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あの世のデータベース あなたの人生はすべて記録されている

飲み過ぎが祟って、昨日死んだばかりのMが
気が付いたのは、あの世の入口だった。
入口には、帽子を被った身体の細い目の大きい男が
待っていた。そう、ムーミンに出てくるスナフキンの
ようなヤツだ。彼は自分のことを水先案内人と自己紹介した。
「さあ、行きましょう」
水先案内人は、モクモクとMをともなって歩きだした。
途中、JRのキオスクのような売店があったので
Mは飲み物でも買おうとした。
でも、Mは自分が一文無しなのに気づいた。
「あのー、金貸してくれないかな」
Mは水先案内人に頼んだ。
「君の印税で支払われるから安心してもいいよ」
「ええ、俺の印税だって」
「そう、そこを見てごらんなさい」
Mが新刊本の並べてある棚を見ると、
「うそだろ」
Mが驚くのも無理はない。
”ある飲んべえの一生”という題名の本が
何冊か並んでるではないか。中身は、
まさしくMの人生である。
「君の人生は、ありふれているから、
ベストセラーにはならないだろうが、一応、寿命を全うしたのだから、
あの世で当分暮らすくらいの経費はあるでしょうね」
「でも、俺、こんな本書いた覚えないけど」
「あの世には、自動自伝作成システムがあるから、
下界で死ぬとすぐに発行され、原稿データはデータベースに保存される」
「過去のすべての人間のを?」
「そうだな」
「じゃあ聞くけど、一番最初の人間は誰だったんだ?
その人の自伝を読んでみたいんだ」
「一番最初?一番最初の人間は、とくにいないね」
「いない?」
「そう、ある日突然、世界中の何十万人が人生を持つように
なったんだから。それまでは、人生なんかない。
ただ食べて寝て起きて、やがて死ぬだけの生き物だった」
「どうして、何十万人が一度に変わったんだ」
「それは、宇宙ではよくあることだ。おいおい説明する」
「難しそうだな…ところで、さっきの印税少ないヤツはどうなるんだ?」
「つまり、人生に内容のないケースだな。そう言う場合は、
印税収入がなくなりしだい、もう一度、下界でやりなおしてもらう」
「生まれ変わりか…ところで、俺の印税は、どれくらいなんだ」
そう言った途端、Mは下界に落ちて行った。
そして、下界で新しい生命として生まれ変わった。
水先案内人は、Mを見下ろしながら言った、
「もう少し、売れるかと思ったんだがなあ…」

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