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お守り 恋の悩みは、初恋の時の気持ちを思い出せば超えられる。

英子には、宝物がある。
一本の古いシャープペンシルだ。
たぶん、コンビニや文房具屋さんに行けば
100円か150円で買える安物だろう。
「これはね、私のお守りなの」
来春短大を卒業する英子のペンケースには
その古いシャープペンシルがいつも入っている。
中学1年生の時だった。今でも、そうだけれど
単純な性格は生まれつきなのだろうか。
人の冗談を真に受けて、すぐに興奮して
泣いてしまう英子は、いつも
ヤンチャな男の子にからかわれていた。
「おまえ、口紅つけてるのか」
「リップ塗ってるだけ」
「ほんまか、口紅塗ったら不良やぞ」
なんて言われるだけで、当時の英子は涙ぐんでいた。
ある日、たしか社会の時間だったと思う。
「先生が自習しているように」
と言って、ちょっと出ている間に
また例の男の子に
「おまえ、自分のこと、かわいいと思うか」
と冗談ぽく言われた。
答えに困った英子が
「あんたらが、ブスやブスやって言うから
ブスやと思ってる」
と答えると、その男の子が
ハッハッハハ・・・と手を叩いて笑った。
いつものようにウリウリと泣きたくなった英子だった。
そんな英子に
「そうかなあ?・・・良い方やと思うけど」
と何気なく声をかけてくれたのが良徳だった。
その日から、英子は良徳が好きになった。
初恋だった。
教室で授業を聞く彼。
休み時間に友達と話す彼。
放課後、グランドを走る彼。
そんな一コマ一コマが、
写真のように頭に焼き付いて離れなかった。
そんな英子の気持ちを知った親友の美由紀が
良徳に聞いてくれた
「好きな人はいるの?」
良徳の口から出た名前は、英子ではなかった。
そのことを聞いたショックで英子はボーっと
していたのだろう。翌日はテストなのにペンケースを
忘れてしまった。
となりの席の女の子に借りようとした英子に
「おい、昨日はありがとう。これ、お礼や」
と言いながら手渡してくれたのが
このシャープペンシルだった。
それから何度か恋もして、失恋もしたけれど
落ち込んだ時いつも、この古いシャープペンシルは
「良い方やと思うけど・・」
と囁いて元気づけてくれる。
そんな英子だけのお守りなのである。
 

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