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まさに学生への愛の賜!東京工芸大の動画から考える、一歩外から見る大学の取り組みの広報価値。

スマホに高性能なカメラが備わるようになり、YouTubeをはじめSNSで動画を手軽に配信できるようになったことで、動画は日常的なコミュニケーションツールの一つになったように思います。今回、見つけた東京工芸大学の取り組みは、まさに今日的な動画の使い方だと感じました。こういう動画の使い方って、大学にとっても、広報にとっても、すごく意味があるように思うのです。

取り上げるのは、東京工芸大学創立100周年企画動画「広報担当が研究室を訪問してみた」です。この取り組みの面白いところは、大きくは二つあります。

一つは、徹底したハンドメイド。リリースによると、プロのカメラマンや映像制作会社が入らず、広報担当だけで自撮り棒をもって研究室に訪問して収録し、編集・公開作業もすべて広報担当が行っているとのこと。ある程度、気心を知れた学内の人しか関わっていないためか、いくつか動画を見てみましたが、どれもリラックした雰囲気が漂っていました。また、撮影場所もいい感じに散らかっているんですね。これもあって、画にすごく日常感が出ていました。外部に依頼して動画をつくる場合、こういうことはなかなかしないし、できないので、ハンドメイドならではの出来栄えです。
 
もう一つ面白いところとして挙げたいのは、この取り組みのメインターゲットが、受験生ではなく在学生というところです。リリースには、下記のように書かれています。

この企画は、当初、コロナ禍においてオンライン授業が進む中、在学生に少しでも身近に大学や教員の雰囲気を感じてもらえるよう、同大の新たな学内情報発信・コミュニケーション手段として、2020年9月にスタートした。

日常がうばわれたときに、日常を伝えるためにはじめたわけです。そう思うとこの動画からびんびんと伝わる日常感が腹落ちします。またこの取り組みは、業者を入れずに動画作成しているわけで、担当者の負担はかなり大きいはず。しかもインナー広報は、大事ではあるけれど、なかなか理解されにくい広報活動です。大変なうえ理解されにくい、そんな活動を2019年からはじめて今も続けているわけです。
 
さらにいうと、東京工芸大学では、一般的には理解されにくいこういった取り組みを100周年企画という冠をつけて取り組んでいます。2021年末の動画までは100周年ロゴがついていないことを考えると、おそらく途中で取り組みの価値が認められて100周年企画に昇格(?)したのではないかと思います。もしそうだとしたら、広報担当が学生のためにはじめた手弁当の取り組みが、大学に認められ、100周年という大きな節目を象徴する企画の一つになったわけです。こういったドラマが感じられるのも、この取り組みのユニークなところではないでしょうか。
 
そして、インナー広報と書きましたが、外部に向けた広報的な価値も十分あるように思います。親しみが持てる動画を量産している、ということもあるのですが、それより大きいのは、こういった活動を長期で続けているという事実です。だってこの活動、学生への愛の賜ですよ。それがストレートに伝わってきます。
 
広報活動に取り組むとき、対象に対して何をどう伝えるか、みたいなことばかりを考えてしまいがちです。でも、場合によっては、もう一つ外のレイヤーから見たときに、また違う価値が見えてくることもあるのかもしれません。今回の東京工芸大の取り組みを見て、そんなことを感じました。
 
とはいえこれってすごく難しくいことで、ターゲットに真摯に向き合ってるからこそ説得力がでるわけですよね。社会にどう映るのかを意識しだすと、途端に胡散臭くなるように思います。そういう意味では、最初から狙うのではなく、どこかで立ち止まって一歩引いた目線で取り組みの価値を捉え直す、みたいなことが大事なのかもしれません。気づいてないからこそ魅力的、でも、気づかないことには活かせない…。このバランスが悩ましいものの、広報的な視点で大学の取り組みを棚卸しするというのは、とても価値あることのように思います。

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