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2024年J1リーグ第2節 vs川崎フロンターレ@等々力陸上競技場

等々力での激闘から数日経ったけれど、正直言って未だに勝った実感が持てないでいる。試合後はサッカーと無関係の知り合いからも「おめでとう」と連絡をもらったし、仕事に行ったら「すごい試合だったね!」といろんな人から声をかけられた。いや、別に俺が勝ったわけじゃないんですけど…。
ここ数日は処理落ち状態の脳みそでゾンビのように出社しては「あの試合は一体なんだったんだ…」と回想しながらデスクでコーヒーを飲むだけの生活をしている。

いろんなことがありすぎて、なにをどう頑張っても当日のリアルな空気をお伝えする自信はないが、このままボーッとしてると仕事をクビになりそうなので、気持ちの整理も兼ねて書き残しておこうと思う。

久しぶりの金Jという響きに改めてJ1を感じつつ、会社のボードに「午後半休」と書き残し武蔵小杉へと向かう。渋谷勤務の身としては近場でありがたい反面、仲間と駄弁りながら移動する車内こそアウェイ遠征の醍醐味だったりするので、半分近くが関東近辺のクラブで構成される今季のJ1は少し物足りない。せめてマリノスが三浦半島の先端あたりまで移転してくれたらいいのにと思う。

待機列に着くと久々に会う仲間もいて、試合前からビール片手に楽しく過ごせた。ルーツや世代は多少違っても、熱を共有できる奴らが周りに沢山いることを改めてありがたく感じる。

平日ながらアウェイ側はほぼ満席。たくさんの人がフラッグを持参したおかげで、ウォームアップから良い雰囲気が作れていたと思う。関東では初披露となった新チャントもだいぶ仕上がってきた。歌詞がおぼつかない人もそれなりにいたはずなので、より浸透していくなかで歌詞とサポーターのテンションがハマればもの凄いポテンシャルが発揮されるはずだ。跳ねるとこはビシッと跳ねて、手拍子するときは頭の上。特にCN69はこれを意識するだけで全然変わる。
そういや太鼓を叩きながら飛び跳ねてたアホもいた気がするが、あいつは特殊な訓練を積んでいるので真似はしないほうがいい。

ウォームアップ中に撮った動画を見返すと、かなり広範囲でサポーターが飛び跳ねており、その奥には数えきれないほどの旗が蠢いている。数年前には想像もできなかった素晴らしい光景なんだけど、逆に磐田らしくなくて少し笑えてくる。磐田の応援つまんねえと言って消えていった奴らにこの景色を見せてやりたい。


ちなみに、以前ロールで購入したテトロンポンジ184mがつい最近売り切れた。自分たちの失敗で無駄にしてしまった分もあるけれど、たくさんの磐田サポーターが「旗を作りたい」と連絡をくれて、みるみるうちにデカい旗が増えていった。この流れを予測してロールで注文していたとしたらtkmはかなりの策士だが、なんとなく違うだろうなという気がする。

2017年を除くと近年良い思い出がないアウェイ川崎、今回も難しい試合を覚悟していたけれど、蓋を開けてみると前半から3点をリードする想定外の展開。まさかのゴールラッシュにサポーターはお祭り騒ぎで、点が入るたびに後ろから人が雪崩れ込んできては最前の太鼓部隊が柵から転落していた(事故です)。
今になって思えば我々は浮かれすぎていたのかもしれない。スタンドの雰囲気がピッチ内にどう影響するのか知る由もないけれど、こちらのミスからエリソンに一点を返され我に帰った。相手は去年の天皇杯王者、そんなに楽なゲームのはずがない。

後半早々に力也がチャンスでシュートをふかしたときにはもう流れが変わっていたのかもしれない。55分にCKをエリソンに頭で合わせられ失点、3-2。撃ち合いの展開になると川崎は強い。案の定、5分ともたずにマルシーニョにぶち込まれ3-3。普通ならセーフティと言える3点リードは驚くほどあっけなく消え去った。

落胆しなかったわけではないけれど、「まだ同点だし大丈夫でしょ」というやけにポジティブな感覚もあって、状況のわりには不思議と冷静だった。選手もかなり苦しかったはずだが、追いつかれてもそれほど浮き足立っているようには感じなかった。「3-3になりそうと思いながらやっていた」という中村駿のメンタリティは誰もが持てるものではないと思うけど、冷静さを保って前向きにプレーできる選手たちの存在がプラスに働いたのかもしれない。そもそも3点も取ったらそこで勝ち切れよって感じもするが、我らがジュビロ磐田は割と昔からそういうクラブだったりする(あれとかこれとか)。

しかし、ここからの展開は未知の領域だった。

失った流れを取り戻そうと、サポーターも気合いを入れ直して戦っていた。 81分、スルーパスに抜け出したジャメが倒されVARでPK獲得。あとからDAZNで見返したが植村のプレーはマジでスーパーだった。
ボールをセットするジャメをゴール裏は肩を組んで見守る。瞬間的に藤枝でパネンカをふかしたラッソの顔がフラッシュバックして呼吸が止まりかけたが、ジャメはしっかりとゴールネットに突き刺した。4-3。

3点差を追いつかれることなんて滅多にないけれど、追いつかれた側がもう一回勝ち越すパターンはもっとない。この時点で磐田の歴史に残るバカ試合であることは確定だ。もう十分だからこのまま終わってくれ。
そんな願いもむなしく、再開直後のプレーで左サイドを突破されPK献上、4-4。感情のアップダウンが激しすぎて気が狂いそうになる。どんな温冷交代浴だよ。整わねえよ。

同点のまま90分を過ぎ、掲示板の時間表示が消える。正直ふくらはぎと喉が限界だったが、周りの頑張りが嫌でも目に入ってくるのでサボるわけにはいかない。それに、この展開で全部出し切れないようじゃウルトラスなんて死んでも名乗れたもんじゃない。
これはもう「天皇杯王者を相手に善戦できてよかったね」で終われるような試合ではなくなっている。一度は勝利を掴みかけたゲーム、ここで勝ちきれなければJ1で上に行くなんて到底叶うはずがない。

そんなとき、自陣深くから上がったロングボールにペイショットが競り勝ち、落とした先にいたのはまたしてもジャメ。混戦から抜け出すとゴール右隅に流し込んだ。5-4、今日二度目の勝ち越し。

ゴール裏では理性と語彙力を完全に失った大人たちが絶叫しながら最前列へと詰めかける。またしても最前列の柵から何人か落ちていたような気がするが、そんなことはもうどうでもいい。このまま勝ちきるしかねえだろ。

と、サポーターのテンションが最高潮に達したところで主審・飯田淳平氏の怪しい動きに気づく。電光掲示板にデカデカと表示される「チェック中」の文字を見て、さっきまでの歓喜は急速に萎んでいった。やばい、取り消される…。

は?PK?


今となってはこれが正しい判定だったと理解できる。しかし、疲労と興奮でバグってしまっている筆者の頭にこのカオスな状況を理解するキャパシティは残っていない。怒るでも悲しむでもなく、完全にフリーズして天を仰いだ。
しばらくして周囲から歓声が上がり、ジャメがこの日2本目のPKを沈めたと気づいた。さっき喜び尽くしてしまったので特にリアクションも取れず、まるで偶然この場に居合わせた人みたいなテンションで「入ったの?」と周囲の仲間に訊いて回った。木村くんの「大丈夫かこいつ」という表情だけは覚えている。

残り時間がどれだけあるのか誰にもわからない状況で、サポーターも最後まで一心不乱に戦い続けた。その後も危ないシーンが何度かあったらしいがなにも覚えていない。そしてタイムアップの笛。喜びよりも先に安堵と疲労で膝から崩れ落ちた。

人生でこれほどアディショナルタイムを長く感じたことはない。ていうか実際に17分あったらしいので、感覚どうこうではなくマジで自己最長記録である。ペイショットがチョン・ソンリョンを巴投げしなくてよかった。

この日もっとも印象的だったのは、最終盤に大したことのないファールでチャントが止まったときに仲間が叫んだ「戦えよ!」の声だった。
自分の知る限り、彼はめったに声を荒げるようなタイプの人間じゃない。勝つか負けるかの瀬戸際でせっかく高まってきた応援のムードを、さほど重要じゃないワンプレーのために切ってしまう勿体無さを彼はよく知っているのだろう。
納得のいかない判定があると反射的にレフェリーへの批判に向いてしまいがちだけど、俺たちは審判と戦っているわけではないし、それ以上にサポーターが試合の流れを引き込むような応援を作っていけたらベストじゃないかなと思う。

試合後に歌った「勝利は続くよ」は去年と全く違って聞こえた。俺たちの頭上にあったカテゴリーという名の見えない天井は消え去り、Jリーグのカンピオーネを獲る権利はちゃんとこの手の中にある。それは今年ではないのかもしれないけれど、かといって絶対にあり得ない話でもない。フットボールというカオスのなかではなんだって起こりうる。そんなことを思わせる夜だった。

Kz Ishii (Instagram: kz_ishii)

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