vol.1 ドブヶ丘行き


 家族で立川に映画を見に行った帰り道、南武線に乗りたくて一人で別のルートを通ることにした。登戸で乗り換えたときに見たことのない路線があった。「ドブ川線」? 知らない路線だ。乗ったことのない路線に乗ってみようと、電車に乗り込んだ。

 新しい路線なのかと思ったけど、中身はずいぶんとレトロな作りだった。座席は茶色の水玉模様。珍しい柄。

 しばらくして、電車が動き出す。ほかにお客さんはいない。

 電車は粛々と進んでいく。何か不思議なにおいがしてきた。夏休み明けに机の奥から発見される雑巾みたいなにおい。だんだんと濃くなっていく。窓の外を見ると、なんだかだんだん暗くなっていっている気がする。まだお昼なのに。

 駅に着いた。なんて読むのだろう、難しい字の駅名だ。電車が止まり、ドアが開く。何人かお客さんが乗ってきた。みんなどこかここではない遠くを見ているような、不思議な目をしている。
「ほうぶつせんをえがくはな」
 お客さんの一人が私のほうを向いて何か話しかけてきた。方言なのか訛っていてよくわからない
「ぞのはしろつめくさからさすこもれびの」
しゃべりながら私に手を伸ばしてくる。
「えーっと」
 と、突然窓が割れて黒いどろどろが私に話しかけていたお客さんと、ついでにそのあたりにいたほかのお客さんを巻き込んで圧し潰した。
「シネンマナブサッカー」
 気が付くと目の前になんだかドロドロした真っ黒なお姉さんがいた。右腕の肘から先がなくて、そこから黒いどろどろが垂れている。さっきのお客さんを呑み込んだのもおねえさんかな?
「オクガワニバエルイチリンノハナキュアドレイン」
 やっぱり訛っていて何を言っているのかわからない。
「ココアタカサゴフォウナオガクズトドロカナイ」
 そう言うとお姉さんは黒いドロドロで電車を持ち上げて反対向きに置き直してくれた。「ミツバオリガミタラカタミナライ」
 

ありがとう、とお礼を言うと
「ケイヒハカカラナイ」
 と言って、お姉さんは窓から降りて行った。

 しばらく待っていると、また電車が動き出した。

 次に電車が止まったのは登戸の駅だった。そのまま小田急線に乗り換えてお家に帰った。
 

掃除ロッカーの雑巾のにおいを嗅ぐと、あの日のことを思い出す。また、いつか行くことができるだろうか。その時にはあのお姉さんともう少しちゃんとおしゃべりができるといいな。



以前twitterにあげてみたやつを少し修正したもの。

色々考えたこととかを下に書いて有料にしてます。世界の心理とかたいそうなことは書かないけれども、気になった人や、小説が面白いと思った人は読んでくれると嬉しい。

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