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マッドパーティードブキュア 229

「おやおや、なんだろうね」
「ええ、なんでしょうね」
 女性ののんきな声に、メンチは動揺を隠しながら答える。短く遠くに聞こえたなき声はシッカリとは聞き取れなかった。老婆の声には聞こえなかった。けれども、老婆と無関係とも思えない。つい先ほど、老婆はあの棲家に様子をうかがいに行ったのだ。
「お子さんたちが遊んでるんでやすかね」
 こちらも平静を装って、セエジが尋ねる。女性は首を傾げて答える。
「自分らだけのときは静かにしてるように言ってるんだけどね」
「へえ、そうなんですか」
「そうだよ。あんまりうるさくしすぎると、どこか行って時に困るのは本人たちだからね」
 意外な言葉に少し驚く。厳しいようでひどく子ども思いな、優しいことを言ってるように聞こえる。何か奇妙な感じだった。この女性の纏った残忍なまでの隙のなさと、子どものことを大切に思っている口調は、とてもちぐはぐな印象を与える。
 もしかしたら、悪い人ではないのかもしれない。そんな考えも頭をよぎる。けれども、警戒は解かない。この街では油断した者から命を落とすものだから。
「誰か侵入者でもいたのかもしれないねえ」
「へえ、よく誰か来るんですか?」
「まあ、時々ね」
「どうするんでやすか? そういうの」
「もちろん、場合によるけれども、丁寧におもてなしをして帰ってもらうことが多いかね」
 女性は笑いながらそんなことを言う。おもてなしというのは何を指すのだろう。いろいろな意味を持つ言葉だ。
 棲家が近づいてくる。鳴き声はもう聞こえない。
「ただいまー」
「あ、お母様。おかえりなさい」
 返ってきたのは行儀のよい声。けれども言葉の中身に反して、その声はとても低く野太い声だった。
 女性がブルーシートをめくる。
「お客さんかい?」
「そう、突然来たので、びっくりしてしまいました」
 さっきとは違う声だ。けれども、やはり野太い声だ。
「失礼」
 メンチは女性の肩越しに棲家の中を覗き込んだ。

【つづく】



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