただけます。
ユーザーさんがお支払いする毎月のご利用金額の一部が、アーティストに報酬として還元される仕組みで、アーティストの支援・国内の文化芸術活動にも貢献します。

株式会社Casie執行役員 河野様

━━ありがとうございます。『もっとアートを身近に』という思いを持って事業をされていると拝見しましたが、現在のアートコレクター/コレクション文化について、どのような課題があるとご認識されていますか?

河野:そもそも日本にはアートコレクターという存在の母数、「アートを買って楽しむ」という文化自体が、アメリカやヨーロッパに比べて少ないです。その文化自体を作っていくために私たちができることは、いきなり強烈なコレクターさんを生み出すことではなく、アートを楽しむ土壌作りに取り組んでいくことです。そのために日頃からアートに接してもらう機会を増やしていく必要があると思っています。

━━今の日本でも美術館の数はたくさんあると思うのですが、コレクションという文化に関しては育っていない、ということでしょうか。

河野:そうですね、美術館もコロナの前だと年間の来場者数はかなり多く、野球のセ・リーグとパ・リーグ全試合の来場者数の約2.4倍を記録していたりしています。ただ人気の展覧会を見ると、モネやピカソ、ゴッホであったり・・・「みんなが知っているアーティストの展示に行く」という文化です。一方で、例えば若手作家の作品を見に行くことが文化になっているかというと、そこはまだまだです。

現在の美術館に行って鑑賞する、という体験は「観光」に近いものだと思っています。「みんなが見に行っているから行ってみようか」みたいな雰囲気なんじゃないかと。

━━なるほど。ちなみに今のCasieのお客様はどんな方が多いのでしょうか。

河野:ご利用が一番多いのは40代後半の女性の方です。主にファミリーで楽しまれていて、それまで子育てで大変だった中で少し生活に落ち着きが生まれて、お家で落ち着いた時間を持てるようになった方、というパターンが多いです。他にはお子様と一緒に絵を選ぶ体験を通して、情操教育と自分の趣味を掛け合わせたり・・・という方がいらっしゃりますね。

━━そういった方々に対して、どのように作品を提案しているのでしょうか?Webサイトを拝見すると「秋の抽象画特集」など、いくつかの特集でのセレクトを拝見しましたが、Casieさんでの人気の作風や傾向があったりするのでしょうか。

河野:やはり最初は「分かりやすい作品」を選ぶ方が多いです。具体的には、風景画やお花の絵であったり。ご自宅に馴染むことがイメージしやすい作品ですね。しかし何回か自分の好きな絵を飾る中で、本当に自分の好きなものに気付いたりだとか、少しチャレンジしたり、といったことが生まれてきたりします。そうすると、抽象的で何を描いているかわからない作品ですが、本当に自分の気に入った作品を選べるようになっていく・・・という傾向がありますね。

━━それはまさに「簡単にトライできる」「気軽に交換できる」というCasieさんのサービスの特徴が表れているような気がしますね。ユーザーさんに合わせた作品の提案はどうやって行っているのでしょうか?自由に選べるようなサービスだとは思うのですが。

河野:そうですね、逆に現在1.3万以上作品を取り扱っているので「多すぎて選べない」というお声をいただくことはあります。そういった際は「どういった環境で飾られますか」「アートにどういったことを求めますか」といったヒアリングを行います。「なんとなくお洒落だからアートを飾ってみたい」というユーザーさんも、色々お話を伺うと本能的にアートに求めるものがあったりするので、そこをメールやチャットでお伺いしながら提案しています。

━━「どういった環境で」というのはお部屋のどこに飾るのか、ということでしょうか?

河野:飾る場所もありますし、状況もあります。ご家族で一緒に見たいのか、自分一人でゆっくりとした時間を作るための絵なのか、ということをお伺いします。

━━なるほど。もう一方の「アートにどういったことを求めるのか」でいうと具体的にどういった内容になりますでしょうか。

河野:例えば知的好奇心を刺激したい、であったり、リラックスしたい、などですね。他には季節を感じることのできる作品をご要望されることもありますね。

━━現在1.3万以上の作品があるとのことですが、お預かりする作品選びはどのように行っているのでしょうか?

河野:基本的なアートとしての構成要素、構図であったり色彩であったり・・・という項目はベースにありながら、ユーザーさんの好みの声が情報として蓄積されているので、そこは意識します。それこそ受賞歴がすごい作家さんでも、いわゆるグロテスクな作品であったりすると、私たちのユーザーさんとはマッチしない、ということが起こります。それをずっと倉庫にお預かりしている状態はお互いにとって不幸せな状態です。

大体8割くらいはデータのマッチ度で判断しますが、チャレンジ枠での取り入れもあります。過去のデータとは合うジャンルではないけれど、いい作品だし、逆に新しいユーザーさんを見つけてきてくれるんじゃないか、という作品についてはメンバーの直感を信じてお預かりさせていただきます。

HOTEL SHE, KYOTOとのコラボレーション

━━今回のコラボレーションのお話についてお伺いします。そもそも、なぜお声がけをいただけたのでしょうか?

河野:実は今回のお話の2年くらい前にも社内のslackに「SHE, さんと一緒にやりたい」というコメントがあったんです。元々「ホテルをメディア/情報媒体」として捉えられていた点に興味を持っていたというのと、CasieとSHE,さんではご利用ユーザーさんの年齢層がかなりが違うだろうな、という点にも関心がありました。

私たちのサービスをご利用いただいている中でも一番多い40代前後の世代の方は、美術館に行った経験があると思うのですが、20代前半の世代になると、コロナの影響などで美術館が閉館になっていた期間も長く、なかなかアートに触れる機会がなかったのではないかなと思います。

そうした方々に向けてアートに触れる体験を提供することがSHE,さんとコラボレートすることでできるのではないか、と思ったことがお声がけの背景にあります。

━━ありがとうございます。今回の「泊まれるギャラリー」企画にあたり、ゲストの方にはどういった体験をしていただきたいでしょうか。

河野:アートって「見る」機会はあっても、自分が好きなものを「選ぶ」機会はほとんど無いと思うんですね。美術館に行っても最後に「どの作品が好きだった?」という話をして、ポストカードを買う程度ですよね。今回は実際にホテルの1室をギャラリーにし、目の前に30作品が並ぶわけです。その中で本当に自分が一番好きな作品ってなんだろう、と考えて選ぶ体験をまずは提供したいです。

ギャラリーとなるお部屋。この中から気になった作品を1点選んでいただきます。

もう一つ、SHE,さんはお二人で泊まられる方が多いとお伺いしたのですが・・・作品を選んで、お部屋に持っていき飾った時に「なぜこの絵を選んだのだろうか」「ここがいいと思ったんだよね」など作品について2人でゆっくりと話す時間を提供したいです。美術館だと人気の作品の前には行列ができていて「早くどいてくれよ」という後ろからの視線もあったり、絵を前にしてじっくりと話す時間って無いんですよね。

それが今回ホテルの客室という完全なプライベートルームで、自分が直感的に選んだ作品をゆっくり鑑賞する時間が取れるので、例えば「色づかいが好きかも」という絵の見た目の話から「なんで好きなんだろう。もしかして〜」というところまで2人の中で色々と想像を膨らませて、自分の「好き」を起点にいろんなお話をしてもらえたら、少しはアートが身近なものになるのではないかなと思っています。

━━なるほど、確かに一つのアート作品を2人で目にしながらいろんなお話をする時間って、美術館でもなかなか無いですよね。

河野:美術館って、海外だと喋っていい環境だったりするんですよね。日本との文化の違いでもあるんですけど、せっかくアートを見にきたのに自分の脳内だけで完結しちゃうのはすごく勿体無いと思っていて、絵って見れば見るほど感想が出てきたりもするので、やっぱり人の感想を聞いたり「じっくり絵を見て喋る」という時間は大事だと思います。

私たちのユーザーさんだと、そういった時間をご自宅の中で体験してもらうことができるのですが、その体験を事前に提供できているかと言われるとなかなか難しい部分があります。それを体験できる空間を作っていただけた、というのは嬉しいです。

━━「ホテルの客室内はプライベートな空間だから会話が生まれる」という話、とても腑に落ちるところがありました。「アートを楽しめるホテル」というのは他にもいくつかありますが「選ぶ体験をする」ことができるホテルというのはあまり他に無さそうです。

河野:ええ、よくベッドの近くの壁に絵が飾ってあるホテルはありますが、それはインテリアの一つとして見えてしまいますよね。それは受動的なアートとの向き合い方で、能動的なものとは意識の向き方が全然違ってきます。

━━「選ぶ」という行為からアートへの能動的な姿勢が生まれるわけですね。

河野:はい。直感だとしても「選んだ」ということは何か気に入ったポイントがあったわけです。選んだ時点でアートを楽しめている、とも言えるし、そこからどんどん話してもらえると、より楽しめていることになります。

京都という街について

━━Casieさんは京都を拠点にされていますが、アートの事業を行うにあたり京都拠点のメリットは感じられますか?また、逆にデメリットはありますでしょうか。

河野:これはかなりありますね。京都は工芸なんかもそうですが、芸術全般を大切にする文化が根付いていると感じます。アート分野で頑張っている若者を応援する土壌が昔からあるんじゃ無いかと思います。それもあってか、京都は芸大・美大が多いですよね。その分、他の都道府県に比べて「絵を見る文化」もあるんじゃないかと思います。それこそ私たちの会社は元々倉庫が京都で本社が大阪だったんですけど、本社を京都に移してからかなり応援してくれる企業さんが増えました。

ベンチャー特有の悩みでいうと東京に情報が集まっているということは当然あるんですが「京都でやっている」ことが一つのブランディングになっていることもあり、デメリットよりメリットが上回っていると思いますね。府外で展示会をするときなんかの作品持ち出しはやっぱり大変ではあるんですけどね。笑

━━最後になるのですが、河野様がHOTEL SHE, に泊まりに来た人におすすめする京都のスポットがあれば教えてくれませんか。

河野:難しいですね笑。佛光寺でしょうか。これは観光客には有名なのかな・・・?私たちの会社の近所なのですが、仕事に行き詰まったりしたら佛光寺に行ってボーッっとして脳をリフレッシュさせています。結構いろんな人が自由気ままに座ったりして過ごしていますよ。観光地のお寺さんのせわしなさがない場所です。

━━鴨川みたいな使い方をしていますね。

河野:そういう意味だと鴨川は有名すぎますからね笑。

━━そうですね笑。京都の観光地ではなく、京都の地元の人がどう過ごしているかを感じられる場所ですね。本日は大変魅力的なお話をたくさん伺うことができました。ありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?