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えくぼが自慢の可愛い女の子=人工知能による恋のキーワード

笑うと頬にできる可愛いえくぼが自慢の
証券会社の受付嬢真理子は人生の岐路に立たされていた。
学生時代から付き合っている同級生で
本屋の息子の智也は気の良い男なのだが、
この男と結ばれるために自分が生まれて来たと考えると無念さが募る。
「もっと、私にふさわしい人がいるかも・・・」
こんなわけで、真理子は某大手結婚相談所のカウンセラーを
訪ねた。カウンセラーは、アルマー二のメガネの奥にニッコリと
笑みをたたえて、高級な毛皮をなでるように囁いた
「アーラ、真理子さんにピッタリ候補は全国に10万人は
登録されておりますわ」
「えー、10万人も」
「そうよ。10万人くらいいるのよ。その中で電車で2時間
くらいの距離に住んでいる人と真理子さんの身長・体重・学歴・
好みの色・好みの俳優・好みの音楽ジャンル・禁煙喫煙・そして、
趣味・好きなスポーツなどをインプットして、
選ばれた男性を超ピッタリさんと私たちは呼んでるの。
そんな男性が1000人ほどいるのよ」
「へえー、1000人も」
「正確に言えば1018人。この中から、あなたにピッタリの人が
見つかるまで、ひと月に3人ずつ、ご紹介します。運良く1人目で
見つかる人もいれば、運悪く189人目で見つかった人もいましたわ」
「189人ということは最悪でも5年と3ヶ月後には見つかるんですね」
「そう、真理子さんが、今23歳ですから28歳までには・・・オホホホ・・」
というわけで、真理子は、この会に入会した。
 
真理子はラッキーだった。
最初に紹介してもらった富塚という男性がベリーグッドだった。
3高で、大手のトリプルAの外資系生保に勤めている男性で
顔はソース顔だった。ベタベタのたまり”しょうゆ”の智也とは
大違いだ。富塚も例によって真理子の頬に笑うとできる可愛いえくぼを
気に入ってくれた。
トントン拍子に事は進んで、三回目のデートでは
結婚を前提に!!の言葉が富塚の口から出たのだ。
真理子も大乗り気だった。
 
こうなっては、智也との仲を成算しなくてはならない。
真理子は店番をしている智也を訪ねた
「あのー、ここでは話辛いんだけど」
「おやじがゴルフで帰って来ないんだ。今日は・・・」
「お母さんは?」
「婦人会・・・ごめんな」
数人の立ち読み客をチラチラ見ながら、奥のレジ横での別れ話になった。
「長い間ありがとう・・・」
智也は、真理子の顔を見て、すぐに話に応じた。
 
実は、最近の真理子の様子が変だと思いつつ何にもできずにいた智也は
先日の金曜日に、小学校に教材を納品するライトバンのウインドウから
真理子と富塚の仲むつまじい姿を見かけていたのだった。
見れば、自分とは正反対のモデルなみのルックスで優しそうな男性だった。
胴長短足で街角のしがない本屋の息子の自分とは大違いだ。
「大手証券会社の受付嬢の真理子には、彼の方がふさわしいかも・・・」
と智也は身を引く覚悟を決めていたのだった。
 
智也には悪いが身が軽くなった真理子は富塚とのデートに
いそいそと出かけた。しかし、
「結婚?ちょっと待ってくれよ。まだ、俺たち、もっと
ふさわしいパートナーと出会うチャンスもあるんだよ」
意気揚々と結婚話を持ちかけた真理子に
富塚はあっさりと冷水をぶっかけた。
たしかに相談所の会期は、まだまだ残っている。
お互いに気まずくなったのか、この日から、富塚と会うことはなくなった。
 
一方、智也は真理子との別れを聞いた両親の勧めもあり、
某大手結婚相談所のカウンセラーと会っていた。
一流銀行を昨年定年退職したという温厚な紳士は
「智也さんにふさわしい男性なら、10万人もいますよ・・・」
と、おそらくマニュアル化されている話を始めた。
ここに来る前から腹を決めていた傷心の智也は、カウンセラーの
話など上の空で、あっさり入会を決めた。
 
さて、長年の恋人と別れて傷も癒えない
智也に最初に紹介されたのは、
同じ歳で、えくぼが自慢の可愛い女の子だった。

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