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モーニングおじさん 君はベストを尽くしてるかね?

懐かしいモーニング娘のお父さんではありません。
大手結婚式場Hの駐車場案内係を
かれこれ40年もやっている宮田善蔵さんは
実は専務取締役です。                    
この善蔵さんは、雨が降ろうと風が吹こうと
結婚式が行われる日は必ず駐車場の案内係を
やります。しかもモーニング(礼服)をバッチリ決めて
お客様の誘導のためアッチコッチしているのです。
そこで、誰が名付けたか”モーニングおじさん”
こんな善蔵さんは、先代の社長さんといっしょに
この会社を大きくしてきた一人です。
今の社長さんが赤ちゃんの頃、おむつを取り替えたことも
あったそうで、社長さんも頭が上がりません。
 
ある日、善蔵さん、少し力んだ顔で社長室に
やってきました
「坊ちゃん、私、会社を辞めさせて頂きます」
驚いた社長、
「爺、どうしたんだ急に」
「リストラって言う物が気に入りません」
「役に立たない者を辞めさせて、どこが悪い」
「役に立たないと言っても、坊ちゃん、
辞めさせる社員といっしょに働いたことが
一度でもあるんですか」
「だから、部長や課長たちに聞いて、資料も出させて」
「あああ、甘い甘い・・・先代がお聞きになられたら
お嘆きになられます」
「じゃ、どうしろと」
「部長や課長と言われても、彼らもサラリーマンでは
ありませんか?経営者ではありません。
彼らに会社全体を見回しての判断できるはずがありません。
先代なら、こうされたでしょう。
評判の悪い社員を呼んで、君はベストを尽くしてるかね?
と聞くのです。即座に、はい、と答えられる社員を
批判する部長や課長がいたら、ひょっとしたら
部長や課長の方に問題があるかもしれないとも考えられます。
どちらにしても、資料だけで、社員の首を切るような
社長さんといっしょに仕事をしたくありません。
長い間ありがとうございました」
社長の机の上には、几帳面な善蔵さんらしく
毛筆で書かれた退職届が置かれていました。
社長は、しばらく考えて
「たいしたもんだ。爺。オヤジに怒られた気がする」
と呟きました。
 
結婚式場の駐車場の名物だったモーニングおじさんは、
いなくなりました。しかし、それからしばらくして
少し若いモーニングおじさんが駐車場で
「いらっしゃいませ」
「おめでとうございます」
と、明るく元気な声でお客様を出迎えるようになりました。
 

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