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静岡SSUボニータとBLUE GALLOPの話

静岡SSUボニータの試合を初めて観たのは2023年3月19日、駒沢陸上競技場で行われたスフィーダ世田谷とのなでしこリーグ開幕戦だった。前日に静岡ダービーがあり、ジュビロが勝ち損ねてモヤモヤとした気分を切り替えたくてふらっと行ってみたのだ。結果は終盤にボニータが追いつき1−1で終了。しかし、試合内容よりも印象的だったのは、スタンドにボニータのサポーターと思しき人が一人もいなかったことだ。いや、実際にはいたのかもしれないが、少なくともスタンドの反対側から認識できるような横断幕やチャントなどは全く記憶にない。一方ホームのスフィーダにはしっかりと組織された応援団がいて、そこにはくっきりと対比が浮かび上がっていた。

磐田を拠点にしている女子チーム。自分のなかでその程度の認識しかなかったこのクラブの名前をよく聞くようになったのは、HOTSTUFFのメンバーであるやまけんがきっかけだった。彼は静岡SSUボニータのサポーターグループとして発足したBLUE GALLOPの発起人であり、代表も務めている。オルカ鴨川との開幕戦を観た人であれば、ゴール裏に陣取るサポーター集団に気がついたはずだ。

リーグ2戦目は横浜FCシーガルズとのアウェイゲーム。ちょうどいいことに、この週末は代表ウィークでジュビロの試合もない。せっかく仲間が面白いことを始めたようだし、暇を持て余した関東組で行ってみることにした。

三ツ沢はあいにくの雨。下手したら2〜3人くらいしかサポーターが来ないのでは…なんて思ったら、開幕戦とさほど遜色ない人数が横浜まで駆けつけていた。「ちょっと賑やかしに行ってやるか」なんて偉そうに考えていたが、そんな必要は全くなかったらしい。単に自分がボニータに関して無関心だっただけで、このクラブを気にかけている人はすでに沢山いるようだ。

テキパキと横断幕を貼り、太鼓やトラメガの準備が進められていく。その姿はどこから見てもれっきとした応援団だった。毎週のように横断幕が出来上がっていく様子はSNSで見ていたけれど、チャントにいたってはオフの間に44曲も仕上げたらしい。「Jクラブの真似事になっちゃいましたが…」とは言うけれど、それにしたってチャント作りはそんなに簡単なものじゃない。仮に今は真似事だとしても、時間を重ねるにつれて応援にもボニータらしい個性が出てくるはずだ。

残念ながら試合は1ー3で敗戦。序盤の2失点がもったいなかったな…なんて話はまあ置いておいて、90分通して応援の声は選手まで届いていたに違いない。ゴール裏を彩る横断幕、コールリーダーと2台の太鼓、挨拶に来た選手たちに「絶対勝とうぜ!」と声をかけるサポーター。どれもフットボールにおける当たり前の光景に思えるけれど、その全てが一年前にはなかったものだ。「ゼロからイチを生み出した」と表現されていた方がいたけれどまさにその通りで、ずっとボニータを観続けてきた人からすれば、今まさにとてつもない変化が起きている最中なのかもしれない。

ちなみに、冒頭のエピソードは決してボニータに限った話ではなく、地域リーグや女子サッカーの試合では声出しサポーターが数人〜1人、もしくは誰もいないというケースは普通にある。それがアウェイゲームなら尚更。当たり前のように大勢が駆けつけるJリーグがむしろ特別なのだ。

試合後、せっかくなので代表のやまけんに話を聞かせてもらった。

「元々は知り合いの方から試合に誘ってもらったのがきっかけです。ボニータには声出しサポーターがいないので、たまに来て盛り上げてくれないか?と。とりあえず旗だけ持って行ってみたら、本当に声を出して応援している人が誰もいなくて…。そんな中でも必死にプレーして、負けて悔し涙を流している選手たちの姿を見て、自分が盛り上げなきゃと思ったんです。」

昨年8月下旬、初めてボニータを観に行ったやまけんはいきなり太鼓とコールリーダーを務めることになった。もう何を言っているのかよく分からないと思うが、とにかく彼はベンチ外の選手たちと共に最後まで応援をやり通し、翌週にはスペランツァ大阪とのアウェイゲームのためJグリーン堺まで遠征していた。
このあたりから仲間内でも「やまけんがなでしこリーグにハマったらしい」と話題になっていた。そうは言ってもあいつはハマり性なところがあるし、しばらくしたら熱も落ち着くだろうと思っていた。しかし、オルカ鴨川とのアウェイゲームに行くと言い出したとき、これまでとは違う彼の本気を感じた。なぜならこの試合はジュビロのホームゲームと日程が被っていたからだ。

「実を言うと、鴨川戦まではまだ決心がついてなかったのが本音です。ジュビロの応援グループに所属しながら、ボニータを本格的に応援してもいいのかって葛藤がずっとあったので…。転機になったのは去年の皇后杯1回戦(vs帝京平成大学)ですね。藤枝総合でやったんですが、このときがボニータとして初めてゴール裏を使っての応援でした。SNSで呼びかけたら、今BLUE GALLOPで一緒に活動している仲間たちが集まってくれて、僕のリードに合わせて必死に闘ってくれました。リーグ戦では選手たちの涙ばかり見ていたので、皇后杯こそ選手とサポーターみんなで笑顔になりたいって想いを込めて臨んだ試合でしたけど、負けてしまい…。悔しさから僕が泣いてしまいまして、周りのサポーターや選手まで泣かせてしまいました(笑)。これが団体を作ろうと決意した試合でしたね。
今季まだ2試合ですが、応援の手応えは感じてます。オフシーズンの宣伝活動が伝わったのか分かりませんが、一緒に応援したいといってくれる方もいますし、今回も横浜FCサポに「静岡のサポ来てるの!?」ってめっちゃ反応されたので、去年までのボニータとは違うってことは少しずつ証明できてるかなって感じてます。」

「なでしこリーグ屈指の応援団になる!というのが夢ですが、みんながボニータのために楽しく熱く応援できて、選手もサポーターも笑顔になれるような雰囲気を作っていきたいなっていうのが今の目標ですね。熱く応援するのも大事ですけど、それでも趣味の延長線なので、ストイックになりすぎず楽しむことも大事にしていきたいと思ってます。磐田だけではなく水戸や沼津のゴール裏も経験して、それを身をもって知ったので。」

こうしてボニータの活動に主軸を置いたやまけんだが、依然として彼はHOTSTUFFの一員であり、ジュビロ磐田への愛になんら変わりはない。コールリーダーとしてボニータを最優先に動いていくけれど、都合がつく限り磐田のゴール裏にも現れるとのことなので、興味がある人はぜひ気軽にスタジアムで声をかけてみてほしい。

パートナーシップが締結された2022年以降、ジュビロとボニータのサポーターを兼任する人も増えたそうだ。今季はユニフォームスポンサーになったりと関係性がより強まってきているので、同じく磐田の街を拠点にするフットボールクラブとして一緒に面白い文化を創っていけたら理想的だと思う。我々もジュビロサポーターという立場から出来ることを考えていこう。

何もないところから応援を作り上げていくというのは並大抵の苦労ではないはずだ。チャントや横断幕といった耳目に入ってくるものだけじゃなく、サポーターの応援スタイルそのものがクラブの文化に影響を与える例は多々ある。やるべきことはまだ山ほどあるだろうし、面倒ごとにもたくさん直面すると思う。それでも、勇気あるアクションによってボニータに新たな歴史が刻まれたことは紛れもない事実だ。

静岡SSUボニータの応援席には必ずBLUE GALLOPがいる。これは小さな世界を変えうる大きな一歩だ。

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X : @BLUEGALLOP01
Instagram : blue_gallop_bonita

Kz Ishii (Instagram: kz_ishii)

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Instagram: @hotstuff_iwt

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