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雑学マニアの雑記帳(その24)バングラデッシュ

テレビや新聞でバングラデシュに関係する報道を見てふと思ったことがある。昔は「バングラデッシュ」と呼んでいたのに、いつの間に「バングラデシュ」になったのだろう。かつて「グルジア」とロシア語読みで呼ばれていた国が、同国の再三に渡る強い要請によって外務省が正式に日本語の呼称として「ジョージア」という英語読みの国名を採用し、報道機関もこれに対応したことはあったが、バングラに関してはそのような大きな見直しではなく、微修正だ。どのような経緯でいつから変わったのか、謎である。
同じような「微修正」の例は他にもある、ロシアの「ウラジオストク」も昔は「ウラジオストック」と呼ばれていたが、いつの頃からか「ストク」になっている。あるいは、かつてアメリカ大統領選挙で立候補した「リーガン」候補、当選して大統領になったら「レーガン」大統領になってしまった。こういった微修正は、報道機関の間で定期的に談合でも行われて決めているのだろうか。謎である。
外国の国名や地名の日本語表記については、他にも興味深い視点がいくつかある。まずは「区切り問題」。前述のウラジオストクだが、テレビやラジオのアナウンサーなどの発音を聞くと「ウラジオ・ストク」という区切りに聞こえることが多い。ラジオのNKH第二で放送されている「気象通報」という番組があるが、以前は観測地点として「ウラジオ」と略されていた。しかし、元々のロシア語ではウラディ(支配)とヴォストーク(東)というふたつの言葉から成り立つため、日本語表記を区切るとすれば「ウラジ・オストク」とするのが正解となる筈だ。
日本語として語呂が良いので「ウラジオ」で区切るのかもしれないが、原語に馴染んでいる視聴者がいたならば、かなりの違和感を覚えるのではないだろうか。一方、そうでない大多数の視聴者にとっては、語呂の良いところで区切りたくなるのも理解できる。
同様に原語と違った区切りで発音されることが多い国名・地名には次のようなものがある。(ここでは区切り位置を明示するために「・」を入れているが、新聞などでこのように表記されるという意味ではない)

  (本来の区切り方) → (よく聞かれる区切り方)
 「コスタ・リカ」→「コス・タリカ」
 「クアラ・ルンプール」→「クアラルン・プール」
 「エル・サルバドル」→「エルサル・バドル」
 「プエルト・リコ」→「プエル・トリコ」

いずれも左が原語での区切り、矢印の右が発語時に多く聞かれる区切りポイントを示している。カタカナ表記にした時点で原語の発音から乖離してしまっていると思えば、ついでに区切り位置が変わってしまっても目くじらを立てるほどのこともないのかもしれないが、テレビ番組でお馴染みの「いわゆる文化人コメンテーター」と呼ばれる人々が明らかに違った位置で区切った発音をしているのを聞くと、失笑を禁じ得ないものがある。
さて、国名表記においては、通常の表記の他に、主に「主要国」と呼ばれる国を中心として用いられる省略形(基本的に漢字一文字)や、その元となった漢字表記にも着目しておきたい。次の表はG20(主要二〇カ国)について、通常の表記と省略形、漢字表記をまとめたものである。

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漢字一文字の省略形を使って、「日米首脳階段」「日中韓サミット」などとコンパクトに複数の国名を列挙することが可能となる。これは非常に便利だ。しかし不思議なことに、その省略形の元となった漢字表記を見ることは非常に少ない。「日墨」「日伯」といった表記はたまに目にすることがあるが、「墨西哥(メキシコ)」「伯剌西爾(ブラジル)」などという表記は、まず見たことがない。フルの漢字表記が死語になっているのに、省略された頭文字だけが脈々と使われ続けているというのも面白い現象だ。
ちなみに、表の中では英国の通常表記を「イギリス」としているが、外務省のホームページでは「英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」が正式名称として記されており、「イギリス」という言葉は現れない。イギリスの語源であるイングランドはグレードブリテンの一部にすぎないから、正式に「イギリス国」とは呼ぶのは適切でないが、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」という長い正式名称も実用上は使いにくい。そのため、折衷案としてイギリス(英吉利)の頭文字を使った「英国」が採用されているのかもしれない。「イギリス」は駄目で「英国」ならば良いというのも変な話ではあるが。
「英国」「米国」はよく見かけるが、「仏国」「独国」はそれほど見かけない。さらに「伊国」「加国」などは使われたところを見たことがない。この差はどこから来るのであろうか。いつか、専門家の解説を聞いてみたいものだ。

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