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夫婦間に倦怠期を感じたら、たまには別居してみると良い。1週間2週間ならいいけれど、1ヵ月もいないとなると少し寂しくなってくる。新婚時代を思い出してくる。

「亭主元気で留守がいい」
昔のテレビコマーシャルじゃないけれど
銀行員の妻景子は、そう思っていた。
近所の気の合う奥様たちと
楽しくおしゃべりしていても
亭主が帰ってくる時間になると
潮が引くように皆帰ってしまう。
「つまんないなあ」
と一人娘の小学5年歩美に漏らしたこともあった。
結婚して10年あまり、
「倦怠期なんか、とうの昔に過ぎて氷河期よ」
かと言って、専業主婦で食べさせてくれる
素敵な男が見つかるわけもない景子だった。
 
そんな景子の亭主の満男が
単身赴任することになった。
「バンザーイ」
大喜びの景子である。
「いっしょに来て欲しい」
という満男の頼みを歩美と二人で
リコールした。
亭主は一人寂しく段ボール箱に荷物を
詰め込み、北海道の北見という街に
行ってしまった。
少し後ろ姿は寂しそうだったけれど
「自由」
とは素晴らしいものだと景子は思った。
 
最初の1週間は、たしかに楽しかった。
近所の暇を持て余している奥様連を
集めて毎晩10時までドンチャン騒ぎを
やった。最近、少し色気づいてきた歩美も
「お風呂上がりが気楽なのね」
と下着一枚で歩き回っていた。
 
しかし、それが10日過ぎ20日過ぎ、
毎日あったはずの満男からの電話も
なくなると、ふと寂しさがよぎる景子だった。
「なーに言ってるの」
と笑っていた歩美も
「日曜日もいないとなると・・・」
と少し寂しくなってきたようだ。
 
「お父さんに会いに行こうよ」
景子と歩美は飛行機に乗って
北見に向かった。着いた空港は
女満別(めまんべつ)空港、
原野のど真ん中の小さな空港だ。
ここは、かつて健さんの映画の舞台に
なった網走刑務所の近くのはずだ。
「よー、久しぶり」
満男は元気に出迎えてくれた。
・・・少しやせたかな・・・
久しぶりに満男の姿を見た景子は
ふと思った。
 
満男の運転する車に乗って30分、
満男の住むワンルームマンションに
着いた。「男やもめにウジがわく」
とどうしようもなく散らかっている部屋を
想像した景子と歩美だったが、
部屋は意外なほどキレイだった。
「ほとんど外食だからな、
散らかるわけもない。
居酒屋でも行こうか。
北海道の魚は美味いぞ」
満男は、サバサバした笑顔で言った。
「やった、行こう行こう」
と楽しそうにはしゃぐ歩美をよそに
「何にもない部屋ね」
と呟き景子が見回した部屋の隅に
たった一つの出窓があった。
その窓際に白いパンツが一枚干してあった。
・・・ああ・・・そうだった・・・
新婚の時は、あのパンツを洗うたびに
幸せを感じたんだわ・・・
そう思うと
「いつ、戻ってこれるの?」
ホロリと言てしまう景子だった。
 

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