見出し画像

雑学マニアの雑記帳(その2) 1号線

現在のようにカーナビが一般的になる前、道路地図はドライブの必須アイテムであった。昔は、車の中に全国道路地図と自宅を含む都道府県レベルの地図などを常備していたものだ。何年かに一度は最新の地図に買い換えるのだが、その際には旧版との比較が楽しみでもあった。高速道路の延伸、そして今と違って国道の新設が行われることもあった。全国の道路網が充実していく様子を目の当たりにして感慨を覚えたものだ。
国道は当初、一級国道と二級国道という区分でスタートした。一級は1号線から40号線、二級は101号線から244号線が最初に整備された。その後一級・二級の区別は廃止されたが、主要道は二桁、その他は三桁の番号という区分は引き継がれ、追加整備分も含めると、二桁は58号まで、三桁は507号まで(一部欠番あり)が網の目のように日本全国を覆うに至っている。一級国道の中でも主要な「一桁国道」は次の九本となる。

画像1

番号順に見ていくと、東京を起点として大阪、福岡、鹿児島と西へ伸ばし、改めて東京から青森、函館、札幌と北への路線を指定して日本の背骨を通した上で、日本海側に背骨と並行して走る基幹路線を整備していったことがわかる。
特に1号線は、首都圏と関西圏を結ぶ日本の大動脈である。江戸時代の東海道と重なる部分も多く、歴史的にも重要な役割を果たしてきた路線である。1号線として指定するにふさわしい道路といって良いだろう。
さて、それならば各都道府県が管理する「都道府県道」においても、それぞれの1号線は、各地域の重要路線となっているのではないか、という仮説が立てられるが、実際のところどうなっているのか確かめる必要がありそうだ。
まずは、首都の東京都道1号線を見てみよう。と、思ったところが、なんと1号は欠番となっている。実はかつて存在していた都道1号線は、神奈川県道6号線とともに「東京大師横浜線」と呼ばれている路線であるが、現在は都道6号線と改められている。これは、1990年代に、当時の建設省が、都府県を跨る都府県道の番号を可能な限り両者揃えるべき、という方針を示したことによる。そのルールに従い、都道1号線は神奈川県道6号線にあわせて都道6号線となり、都道1号線は欠番となった。
では次に、その神奈川県道1号線を見てみると、こちらも欠番となっている。神奈川県には、独自の県道採番ルールがあり、「県内を通る国道の番号との重複を避ける」という方針が定められているのだ。神奈川県内には国道1号線が通っているので、県道1号線は設定されないことになる。
もう少し他を見てみよう。次は大阪だ。ここは1号線が存在している。茨木摂津線と呼ばれている路線だが、山間部を縫うように走る部分も多く、1号線という名前から想像する華々しさは感じられない路線だ。その理由を調べてみると、以前は大阪の中心部を囲む内環状線が府道1号線と呼ばれていたらしい。確かにこれならば1号線にふさわしいイメージだ。ところがこの路線、国道に昇格してしまったため、府道1号の名前を返上することになったのだ。代わりに、府道122号・403号を合わせて、改めて新1号線となったとのことだ。
考えてみれば、都道府県道の中で主要なものから国道に昇格するのが自然である。1960年代から1990年代にかけての国道整備の過程で、都道府県道の1号線の中のいくつかが国道に昇格したのは当然の成り行きと言える。全線が国道となってしまえば、1号線の名前は返上となる訳であるから、そのまま欠番になったり、あるいは他の路線が1号線を名乗ることになる訳だ。例えば高知県道1号線は、国道494号線に昇格するとともに欠番となっている。
さらに、1号線が欠番となった特異なケースも存在する。沖縄県だ。返還前の沖縄の主要な道路は、軍道・政府道という形で番号が付けられて管理されていた。基本的に、返還時にこれらの道路は県道となり、前の番号が引き継がれた。しかし1号線に関しては、返還時に直接、国道58号線となったために、県道1号線は当初から欠番であり、存在しなかった。欠番理由も県によってさまざまである。

さて、全国の1号線を確認していくうちに、面白いケースがあることが判った。先に述べた通り、県境を跨る県道は、互いの県で番号を合わせることが基本である。通常は二県を結ぶ県道の路線番号を合わせることになるが、三県を跨る「1号線」があるのだ。長野県道1号・愛知県道1号・静岡県道1号は、三県にまたがる1号線となっている。「飯田富山佐久間線」と呼ばれる路線だ。因みに、1号線に拘らなければ、茨城県・埼玉県・群馬県・栃木県の四県に跨る「県道9号線群」がある。このような珍しい事例は、是非とも現地に赴き、全線を走破して県ごとの道路整備状況などを見て回りたいものである。
ところで、国道の世界では、珍国道の例として必ず出てくる国道がいくつかある。文字通り階段区間を含む青森県の「階段国道」や、神戸にある全長187メートルの「日本で最も短い国道」174号線、長崎の「アーケード国道」(早朝五時から午前十時までの5時間以外は自動車が進入できない商店街国道)などである。また、かつては「便所国道」などと呼ばれた珍国道もあったようだ。それならば、県道1号の中にも「珍道」があるのではないかと思うのが自然である。早速調べてみると、珍しい県道1号線があることが判った。
群馬・福島の両県を結ぶ県道1号線だ。県境区間は尾瀬を縦貫するため、当然自動車は進入できない。県境を挟んだ区間は木道しか整備されていないのだ。歩行者専用の木道が県道1号線となっている「木道県道」は、「階段国道」にも劣らぬ珍道であると言えよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?