海月里ほとり

俺は小説書きサイボーグ。淡々と小説を書いてお前を押しつぶす。 お代は見てのお帰り。 皆…

海月里ほとり

俺は小説書きサイボーグ。淡々と小説を書いてお前を押しつぶす。 お代は見てのお帰り。 皆の万札が、銃弾やムーンライトクッキーに変わって、海月里ほとりをバックアップします。

マガジン

  • マッドパーティードブキュア

    ドブヶ丘で戦う魔法少女たちのお話です。

  • ドブヶ丘関連

    自分で書いたドブヶ丘関連の色々を貯めていきます。

  • ドブヶ丘集

    妄想虚構都市ドブヶ丘に関する記事をここにためていきます。説明書をよくお読みになり用法容量を守ってお使いください。あなたドブヶ丘に踏み入るとき、ドブヶ丘もまたあなたに侵入している。

  • 出口兄妹の冒険

    腕に口持つお兄ちゃんが妹のために頑張る、怪物たちがドブヶ丘で切ったはったするお話です。

  • 電波鉄道の夜

    逆噴射小説大賞二次選考通過作品「電波鉄道の夜」の連載版です。おおむね毎日更新をめざし……実行します。

最近の記事

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目次記事

この記事は海月里ほとりの書いた小説をまとめた記事です。 いつの間にかずいぶんと数を書いていたので、辿りづらくなっているのではないだろうか。そんな時ここから選んでいけば好きなところから読めるという寸法だ。 ドブヶ丘の話とかSFな話とか、あとファンタジーな話を書いたりしている。 それぞれの小説の本文は無料ですが、投げ銭用にあとがきをつけていることがあります。気に入ったら読んでみてください。とてもうれしくなる。もちろん本文を読んでもらえるだけでもうれしいけれども。 ドブキュ

    • マッドパーティードブキュア 213

       メリアは本の山の隙間で窮屈そうに体を折り曲げて眠っている自分に気がついた。山を崩さないように慎重に上体を起こして辺りを見渡す。視界がぼんやりとしている。目を擦る。眼鏡をかけていない。手探りであたりの本の山を探る。頭の隣の山の上に開いたままで眼鏡が置いてあるのを見つける。昨夜力尽きる前になけなしの意志力で外して置いたのだろう。内心で眠りに落ちる前の自分を褒めておく。  慎重に立ち上がる。本の山が崩れかかって慌てて支える。足元の水筒を拾い上げる。少し考えて、本の山をいくらか積み

      • マッドパーティードブキュア 213

        「どういうことだ?」  ダイナーのソファに腰を下ろしてメンチは不機嫌そうに言った。 「言った通りです」  背の高いウェイターにオーダーを伝えてから、セエジは冷静な顔でメンチに向き直った。その顔はいくらか色を取り戻しているように見えた。店内の隔離された秩序はセエジの体調に良い影響を与えているのだろう。 「『ドブヶ丘の心臓』があれば、テツノを元に戻せるって話じゃなかったのか?」 「あくまで、『可能性があった』というだけの話です」 「なんで、過去形なんだよ」 「そのようにならなかっ

        • マッドパーティードブキュア 212

          「お、おい、お前たちどこへ行く!」  口を利く獣が狼狽の声を上げる。獣たちは気にせず、散り散りにかけ去っていき、最後には喋る獣が一匹だけ残った。 「で、あんたはどうするんだ?」  獣を睨みつけながら、メンチが言う。容赦のない冷酷な声。  獣は一歩後ずさりをした。 「おとなしく裏を話すんなら、命までは取らねえぜ」  先ほどの獣の言葉をなぞるように、メンチは言う。獣は忌々しそうに一つ舌打ちをした。 「この借りはいつか必ず」  それだけ言うと、ぷつりと糸が切れたように、獣は表情を失

        • 固定された記事

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        • マッドパーティードブキュア
          68本
        • ドブヶ丘集
          23本
        • ドブヶ丘関連
          10本
        • 出口兄妹の冒険
          19本
        • 電波鉄道の夜
          12本
        • Vのこと
          5本

        記事

          マッドパーティードブキュア 211

          「なんだ? お前は」  メンチは言葉を発した獣から視線を外さずに尋ねた。 「お前らが知る必要はないさ」  獣は答える。人語に適さない声帯から発せられる声。聞きづらくはあるが、なんとか聞き取れる。獣はなおも話し続ける。 「お前たちがこの洞窟で手に入れた、それを渡しな。そうすれば命まではとらない、見逃してやる」 「嫌だ、と言ったら?」 「お前たちをぶちころがして、その死骸から奪い取るだけさ」  獣は獰猛に笑った。 「そうか」  メンチは短く答える。その後ろから、テツノは獣たちを一

          マッドパーティードブキュア 211

          マッドパーティードブキュア 210

           帰りの道は思いの外、楽な道だった。  洞窟を満たしていた、敵対的な暗闇のとげとげしい不明瞭さは鳴りを潜めていて、今はマラキイの持つかがり火に照らされてひっそりと物陰に佇むだけだ。松明さえいらなかったのかもしれない。  少なくとも、先導するメンチには明かりはいらないようだった。松明の光を背に迷うことなく先を進む。  テツノは歩きながら、先を歩くメンチの背中をじっと見つめた。泥の汚れにまみれたその背中は、幾分影が濃くなったように見えた。  あの暗闇の中で、何があったのだろうか。

          マッドパーティードブキュア 210

          マッドパーティードブキュア 209

           闇の中に煌めく、赤錆の斧のきらめきを見ると、不思議と恐怖は消え去った。ただ、そこにメンチがいるという確信だけが、胸の内に生じた。  領域を伸長する。暗闇の中へ。 「テツノさん」  セエジの声が聞こえる。だが無視する。  荒れ狂う暗闇の中へ感覚を伸ばす。存在がかき消されそうになる。暗闇が混乱しているのが伝わってくる。赤錆の斧を目指す。 「メンチ」  混乱は収まらない。動揺して、暗闇の乱動は激しくなる。 「大丈夫だよ」  抱きしめるように、大きく暗闇の領域を包み込む。暗闇は暴れ

          マッドパーティードブキュア 209

          嫌いな作家のこと

          「死んだ作家のことなら許せる気がする」 みたいなことを、村上春樹の小説の中で、誰かが言っていた気がする。 私にはどうしても許せない作家というのがいる。読むたびに気分が悪くなるので、もう二度と読むまいと思うのだけれども、タイトルとあらすじが大変癖に来るので、ついつい手にとっては、作家名を見て本棚にもどす行為を繰り返してしまう、そんな作家だ。 その作家が最近おっちんだと聞いた。 冒頭の言葉を思い出して、今なら読めるかもしれないと思って、本を買って読んでみた。 あいかわらず嫌

          嫌いな作家のこと

          マッドパーティードブキュア 208

           なにがあったのか。頭の中で、思考のあらしが吹き荒れる。最善の想像から、最悪の想像まで。 「メンチ」  もう一度呼びかける。返事はない。反応したようにも感じられない。想像の天秤は最悪の極へと傾く。 「そんな、そんな」 「どうしたでやすか?」  テツノのただならぬ様子を感じ取ったのか、ズウラが声をかける。  テツノは混乱しながらも答える。 「この中に、メンチがいる」  自分で言って、即座に首を振る。否定する。そんなはずはない。そんなことあるはずがない。そんなことになったら、そん

          マッドパーティードブキュア 208

          マッドパーティードブキュア 207

           とりわけ暗い闇の塊とセエジの距離が縮まる。テツノは暗闇の塊が領域を広げるのを感じた。 「あぶない!」  咄嗟に、腕に実存を集めていた。テツノの腕がセエジの肩を掴む。セエジの境界を質量を持った暗闇が探るように掠めた。あと一歩、いや、半歩でも前に進んでいたら探りまわる暗闇がセエジを呑み込んでいただろう。  テツノはセエジを引き戻す。倒れ込むように下がるセエジを誰かが受け止める。老婆だ。セエジが確保されたのを感じて、テツノは暗闇に意識を向ける。  空を切った暗闇はやたらめったらに

          マッドパーティードブキュア 207

          マッドパーティードブキュア 206

          「戻れなくても、やらないといけないんだよ」  テツノは反駁する。探すことで発生しうるどんなリスクだって、それをしないことで起こるかもしれない出来事に比べれば遥かにましだ。すくなくとも、テツノにはそう思えた。 「この暗闇は、ただの暗闇では、ありません」  セエジの声が途切れながら続く。 「『ドブヶ丘の心臓』、がもたらす、濃い闇です。こんな、ところで存在を薄くしてしまえば、たちまちのうちに、霧散してしまいます」 「それは、でも、メンチも同じだろ」 「いいえ」  きっぱりと、セエジ

          マッドパーティードブキュア 206

          マッドパーティードブキュア 205

           呼びかけに、返事は返ってこない。  あたりを見渡しても、分厚い暗闇がのっぺりとどこまでも続いているだけだ。  テツノは自分の存在しない身体が、ぶるぶると震え出すのを感じた。胸の内にこみあげてくるのは、恐怖だ。暗闇への恐怖なんかじゃない。それよりももっと、ずっと恐ろしいこと。 「それじゃあ、こんな暗いところで、はぐれてしまったら」  その先の言葉を言うのはやめようとする。けれども、想像は止まらない。嫌な想像、恐ろしい想像。 「もう、みつからないじゃないか」  想像が口からまろ

          マッドパーティードブキュア 205

          マッドパーティードブキュア 204

           テツノは暗闇の中に存在していた。実体のない状態にはもうそろそろ慣れてきていたけれども、今いる暗闇はどうにも居心地が悪く感じた。自分自身の姿が見えないだけではなくて、自分自身の存在そのものが闇に飲み込まれて掻き消えてしまいそうな気がする。  そっと、あたりの気配を探る。暗闇は仲間たちの気配さえも覆い隠してしまっている。 「あれ?」  そこで、初めて気がついた。再び、あたり探る。やはり、いない。 「メンチ?」  囁き声は闇の中に染み込んで消えた。返事はない。メンチの気配も現れな

          マッドパーティードブキュア 204

          マッドパーティードブキュア 203

           心臓の質問に、メンチは首を傾げる。目の前の存在は何を言いたいのだろう。心臓は笑って続ける。 「君がしたいことはできるかもしれないよ。でも、私の力を使うってことは、そんなに簡単なことじゃない。必ず……そうだね、結果をもたらす。それも、なにかしら極端な結果になるだろうさ」 「極端な、結果?」 「ああ、いいにつけ、悪いにつけ、極端な結果ってことだよ。すごくいい結果か、すごく悪い結果。君にも、君の周りにも、君の敵にも。なにか極端に、大きな結果を与えることになるだろうよ」 「それが?

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          マッドパーティードブキュア 202

          「望み?」  質問に拍子を外され、切りかかる決意は勢いを失ってしまった。 「なにかして欲しくてここに来たんだろう?」  メンチは穏やかな心臓の目から目を離せなくなる。ここに来た理由、それを考え出してしまう。 「あんたは、本当に『ドブヶ丘の心臓』なのか?」  メンチは尋ねる。尋ねて間を作ろうとする。心臓は笑って答える。 「そうだよ、そう言っているだろう」 「この地区の混乱はお前が作っているのか?」 「私が作ってるわけじゃない。私がここにあるだけで、周りが歪んでいく。その結果がこ

          マッドパーティードブキュア 202

          マッドパーティードブキュア 201

          「私の顔を忘れたのかい?」 「ふざけるのはやめろ」  メンチの胸の内にいら立ちがこみあげてくる。もうその顔の人間はいない。あの時にいなくなったから。机の向こうの人影がゆっくりと首を振る。 「悪いね、今はこの姿でいさせておくれ。君にとってこの姿は大事なんだろう?」  かみ合わない言葉。語る声も遠い昔の記憶のまま。その言葉が耳に入ると、自然と安心してしまう。安心してしまうことにいら立つ。 「あんたはおばさんじゃない」 「……そうだね」 「じゃあ、誰なんだよ。その顔で、その声で、何

          マッドパーティードブキュア 201