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これからの大学に求められるのは、場のプロデュース力?武蔵大学の”ビジコン”に感じる、新しい大学教育のあり方

近年、学生たちのスタートアップ支援を行う大学が増えてきています。テクノロジーの発達や価値観の多様化によって新たなビジネスが生まれやすい環境が整ってきており、一方で終身雇用制が崩れてきているなど、良くも悪くも社会状況がスタートアップに適したものに変わってきていることも関係しているのでしょう。今回、見つけた武蔵大学のイベントも、そんなスタートアップ支援の一環。企画としては、以前からあるお馴染みのものですが、いくつかの点で異なっていて、その違いがすごくいいんです。

武蔵大のビジネスプランコンテストの二つの魅力

では、どんなイベントなのかというと「ビジネスプランコンテスト」です。ほぼイベント名通りですが、イベント内容は学生たちがビジネスプランをプレゼンして、その優劣を競うというもの。近年どころか、けっこう前からいろんな大学で取り組んでいるイベントです。でも、武蔵大の場合、大きくは二つ特長があって、それによって個性が際立っています。

一つは、賞金です。リリースに記載されていた賞金の記載を見てもらうとわかるのですが、けっこう高額なんです。いち大学が主催しているもので、ここまで出しているものはめずらしいように思います。

■賞 金
大賞※(松井利夫 賞)100万円 /準大賞※ 50万円
優秀賞 20万円 /準優秀賞 10万円 /審査員特別賞 5万円
※大賞、準大賞は実際にビジネスをスタートするプランが対象です。

武蔵大学のプレスリリースより

そして、もう一つ、いい!と感じたのは、自大学の学生に限定していないんですね。賞金が高額なところと合わさって、ものすごくステキに感じました。ちなみに、大学主催のビジコンには、他大学に門戸を開いているものもありますが、自大学の学生に限定、もしくは高校生を対象にしているものが多いように思います。

ただ、もう少し掘り下げて説明すると、他大学の学生が賞金をゲットできるチャンスがあるからいい!と言っているわけではありません。この建付けがいいのは、刺激のある環境をつくる=いい教育をするうえでとても効果的だからです。

ビジネスプラン”コンテスト”をやる意味

単にビジネスプランを考えるのであれば、個人や同じ志を持つ仲間がいればできます。コンテストにする意味というのは、さまざまなアイデアや考え、価値、意見に触れられる場をつくるためです。この多様で刺激的な場というのは、いち大学だと、まず作り出すことはできません。だって、同じ大学にいるということは、同じような年齢で、同じような学力で、同じような授業を受けている人たちです。さらにごく一部のブランド大学をのぞくと、近隣エリアから通う学生が中心になってくるので、バックグラウンドさえも似てきます。これだと刺激をもらうどころか、似た考えやアイデアに触れるだけになり、そんな環境で評価されたとしても井の中の蛙になるだけです。

他大学に門戸を開くというのは、この状況を打破するための数少ない一手です。より参加者を多様にするために、対象を学生に限定しないという考えもありますが、私としては限定した方が自大学の学生が参加しやすくなるし、学生が自分の現在地を理解しやすくなるので、いいように思いました。

で、さらにいうと、門戸を開ければそれでいいというわけではありません。他大学の学生が応募したくなるインセンティブが必要です。東大や京大が主催するビジコンであれば、評価されること自体に価値がある(箔が付く)ので、賞金等がなくても人が集まるかもしれません。でも、超一流大学でない場合、わかりやすいインセンティブを用意しておかなければ、応募してくるのは自大学の学生のみ、良くて自大学と同ランクないし下位層の大学の学生たちです。これじゃ、やる意味もあまりありません。

”他大学よりも”から、”他大学とともに”へ

いかにして刺激的な場をつくるか、武蔵大はしっかりとここにフォーカスしているように感じました。そして、歴史が浅い今(今回が3回目)は、賞金がインセンティブの中心ですが、今後ここから魅力的なビジネスがいくつも生まれてくると、コンテスト自体がブランド化していき、それによってさらに多くの人が集まるという好循環が生まれてくる可能性があります。

今回の取り組みのように、大学がハブとなりここにしかない経験を生み出していくというのは、今後の大学教育において間違いなく大きな価値になります。これまでは他大学よりも良い教育を、という視点でした。けれど、いち大学でできる教育には、もうすでに限界がきています。多くを巻き込み、変化、成長していくことで、刺激的で効果的な教育の場を生み出す。大学の役割は、いかにそういった場を”プロデュース”するかに変わってきているように思います。

とはいえ、まずは学内でこういった活動の意味や価値を共有しないことには、学内のリソースをなぜ学外者に提供するのかという反発の声があがり、すぐにつぶされてしまいます。そのため急がば回れというか、まずは学内でこれからの大学のあり方を議論し、その延長線上にこういった活動を位置づけることが大事です。そうしないと長期的な取り組みにならないし、長期的にやらなければあまり意味をなしません。武蔵大ではすでにビジコンを3回開催しているわけで、ここらへんの考えも学内に浸透しているのかもしれません。ぜひ内情がどうなっているか聞いてみたいものです。

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