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鈴木秀樹の『エクレアと人間風車』 第三回 フィジカルチェスの教授法①

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来る1月19日より日貿出版社より『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を上梓する現役プロレスラーの鈴木秀樹さん。鈴木さんは“人間風車”の異名を持つ、名レスラー・ビルロビンソン氏より、キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)と呼ばれる、プロレスの源流ともいえるレスリングを学び、現在フリーのレスラーとして、様々な団体で活躍しています。

そこでコ2【kotsu】では、『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の出版記念集中連載として、鈴木さんにビル・ロビンソン氏とCACCについてお話しを伺いました。

第三回目の今回は、実際に鈴木氏が体験したロビンソン氏の教え方についてのお話です。

『エクレアと人間風車』

第三回  フィジカルチェスの教授法①

語り●鈴木秀樹

構成●コ2【kotsu】編集部


飽きるほどの基本

CACCを初めた頃、ほんとうに繰り返しやったのは構えとステップですね。

宮戸さんの「前!右!左!」という号令に合わせて、構えを崩すことなく移動するんです。ずっと「なんだこれ」って思いながらやってましたよ。「レスリングでもなんでもないじゃん」って(笑)。スラムダンクの三井くんじゃないですけど、「先生、レスリングやりたいです」ってずっと心の中で言ってましたね。技のほうが見栄えが良いし、楽しいじゃないですか。

でも、今になるとこれが全てだって分かるんです。

自分がレスリングをやる時は、構えとステップにものすごく助けられている。今でも人前では絶対にやらないですけれども、試合直前でも構えたりステップしたりしてますからね。これが身についてくると、技がうまくいかない時になにが悪いのか、自分で確認することができるんです。すると大体、足の位置が悪かったり自分のバランスが崩れたりしている。

ロビンソンに教わる時もそうです。

習った技が全然できなくて「こんなの、俺にはできないよ!」って思ってると、ロビンソンが「足をここに置いてみろ」とほんの少しだけずらしてくる。「そんなので変わるわけないだろ」と思いながら言われた通りにしてみると、うまくいくんですよ。それまでガッと引っかかっていたのが、すーっと技がかかるようになる。そういうのを教えるのがとてもうまかったですね。そういう時にロビンソンみると、自分の頭をちょいちょいと指で突きながら、思い切りドヤ顔してるんですよ。で、「お前は頭を使っていない」と。それがムカつくんですけれども、言い返せないですよね。だって言う通りにすればできちゃうんですから(笑)。

2008年11月デビュー直前の頃、ロビンソン先生に指導を受ける鈴木氏。

スパーリングでの指導

ロビンソンの教え方はまずスパーリングをやらせて、ダメなところにきたらストップがかかって。「そういう時にはこうやるんだ」と教えてくれるんです。とにかくスパーリング。ライレーもそうだったって言いますよね。スネークピットジャパンではゼロから教えるという方針だったので、技術をやってからスパーリングでしたけど。ロビンソンはスパーリングを重視してました。生のリアクションがあるからです。型通りのことなんて起こらないわけじゃないですか。だから毎回、全部違うんですよね。そういうリアクションを大事にしてました。

あと「やりきる」ってのもロビンソンに言われましたね。立って、向かい合うまでがイーブンだから。だから立ってほっとしたらダメなんですよ。「その瞬間投げられるぞ」、と。 でも技を個別に習うわけじゃないんです。技の名前とかもあまりない。例えば「組め!」と言われて組んだら「リスト!」と言われる。で、手首を掴んで、「ヘッドアップ!」と言われたらそうする。そんな感じですよ。で、「アームドラッグ!」と言われて、唐突に「ゴー!」と言われる(笑) ただの「ゴー!」ですよ。意味がわからないから「え?」と聞き返したら「ゴー!!」と怒られて。それでもわからないから「何?」って聞くと「サルト!」と。それで「サルトか」と納得して投げる。そういう感じですよ。

技の名前なんてなくて、ただ「ゴー!」なんですから。犬じゃないんだぞと。でもそういう感じの教え方です。そういう風に流れで教わったので、僕もテクニックを分けて考えるということはやりませんね。だから、こうきたらこう行かなきゃいけない、というのはないんです。腕を引くにしてもいろいろな引き方がありますから。そういうのに応じられるようにしていくんです。

僕は毎回、井上学さんや他の人とスパーリングしてましたけど、子どもや女性会員ともやりました。ロビンソンにも言われるんです。ちっちゃい子とやれって。ふざけてやってると怒られました。お互いに間違いを覚えるからって。だからもし僕が子供にテイクダウンされても、手順通りちゃんとディフェンスポジションになってから立てと。そこを適当にやると怒られましたね。

小学生相手の練習はよくやりました。僕にとっても良い練習になりましたよ。力を抜いて練習できるから、怪我させないように正しくやらざるを得ないじゃないですか。大人だと多少、雑でも大丈夫だけど、子供が相手だと怪我をさせてしまいかねない。その上、相手もちゃんとした動きを覚えないのから意味がなくなっちゃうんです。でもたまに遊びでアルゼンチンバックブリーカーとかやったりしましたけどね。

女性会員さんとも同じようにスパーリングをしました。看護師さんがいたんですけど、ものすごい負けん気なんです。僕に対してはそうでもないんですけど、他の会員さんに対しては負けないんですよ。力も強くて、男性会員を相手にタックルとったりしてました。まだいるんじゃないですかね。気持ちが強い人なんです。そういう執着心は女性の方があるような気がしますね。男って諦める時、わりとあっさりしてるじゃないですか。もういいやって。

後の方ではロビンソンのアシストで指導に回るようになったんですが、何も経験のない人の方が早く強くなりましたね。“CACCってこういうもんだ”って素直に覚えてくれるから。体力的にはきついかも知れないですけれど、技術的には早かったです。むしろレスリングとかの経験がある人は、そっちの癖を抜くのになかなか苦戦してました。

ロビンソンはプロ志向の人に対しても、女性や子供、余暇で通ってる人に対しても教え方を変えることはありませんでした。同じ技でも人によって足の長さや体格に合わせて、微妙に教え方を変えるんです。それを誰に対してもやるんです。そこのところはさすがでしたね。

(第三回 了)

書籍『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』

鈴木秀樹さんの初の著書『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』が、現在、全国書店、Amazonで発売中です。

著者●鈴木 秀樹(Hideki Suzuki)

すずき・ひでき/本名同じ。1980年2月28日生まれ、北海道北広島市出身。生まれつき右目が見えないというハンディを抱えていたが、小学生時代は柔道を学ぶ。中学時代にテレビで見ていたプロレス中継で武藤敬司に魅了され、プロレスの虜になる。専門学校卒業後、上京。東京・中野郵便局に勤務。2004年よりUWFスネークピットジャパンに通うようになり、恩師ビル・ロビンソンに出会う。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学び、2008年11月24日、アントニオ猪木率いるIGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年よりフリーに転向。ZERO1やWRESTLE-1、大日本プロレスなどを中心に活躍。191センチ、115キロ。

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