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お母さんの好きな人

聡子は、結婚10年平凡な主婦である。
長男の小学校3年の明と長女の4歳の静の
二人の子宝にも恵まれ、夫の潤も真面目な
銀行員で何自由のない幸せな生活を送っている。
ある日曜日、家族4人で電車で二駅の所にある
海水浴場にでかけた。電車の吊り広告を
指さし静が幼い口調で声をあげる
「お父さん、お母さんねえ、あの人好きなんだって」
潤は吊り広告に目をやる、どうやらアメリカ映画の広告だ
「ああ、あれね、お母さんがいくら思っても・・・」
このごろ口が達者になった明が続ける
「お母さんは、おばさんなんだから、お父さん心配してないね」
潤は聡子の不愉快そうな表情を気にしながら
「う・・うん」と明に答えた。
吊り広告はキアヌ・リーブス主演の映画だった。
怒った表情で夫の目をゴマかしながら聡子は静の言葉に
少し冷や汗をかいていた。
というのも、聡子が夕方の3時間だけパートをしている
コンビニの店長が少しキアヌ様に似ているのである。
背は高くはないが、細面で涼しい目は、うっとりするほどの
好青年である。静は何度か、店長に会っている。
数週間前、聡子が財布をうっかり更衣ロッカーに忘れて、
静の手を引いて店に取りに行ったことがある
聡子「すみません」
店長ニッコリ「忘れ物ですか」 
聡子少し頬を赤くして「ええ、お財布」
静「お母さん、あのオッチャン、カッコイイね。テレビ出てた人?」
聡子「お兄ちゃんでしょう・・すみません。まだ4歳なもので・・」
店長「いやあ、こんなに可愛い娘さんがいらしたんですか
まだ、新婚かと・・」
聡子「からかわないでください。いええ、まだ、上に10歳になる子も
いますのに」
そんな聡子の家では絶対に見せない表情を静は、じっと見ていた。
その後、店長は
「店長会議があって出ますので途中まで送って行きましょう」
聡子と静を家の近くまで車で送ってくれた。
これがきっかけになったのか、聡子は静を連れて店長と
何度か食事をいっしょしている。
「いつも親子でごちそうになってすみません」
「いええ、僕は子供好きですから」
子供好きに悪い人はいない、働き者だし・・・
聡子は、いつしか彼に夢中になっていた。
ある夜、仕事から帰ってきた潤は血相を変えて聡子に怒鳴った
「おまえ、あのコンビニのパートやめろ」
「ええ、どうして」
「自分で分からないのか。おまえも女の子の母親だろう」
気が動転して聡子は何と答えたら良いか分からなかった。
「いいから、やめろ」
そう吐き捨てるように言うと駅で買ってきたのだろう、
くしゃくしゃになった夕刊紙を聡子に投げつけた。
夕刊紙には店長の顔が載っていた
ロリコン写真をネットで不法売買、コンビニ店長逮捕
素敵な彼の目当ては聡子ではなかった。
そして、たしかに彼は子供好きだった。
 

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