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初恋 自分を愛すれば愛するほど、あなたは幸運になる。

恋のきっかけと言うモノはどこにあるのだろうか。
たぶん偶然な出来事が何かを気づかせてくれた時、
恋という心の動きが始まるような気がする。
 
小学校5年生の浩太が通っていた学校は
人口急増地帯の団地の真ん中にあった。
新設校で、建設工事が間に合わないので
カンカンという騒音に耐えながら
浩太たちは新学期からプレハブの校舎で勉強していた。
夏休みが終わって登校すると
カンカンという音も小さくなり、
オレンジ色のシートがはずされ
真新しい鉄筋コンクリートの校舎や体育館が立っていた。
ある日、校舎より一足早くできた
消毒用のカルキの臭いが鼻にツーンと来る
プールに浩太たちは入った。
へとへとになるまで泳いで遊んで
水泳の時間が終わりシャワーを浴びて教室に戻った。
その時は、何とも思わなかったが、
男の子も女の子も同じ教室の中で着替えていた。
たぶん、更衣室に当てる教室もない状況だったのだ。
男の子は腰にタオルを巻いて、女の子は
胸から下にバスタオルを巻いていた。
時々、ハプニングがあった
「キャー」
という喚声があがると、誰かのバスタオルが落ちたのだ。
いたずら好きの男の子たちは
タオルの引っ張り合いをしている。
あるモノがそこにあるのだけなのだが
発育の違いに戸惑っている年頃でもあり、
見せたくないやら恥ずかしいやらである。
 
その中で浩太も腰にタオルを巻いて着替えていた。
何気なく前を見ると、良子という女の子が机一つ前で
着替えていた。
良子は浩太から見て横向きになっていた。
良子はバスタオルを前に当てて着替えていたので
横にいる浩太には良子の少し膨らみかけた胸が見えたのである。
浩太は、すぐに目をそらしたので
たぶん、ほんの数秒だったろう。
次の授業が始まり、給食の時間があったりして
そんな出来事は、すぐに忘れてしまった。
しかし、パンチはボディブローのように少しずつ効いてくる。
 
その数日後から、浩太は良子の顔を見ると
頬が熱くなり真っ赤になるようになった。
いままで、気軽に話していたのが、
うつむきかげんでしか話せなくなってしまった。
こんな気持ちは初めてなので
浩太自身も、よく分からない。
良子は、はっきり話さなくなった浩太に嫌われてしまった
と誤解しただろう
「浩太君なんか大嫌い」
と怒ってしまった。
浩太の良子を見て赤くなる様子に気づいたクラスメートが
「浩太、良子に惚れとるぞ」
と触れ回った。
それを聞いた良子は、ノーノーと手を振り
「私、浩太君なんて絶対の絶対に・・嫌いやからね」
と大声で怒ったように言った。
浩太は自分の気持ちをどう解釈していいのか
分からなかったので
「嫌いなんか・・」
と別段ガッカリするでもなかった。
 
その翌日から浩太は良子を見ても
頬が熱くなることも赤くなることもなくなった。
嫌われてるんだから・・・が安心材料になったのかもしれない。
しかし、妙なことに良子は別人のように優しくなった。
忘れ物の多い浩太に教科書を見せてくれたり、
給食の時、浩太の好きな物をそっと分けてくれたし、
休み時間に泥んこになって走り回っている浩太を
少し離れたところから
まるでカワイイ我が子を見守る母のような眼差しで見つめていた。
そして、忘れられないのは良子が「浩太くん」と声をかける時に
小声で、少しはにかむように微笑む仕草だった。

自分自身を愛しなさい。
あなたが自分を愛すれば愛するほど、あなたは幸運になる。なぜなら、あなたの中に神様がいるから。

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