どんな難問も簡単に見せる伝説の高校数学教師
秋の虫が鳴く頃になると思い出す先生がいます。
いつもニコニコしながら、どんな難問も簡単に解いてしまう
高校数学教師の通称コオロギ先生の顔は
よーく見ると秋の虫、コオロギに似ている。
色黒で、ギョロッとした大きな目に銀縁めがねの
不思議な先生だ。時々、ふと授業を止めて
「あんたら、考え違いしたらあかんで
微分積分ができたって、
社会に出て役立つこともあらへんし
人格が優れてるわけない。
九九ができたら十分や。
そやろ、うどん作るのに微分がいるか?
小麦粉の重さ100グラムに対する
微分方程式を解けとはいわんよなあ」
授業中、問題が解けない生徒がいると
「あんた、こんなモンできゃへんの?」
とぼけたように言うと
スラスラと計算式と答えをホワイトボードに書いてしまい
「ほら、できた・・・簡単でしょ?
これ、去年の東大の問題。これで、わたし合格・・・
パチパチパチ・・・ほめてくれる?」
とニッコリ笑う。
証明問題で大阪弁の
「そやさかい・・・・・・」
は
「ゆえに」
の意味だった。
とにかく面白いので、数学嫌いの女子生徒も
コオロギ先生の授業は楽しそうに聞いていた。
卒業後、先生と碁のライバルになった吾郎に
コオロギ先生は一度だけ真面目な顔で
「わしはな、努力の「ド」の字も授業中言うたことはないんよ。
なんでやと思う?
わしらの仕事は、数学好きやって言うてもらうことやと
思ってるからや・・・」
どんな難問も簡単に解いてしまうコオロギ先生は
いつも一冊の本を持ち歩いていた。
電話帳ぐらいの分厚い本だ。
「全国大学入試問題全解(数学)」
日本中の大学入試の数学問題が掲載されてある本だ。
全国に何百あるか分からない大学の数学問題を
教師になってから30年間すべて解き続けた。
「それくらいやらんと・・簡単には見せられへんよ」
コオロギ先生は人なつっこく笑った。
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