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孤高のカリスマは、孤独ではない。九条ジョー単独ライブ「出戸・理・玲零」

出戸=Dead
理=Re
玲零=Rain Ray

2023年1月31日を以て解散したお笑いコンビ「コウテイ」。
真冬の最中の出来事であったが、春を超えて初夏の今となっては遥か遠い昔のことのようにも思える。それほど、袂を分かった二人の道のりは対照的であった。

下田真生君は「シモタ」と改名し、息つく暇なくピン芸人として「R-1ぐらんぷり」の準決勝に例年通りコマを進めた。惜しくも決勝進出とはならなかったものの、巨大クリスタルを巡り仲違いの末に仲間を抹殺してしまうトレジャーハンターのネタは、いかにもシモタ君らしい。
彼の快進撃は留まらず、よしもと漫才劇場復帰のプロセスである「UP TO YOU!」「サバイバルステージ」を勝ち上がり、4月の天王山「グランドバトル」に於いて総合4位となった。総合10位以内が条件となる「マンゲキメンバー」へ最短で復帰したことは記憶に新しい。

一方、九条ジョー君は、解散発表のタイミングでは体調不良による活動休止が続いていた。しかし、2月に入り電撃復帰を発表。盟友であるそいつどいつ・松本竹馬氏と、よしもと有楽町劇場の支配人「X」氏の支援もあり2023年2月18日、ピン芸人としてのキャリアをスタートさせる。

駆け込みでチケットを入手し、復帰後の最初の公演を見ることが叶った。
釣竿を手に現れた青年の名は「ビッグフィッシング太郎」。フリップに書かれた大喜利のようなボケを九条君が釣り上げるという一人コントだ。よりシンプルに、だが客席を詰めるような独特の間合いはまさに復帰前の九条君が蘇ったようであった。その後のトークコーナーでも彼はネタを考える大変さや、釣竿を買いに行った時のエピソードを嬉々として語っていた。
その後、恋愛バラエティに立て続けに出演したり、ドラマ「だが、情熱はある」に出演したり、これまでは避けていたYouTube出演を解禁したりと、彼は幅広い方向へ舵を切ってゆく。物理的に差し込まれる有楽町の舞台と比例するかの如く、勢いを取り戻していったように見えた。

そして迎えた2023年6月4日。先んじて大阪でも行われていた九条ジョー名義での初単独「出戸・理・玲零」が開催された。

九条ジョー単独ライブ「出戸・理・玲零」ポスター

明転後、そこにあるのは誰かの部屋。
ベッドで眠っている青年は、もう一人の誰かに怒りをぶつけ、消耗し、絶望している。この既視感は、彼が休養中に発表したnote「ロスト・Re・マインド」の世界の一部であるということに気づくのにそう時間はかからなかった。

そんな一人芝居から入った単独ライブは、漫談あり、コントあり、幕間の独創的なVTRありの、現時点での九条ワールドを余すことなくアウトプットしていた。とあるコントの中でEDMに乗せ自己紹介しながら踊り狂うさまは、コウテイを賞賛する際によく使われていた「華がある」という表現がまさにぴったりである。

つくづく九条ジョーというのは不思議な青年だ。長身で清潔感があり、モデルや俳優業で垣間見るスラリとした風貌は上記のとおり華やかだ。だが、それとは裏腹に、コントや漫才、文章や絵画などの表現で醸す個性はとても繊細かつ強烈で、見る者を選ぶのもまた確かである。要するに彼は「カリスマ」なのだ。ひとたび彼の資質に惚れ、虜になれば決して離れることができない「教祖」のような存在と定義づければ合点がいく。
過日行われた芸人兼占い師のますかた一真氏による鑑定イベントによると、九条君のホロスコープは彼の生まれ星座である山羊座にほとんどの惑星が集合している、極めて珍しい運命の持ち主であるという。また、彼を孤独たらしめているのは、水瓶座に僅かに触れた隠された内面を表す「月」の存在だとも。

しかし、彼は本当に「孤独」なのだろうか。確かに、コンビは解散しピンとなり、配偶者やパートナーの存在はないという。だが、なにか憑き物のようなものが取れた軽やかさを纏い、再び輝きを放つその姿は「孤高」ではあれど「孤独」ではないのではないだろうか。それは、単独ライブに合わせるようなかたちで発売された雑誌「お笑い2023」のインタビューでも垣間見ることができる。

竹書房:お笑い2023 SPRING

記事内で彼は、解散にあたり先輩後輩問わず数多の芸人から激励を受けたことを明かしている。それは彼が辿った10年間の道程がまさに「肯定」されたと言っても過言ではない。そして「家族」と称される有料ファンクラブ「ボクノ終脳室」の会員の存在にも言及していた。
ピンとなり、彼は強く「ボクたち」を意識した発言を行うようになった。それは、それまでは頑なに他者が入り込む隙を与えなかったように思えた彼の内側に、温かな息吹が入り込むことを受け容れたことを意味するのではないか。「応援」というシンプルかつ最強な後ろ盾を得て、芸はより研ぎ澄まされ、だが表情はより穏やかに、様々なジャンルをシームレスに飛び越えて新たなステージに立つ九条君はまさに「越境の表現者」だ。6月より始まったラジオ番組で、嬉々としてその言葉を語る彼にもう迷いはない。

単独ライブの最後は、再び例の部屋。
一度死んだかに思われた肉体と精神は、再び、雨雲から差し込まれる一筋の光により融合し、ひとつのアイデンティティとなる。お笑いのライブなのに、温かな涙がとめどなく溢れた。大切なことに気づいた君は、もう「孤独」ではない。

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