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いろいろ便利なものが出てきましたが、一般庶民には難しい理屈を言っても分かってもらえません。それは損か得か、面白いか面白くないかで動くものなのです。

大阪と聞けば、都会と思われる方が大方でしょうが、
そんな大阪にも京都と接する山間に過疎の村があります。
この村は大昔、室町時代にかの有名な一休さんが若い頃、滝に打たれ
御堂にこもり、ただひたすらお経を唱え修行に励んだという伝説のある村です。
この村にケーブルテレビが来ることになったのです。
推進委員は、この村の数少ない若者、と言っても、30はすぎてますよ、
で、この前の選挙でお父さんの後を継いで村長になった新造と奥さんの夢子です。
新造は一生懸命に仕事もしますし、市役所で働いていたので経験もあるのですが、二代目のせいか優しい性格で頼りなく見えるのがマイナスでした。
でも、それを補うのが奥さんの夢子で、超強気で新造を後押ししています。
二人は村の家々を回覧板を持って回りました。
「村の公民館で、ケーブルテレビ説明するから来てな」
と優しく新造が言っても、なかなか村人は興味を示しません。
そこで、夢子が
「来ないと一生の不覚かもしれませんよ」
と付け加えると、
「ふんじゃ、行くわ」
と言ってもらえるのです。それでも、どの家も、ケーブルテレビなんか知らないし関心もない爺さん婆さんばっかりで・・・
「ええ・・・ケーブルテレビって、どんなテレビや」
「うーん・・・大きなテレビかなあ・・・」
「いや、今の世の中、何でも小さくなるから・・手の平に載るチーコイチーコイのや」
さて、公民館に村中の人が集まりました。みんなの前には
村で一番大画面のテレビが置いてあります。
うしろでは、村の子供たちが走り回っています。
新造は前に立ち話はじめました。でも、村人たちは
「おい、そのテレビ、去年、村の予算で買ったテレビやないか」
「それがケーブルかあ?」
「おい、それでインター何とかってのも見えるんか」
「ほんまにアンテナなくても映るんか?」
と、まあ、こんな感じで村の皆さんは勝手なことばかり言って、
なかなか話を聞いてくれません。新造が困り果てていた時、
思わぬ助け船が入りました。どこの子でしょうか?小学校1年生か
2年生くらいの後ろで遊んでいた男の子が
「ジイもバアも知らんねんのお・・町のイオンの1階になあ・・
アイスクリームやたこ焼きが売ってあって・・・ベンチがあるやろ。その前の壁に、ぎょうさんテレビがくっついとるやろ。あれがケーブルテレビや・・よーおぼえとけ」
と叫びました。その話を聞いて、ブツブツ言ってた村のオジさんもオバさんも爺さんも婆さんも、手を叩いて笑いながら
「ボク・・・よー分かったで・・ボクは先生やなあ」
アハッハハ・・・とあっちからもこっちからも笑いが漏れて、
何とか説明会を進めることができたのでした。
 「やれやれ・・・」
みんなが何とか納得して帰ってから、ほとほと疲れてしまった新造です。
「どこの子、あの子?」
「あああ・・・たぶん、民造さんの孫や・・・」
「あれがなかったら、どうなったことか・・あなた村長なんだから
もっともっと強気でないと」
「ほんまや・・・まいったなあ・・ケーブルテレビって、
  どんなテレビって言われてもなあ」
「村の人なんて、そんなものよ。それを情熱で、まとめるのよ」
「それにしても、チャンネルが増えるだけじゃないかって・・
 がっかりしてた爺様もいたし・・・インターネットもスマホも、どうでもいい。電話があればいいって老人が大多数やもんな」
「でも、この申込書見てよ。ほとんどの家で申し込んだわ」
「夢子の一言が効いたんだよ」
「そうかしら・・・普通なら15万円かかる工事代金が
   今、申し込むと1万5千円って話・・」
「あとで、やっぱり、うちにも引っ張ってくれって言われても
   15万いるからね・・・って夢子が言った途端、みんな書いたんや」
「そうよね・・・IT革命とか言われてるけど・・・一般庶民は
  損か得かよね・・」
「でもな・・俺は村の為には、そんな村の人たちをも納得させなあかんのや・・」
「そうよ・・あなたを二代目ってバカにする爺さん婆さんをあっと驚かせてやるのよ。次は、一流ホテルかスーパーマーケットでも誘致しますか?」
「いっしょに交渉に行ってくれる?」
「いいわよ・・ヒルトンでもマリオットでも。これでも、あなたの奥さんですから」
「じゃあ、まず、コンビニからやな・・・」
「もう・・」
相変わらず、夢の小さい新造の言葉にガッカリの夢子でしたが・・
とにもかくにも、この村のほとんどの家にケーブルテレビが
やってくることになりました。

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