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マリリンモンローに似ていたお手伝いさん

マリリンモンローという女優を知っている人は、
もう少ないだろう。しかし、ハリウッドに行けば
彼女の名前を知らぬ者はいない。いつも少し
小バカなかわいい、そしてセクシーな女性を演じ続けた
古き良き時代の名女優である。
ター坊には、そんなマリリンモンローを見ると思い出す女性がいる。
 
ター坊の家は決して豊かではなかったがお手伝いさんを
1度だけ雇った事がある。ター坊のお母さんが妹を産むために
実家に帰っていた時である。房江さんは、年齢で言えば、30歳
前後のポッチャリとした美人である。
房江さんは、いつもニコニコしているのは良いのだが、
「仕事は遅い」
「話はゆっくり」
「おまけに、トイレは長い」
とお婆ちゃんに不評を買い、あえなく1週間でクビを言い渡される
ことになった。彼女が仕事ができたか?できなかった?かは
当時3歳のター坊には良く分からなかったが、ター坊にとっては
とっても感じの良いおばちゃんだった。たぶん、3歳の子供と
サイクルが合うのだから、大人から見れば、まして実力派主婦の
お婆ちゃんから見れば、頼りない女なのであろう。
そんな房江さんが暇な時間に少しだけ、ター坊に話した身の上話がある。
3歳の男の子なら、どうせ分からないと思って
「ボッチャンは、いいなあ。
やさしいお母さんと働き者のお父さんとお婆ちゃんに囲まれて。
私は10歳の時から、この仕事について、あっちこっち飛ばされたんよ。
お父さんは博打好きで働かん人やったから、たぶん、口減らしやったんや。
おかげで、この年になっても一人ぼっちやわ」
そう言いながら、房江さんはエプロンの端で目頭を押さえた。
 
ター坊の手を引いたお父さんは、
クビになって帰って行く彼女を近所の菓子屋さんの前まで送って行った。
お父さんは
「悪く思わんどいてな。達者でな」
と言いながら、
ビスケットや”芋かりんとう”そしてチョコレート
など房江さんの好きな甘い菓子を山ほど持たせた。
房江さんは大きな袋一杯の菓子を受け取ると
「こんなにたくさん。ありがとうございます」
と言って深々と頭を下げた。
そして、少し歩いて、また振り返ると
また頭を下げて少しずつ小さくなって行った。
しばらくお父さんと歩いたター坊は、
「あの・・・おばちゃん・・・どこ行くの?」
すると、お父さんは
「たぶん、どこかの家にお手伝いに行くんやろなあ。
次が決まるまで、うちに置いてあげたら良かったなあ」
「そんなら、呼んで来るわ」
そう言うとター坊は、来た道を必死に駆けた。
でも、走っても走っても房江さんの姿は見えなかった。
呆然と立ちすくむター坊の肩を後からゆっくり歩いて来た
お父さんが軽く叩いた。ター坊は
「おらへんねん」
と言うとエーンエーンと泣き出した。
お父さんは、ター坊の肩を抱きながら
「しゃーない。しゃーないんや」
と呻(うめ)くように言った。
 

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