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カラダのコツの見つけ方 対談/甲野善紀&小関勲 第三回「コツは教えるものなのか」

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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。

 そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。

 十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?

 第三回は、コツを教えることについて。お二人の息子さんとのエピソードを交えつつ、親として、先生として、「教える」ことについて語っていただきました。

カラダのコツの見つけ方

第三回  「コツは教えるものなのか」

甲野善紀、小関勲

構成●平尾 文(フリーランスライター)


「できる」時期が分かるということ

コ2編集部(以下コ2) プロスポーツ選手に武術家、ダンサーや音楽家など実に多種多様な人が、お二人の元へ来られていますね。そういう方々は、今取り組んでいるトレーニングや稽古方法、身体の動かし方などがうまくいっていないから来られているのだと思うのですが、お二人から見て「うまくいっていない人」の特徴とは何だと思いますか。

小関 一つは真面目な人ですね。トレーニング方法にも、身体の動かし方においても、「ちゃんとした情報」というのがまず前提にあって、それを忠実にやろうとする人は、どこかで辻褄が合わなくなって行き詰まってしまいます。実は、コツを掴むことって難しいと思うんです。コツって教えにくくて、最終的に本人が掴むものじゃないですか。

 僕には、小学4年生の息子がいるんですけど、息子が「これ、やってみたい!」となった時に、「彼はどういうふうに取り組んで、どうやってコツを掴んでいくのだろう」、そして「自分は親として、どういう環境を与えてあげられるのかな」と、ちょっと楽しみで見ているんですね。うちの息子は、とにかく消極的というか、すごく慎重なんです(笑)。人から強要、強制されるのも特に苦手なようです。だから親としては、子どもが何かに興味を持ったら、本人が興味をもったところを大事にしながら、どんどんやらせてあげたいっていうスタンスで妻とも話をしているんです。

 例えば、子どもが自転車の乗り方を覚える時、普通は最初に補助輪がついている状態で乗って、慣れてきたら補助輪を外した状態で乗りますよね。確か随分前、甲野先生が教えてくださったのですが、自転車に早く乗れるようにするには、補助輪とペダルを外した自転車に乗って、足で地面を蹴って前に進むようにしたらいい、と伺いました。今でこそ、補助輪とペダルのない自転車が商品として売られていますが、当時はまだそんな自転車はなかったので、「なるほど!」と思ったのを覚えています。だから、「子どもができたらこの方法でやろう」と思っていたのですね。ところが、意に反して、それもしなくてよかったんです。

 息子が4歳くらいの時、近所の子たちが補助輪なしの状態で「自転車に乗りたい」と言って、近所中をバンバン走り回っているんですね。そうすると、息子も彼らに付いて行くんですけど、補助輪がついている状態だとスピードが遅くて置いていかれるわけです。息子もだんだん「自分も補助輪なしで乗りたいな」と思ってきて、ある時、「パパ、補助輪を外したい」と言うので、僕も「いいよ」と言って外してあげたんですね。「とうとう自分の出番かな」と思って、ちょっと期待していたんですけど。(笑)

コ2 (笑)どうなりましたか?

小関 補助輪を外し、息子がペダルに足をかけて漕ごうとしても、やっぱりバランスが崩れてしまう。苦戦すること数分間、首をかしげて—息子はコウタロウというんですけど—自分で「コウちゃん、まだ早いな」と言ったんです。「もう一回(補助輪を)つけて」と言ったので、僕も「いいよ」とまた補助輪を付けてあげたんですね。

 それから数週間後か1か月後、僕の妻の実家でまた「外す」と言ったそうです。その時、僕は現場にいなかったので、じいちゃん(義父)に補助輪を外してもらったと聞きました。最初は、じいちゃんに背中を押さえてもらっていたみたいですけど、その一回ですぐに補助なしで何の支えもなく乗ったそうです。別に転んだりもせず、誰かに「こうだよ」と教えられたというわけでもなく、乗れた。だから、

 子供は自分で「できそうかな」という時期が分かるのかなと思いました。

 ただこちら側がそこまで見守ることができるのかという問題です。

コ2 自分に何ができて、何ができないかを自得するのを待つわけですね。

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