見出し画像

キスにも予行演習が必要なんだ

「1年も付き合っているのに晃司ったら、まだキスもしてくれないのよ」
そんな悩みごとを同僚にうち明けている小百合は日本語教師だ。
10才までの低学年帰国子女を相手に日本語を教えている。
そんな小百合は、いつものように自己紹介の練習を一人ずつさせていた。
他の生徒が、それなりに答えたのに、一人だけ全く答えられない男の子がいた。
「どうしたの?」
と、小百合が近づくとその男の子は、突然小百合にキスをした。
あまりにも突然のことで、小百合は頬を真っ赤に染めて放心状態になった。
その男の子は、何と話したら良いか分からないので、衝動的にキスしたのだ。
キスを挨拶のように使う国で育った子だからかもしれない。
その夜、小百合は、いつものように晃司に会った。
どういうわけか。晃司はすんなりと小百合にキスをしてくれた。
「どうして?」
と小百合が訊くと、晃司は、
「なんとなく、やりやすかった」
と答えた。
小百合は、キスにも予行演習が必要なんだと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?