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急成長企業の社長の彼は変わり者で有名だ。「一円玉を拾った日は、何かいいことがありそうな気がするんや」今でも彼は街頭で1円玉を見つけると恥も外聞もなく拾う。

変わった入社試験をやる会社があった。
創業10年、最近では、時々経済新聞などで
話題をさらっている会社である。
この会社は最終選考を社長のY自らが行う。
Yは、最終選考に残った学生を一人ずつ連れて
繁華街や駅前を一緒に歩く。時々、レストランに
入ったり喫茶店に入ったりしながら、Yは突然足を
止める、そして、ぽつり、
「そこに1円落ちてるわ・・」
それだけ言って、すぐに歩き始める。
この時の反応で、その学生の採用不採用を決めるそうだ。
この間、だいたい30分・・・
 
Yが創業した当時である。
会社の口座から、月末に100万円ほど落ちる月だった。
当時のYは、その月その月を越えるだけで精一杯の状態だった。
引き落としの前日、夜中まで駆けずり回って
Yは99万円用意した。貯金箱に入っている小銭から、
タンスの隅に転がっている1円玉を
かき集めて9999円である。どうしても1円足らなかった。
 
翌朝、頼れそうな人へ電話をかけても、電話にも出てくれない。
家に行っても居留守を使われる。どこもかしこも、
この1年あまり、毎月月末になれば金策にやってくるYに、
ほとほと愛想が尽きていたのである。
「たった1円なのに・・・」
たった1円でも足らないのは確かである。
1円でも足らなければ、銀行では不渡りである。
会社としての信用はなくなる。
Yは、途方に暮れて胸ポケットに99万9999円を入れたまま
フラフラとさまよった。
「もう、終わりや・・」
どこをどう歩いたのだろう。
朝の人通りの多いキップ売場の横を通りかかった。
その時、YはOL風の若い女性の足下の光るものを見つけた。
1円玉だった。
Yは、這い蹲るようにして、その女性の足下に飛びついた。
まるで、カエルが飛ぶように。もちろん、女性はビックリして
悲鳴をあげる
「キャー」
あたりの人々の視線は、這い蹲るYに注がれる。
「すみません、お金を落としたんで・・・」
まるで、乞食のようだなとYは自分自身を思った。
 
その日から、1円玉はYの守り神になった。
「1円玉を拾った日は、何かいいことがありそうな気がするんや」
今でもYは街頭で1円玉を見つけると恥も外聞もなく拾う。
急いでいるときでも、10メートル戻ってでも拾う。そして、これから某大物政治家と会食らしくオーダーメイドの高級ブランドのスーツ、これまたオーダーメイドのカッターシャツを着たYは何とかとか言う、これもブランド物の財布に1円玉を忍ばせる。

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