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システマ随想 第三回 「理想的なトレーニング」 文/北川貴英

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ロシアン武術「システマ」の公認インストラクターである、北川貴英氏が書き下ろしで語る、私的なシステマについての備忘録。第三回目の今回は、システマの理想的なトレーニングについて語って頂きました。ミカエルはどんな目線で生徒達を見ているのでしょう? そこに武術を学ぶ理想的な関係が見えてきます。

システマ随想

第三回 「理想的なトレーニング」

文●北川貴英



インストラクターの役目は「引き出す」こと

 モスクワでのあるセミナーでのことです。

 ミカエルは最初に1時間ほど指導すると、ジムを出て行ってしまいました。
 別に代理のインストラクターを立てるわけでもありません。参加者をほったらかしにして、執務室に戻ってしまったのです。でも別に珍しいことではありません。セミナー中、ミカエルはしばしば姿を消します。なかでも印象的だったのが、「先端からの動き」を学んだ時のことです。ミカエルは1時間ほど解説をして生徒の一人に実演させると、


「この原理を使って自分なりにエクササイズを作ってみなさい」

と言い残してジムを出て行ってしまいました。

 私はちょっと困惑したのですがあたりを見渡すとほかの参加者はみな慣れた様子で、自分なりにエクササイズを色々と考えています。しばらくして戻ってくると、ミカエルは自分で考えたエクササイズを発表するようにと指示しました。すると次々と手が挙がり、それぞれ考案したエクササイズを発表していました。ミカエルはそれらを見ながら、

「彼はこのような工夫をした。それにはこのような意味がある」

と言った感じで、ひとつひとつ解説したのです。

 個人的な印象なのですが、システマを学ぶロシア人達は原理に関しては厳格なまでに忠実です。でも原理の発展のさせ方は自由奔放で、“誇大解釈じゃないか”と思ってしまうこともあるくらいです。ですから人それぞれやっていることがまるで異なるように見えても、誰もがちゃんとシステマになっているのです。それは彼らが核となる部分だけは外さずにいるからです。

 後日、私は改めてミカエルに尋ねてみました。

「どうしてセミナーの途中で部屋を出たんですか?」

「私がいると私に頼りたくなるだろう? だから私がいない方が各自で色々と考えるようになる。それとみんなにはそれができる、という信頼があるからだよ」


 ミカエルのこうした姿勢は普段のクラスにも反映されています。


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